第5話 まずはゴブリンと思ったら
翌朝、俺は冒険者ギルドに来ていた。
ここでストさんと待ち合わせしているのだ。
5番を見るとカーテンが閉じられて見える所は綺麗になっていた。
流石にあいつを放置するとは思えないので中も綺麗なのだろうが。
そんな風に時間を潰していると…
「すみません!エイジの街ってここですか?」
茶色の帽子をかぶった、犬の獣人の少年に声をかけられた。
その後ろには小さい女の子もいる。
兄妹なのだろう。
だが…
「ここはリュッヘル王国のセントの街だぞ。」
そうここはエイジの街ではない。
エイジの街は…
「2つ山を越えた向こう側だ。」
兄の方でも、10歳ぐらいなので二人での山越えはむりだろう。
そう判断して、俺はわざと遠回りの道を教えた。
「あの馬車に乗るとペンテルって街に着く。そこで馬車を乗り継げばいい」
「ペンテルって僕たちが来た街じゃん。」
少年がそう呟いた。
後ろの少女が小声で、
「お兄ちゃんは二人に確認しないと迷うって言ったでしょ」
と言っていた。
どうやらこの少年は方向音痴らしい。
「「ありがとうございました」」
「じゃあな。」
そう言って別れる。
他の人に聞かなければいいんだが。
街の人だったら絶対あっちを答えてしまう。
無事に到着できるといいが、一抹の不安が胸をよぎる。
★
「あまたせしました。」
「いえいえ」
ストさんは少し不清潔だったのだが、上質そうな鎧に身を包んでいる。
ギルドの中では、
「あの子誰だ?めっちゃ可愛いじゃねぇか!」
「隣のやつは誰だ?もうあいつの女なのか。」
「あれって5番の受付嬢じゃだろ!」
「そんな訳あるか!ガハハハハハハ!」
そんな訳あるんですけどね。
しかしすごい人気だ。
シャンパンの匂いが消えた併設された酒場に居る冒険者がストさんの話で持ちきりだ。
「あの男のせいで離れてた冒険者も戻ってくれたんですよ。」
と、ストさん。
あの男、意外と悪い奴だったようだ。
そんなことを考えていると、ストさんが
「エイスさん、今日は依頼を受けに来たんですよ。」
そうだった。
「ふふふ意外と可愛い顔するんですね。」
「ヌグッ!」
「それとか」
不覚にも可愛いと思ってしまった。
微妙な美人なのに。
俺はただ可愛い人とは付き合わないようにしているのだ。
関係はハプニングを呼ぶとも言うしな。
冒険者ギルドでは基本依頼はボードに貼り付けてある。
その依頼を窓口に持っていくのだ。
Gランクだと清掃とか薬草集めとかなのだがDランクとなるとそれなりの依頼が受けられる。
しかし今日は初めてなので、
「ゴブリン谷にしますか。」
「そうだな。」
ゴブリン谷はひとつ山を越えたところにある。
意外と近く日帰りも可能だ。
ゴブリン谷に行くことになった。
1時間ほど馬車に揺られたどり着いたのは谷。
すぐ近くに下に下りる道があり、5kmほど進んだ所に上に登る道がある。
その先には町がある。
3日ほどいる予定なので馬車は街へ返した。
さぁ冒険開始だ。
★
「ピギャァァァァ」
ゴブリンが倒れる。
谷に来て1日が経っていた。
ランク証の機能を使って倒した敵の数を見ると1000匹。
ここはゴブリンの大所帯があり一瞬で超えてしまう。
「それにしても強いですねエイスさん。」
「いえいえ、ストさんには遠く及びませんよ。」
ストさんのメインアーマは弓なのだが近距離でも使っているし、遠距離だと5本一斉に放って全部頭に当てたりする。
人間の域を超えていた。
「それにしてもさっきから子供のゴブリンばかりですね。」
通常、ゴブリンは6日ほどで成体になるので珍しいはずの子供ゴブリンがたくさん出てきていた。
「ああ、巣穴なのかもしれないな。」
俺たちは、つい先程雨が降ってきたので横穴に入った来ていた。
それにしてもこの横穴大きく水はけもいい。
周りを見ていると、
「あれは…」
「どうしました?」
「まずい!」
俺は洞窟の奥に向かって走り出した。
「本当に、どうしたんですか?」
「走りながら説明する。ついてきてくれ。」
あの茶色の帽子は…あの獣人の少年の。
やっぱりこっちの道に来てしまったか。
実はエイジの街はここを通れば2日で行ける。
ただそれはDランク冒険者以上の護衛がいた場合だ。
おそらくよく理解していない街の住人が教えたんだろう。
(こんなことになるならついて行けば…)
もうその後悔は遅かった。
しかも、エイスにはもう一つ急がねばならない不安があった。
茶色の帽子には針が刺さっていた。
あの帽子に刺さっていた針は…
魔物が使う数ある特殊能力のうちその特殊能力を使う魔物はただ一種。
ゴブリンの王ゴブリンキングだ。
楽しんでいただけたら幸いです。