第一話 マジレスすると
情報社会と化した本国、日本は多種多様な「誤用」に満ち溢れていた。
中の上程度の高校生活を送る佐舞里 実成はそんな誤用が蔓延する日々にうんざりしていた。そして彼はこの現状を打破すべく、国を相手に一石を投じようと日々特訓を重ねていた・・・
「んなわけねぇだろ。」
あ、やべ。やってしまった。よりによってこいつがいるときに独り言を言ってしまうとは。
「おい、またこいつなんかいってんぜ。またお得意の『マジレス』ですかーい?」
こいつは同級生の籐戸 炉冶。一言でいえば馬鹿だ。中学2年の時に取った社会の46点を境にこれを上回る点を取ったことがないらしい。
「ちげーよ。なんか、こう、頭にへんな声が聞こえてきてさ。」
「は?もうおまえ末期だな。いっかい頭みてもらえよ。」
そっくりそのままお返しする。
「しかしよぉ、高2になってなおさら勉強わかんなくなっちゃったわ。俺だってよ、馬鹿のままじゃいられねぇと思って塾行ったり、勉強のアプリとかいれてんだぜ?けどよぉ、全然点数あがらねぇんだよ。」
初耳だ。
「はぁ、加えて部活も忙しくてよ。もう取り付く暇がねぇよ。」
「…炉冶。今、なんて言った?」
俺は笑みをこらえるのに必死だった。
「は?だから、忙しくて取り付く『暇』がねぇって。」
言い忘れていたが俺の好物は「マジレス」である。蔓延する誤用に真の答えを教えてやる爽快感は他に類を見ない。
だが、俺は大多数にずけずけとものを言えるほど強力なハートは持ち合わせていない。だからこうして、誤った表現を乱用する大多数に属する少数の誤用を見つけてはマジレスしているのだ。おかげで友人は10本指を往復するほどもいない。
「マジレスすると取り付く『島』もない、だぞ。まぁ、安心しろ。最近の調査では50%弱の人たちが本来の言い方ではない表現を用いているらしいからな。恥ずかしがる必要はない。今から改めればいいのさ。」
ふふんと漫画宜しく鼻息を軽く吐き、俺は得意顔になっていた。
「うぜぇ。」
彼はあまりにも短い捨て台詞を吐いてどこかに行ってしまった。
マジレスの快感に目覚めて1年。事あるごとに彼を論破して溜飲を下げ続けてきたが、彼との間に亀裂が入るのも時間の問題かもしれない。
あ、マジレスすると「溜飲を晴らす」という表現は誤りである。正しくは俺が使った「溜飲を下げる」である。
…俺は嫌われたいわけではない。