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二回表 アラフォーOLの私の部屋にイケメンを連れ込んでみた

 多分、本当に頭が働いていなかったんだと思う。仕事の疲れのせいもあるし、外が寒かったのもひとつ。

 わたしの後ろをついて歩く青年はなんかきょろきょろしてて落ち着きがない。日本人では、ないわな。言葉がまず違った。全然違う国の、全然違うひと。身長高い。髪の毛さらさら。そしてイケメン。

 というか連れてきてしまったのはちょっと迂闊だったのではなかろうか。でも放っておけなかったんだから仕方ない。いろんな言い訳が頭に浮かんでは消えていく。

 オートロックのマンションのカギを開けて、自動ドアが開くと彼はびくっと跳ね上がった。どうかした? ていうかそんなに驚かなくても。

 そうなんだよね。なんていうか、ずっとおっかなびっくり、というやつだわ。この反応は。

 こんな派手な出で立ちをしているのに、相当なド田舎から来たというやつなのかなぁ? 謎。謎が深まるばかり。

 でも顔はいい。すごくいいんだよ。

 自分の家の前について、ドアに手をかけると少し彼との距離が開いているのを感じた。……何かあったかな?


「どうしたの?」


 聞くとふるふると首を横に振って否定をする。うん。これは多分否定であってるはず。わたしも分からない言葉を理解するのはあきらめたのもあるけど、彼の眼の動きや仕草でなんとか彼が伝えようとしていることを読み取ろうと頑張る。頑張ってます。


「おいで」


 手を掴むと思いのほかゴツゴツとして大きな手をしていることに驚いたけど、そこは平常心平常心。なんとか気持ちを抑えて、そのまま引っ張る。彼はまたおずおずと付いてくる。

 ドアのカギを開けて部屋の中に入ると、いつものほっとする我が家の匂いがして何だか安心した。なんていうか、今日はいろいろとありすぎる。

 そのまま手を引いてあがろうとして、はた、と気づいて彼の足元を見る。そうだよねー。靴履いてますよねー。


「えっと、靴、脱ぐ。あー、どう伝えたらいいのかな、えーと、こう、する」


 ぽいっと自分の靴を脱いで見せる。彼はそれを見て、恐る恐るといった調子で自らの靴を脱ぎ始めてくれた。欧米の人は靴脱がないもんね、家の中でも。こればっかりは申し訳ないけど、郷に入っては郷に従えしてもらうしかない。靴のままあがられると後片付けが面倒。うん。それだけだ。理由なんて。


「どうぞ」


 おいでおいで、と手招きをして、はた、と欧米といえば手招きが逆の意味を持つ国もあるんだったか? とか思ったけど、もうしちゃったものは仕方ないし、彼はそのまま付いてくるのでよしとする。うん。


「ここ、座って?」


 椅子をひいて、座る場所をぽんぽんと叩くと、大人しく座ってくれた。なんだろうなぁ、なんていうかこう懐かれている? そうじゃないか。きっと、不安なんだろうな。


「ちょっと待っててね」


 本当は家に着いたらストッキングを脱ぎ散らかして、すぐにラフな格好になりたい派のわたしだけども、今夜ばかりはそんな贅沢は言っていられない。だってお客様がいますし、異性でしかもイケメンですし?! 何遍言うのかってくらい言うけど、申し訳ないけど好みのタイプのイケメンが目の前に居たら居住まいを正すのは仕方ないっていうか、しょうがないよね! 誰に言い訳してるか分からんけども。

 冷蔵庫から牛乳パックを取り出して、マグカップに注いでレンジに入れる。ブン、と起動する音がしてはっとして彼が振り返った。わたしはそれに気付かない振りをして、リビングに置いてある収納の中からついこの間通販で買って、間違えてメンズサイズしかも一番大きいやつを選んでしまったスウェットの上下を取り出す。うん。これならいけるんじゃないかな?

 勝手に納得して頷いていると、ピーピーと音がしてレンジが温まったのを教えてくれた。わたしは手にしたスウェット上下を軽くたたんでソファの上に置くと、レンジまで戻ってマグカップを取り出す。あちち。


「蜂蜜入れても大丈夫かな?」


 わたしはホットミルクにはそうする方が好みなんだけど、男の人は分からないもんねー。実家にいる年の離れた弟は甘党だから喜んで入れろと言うだろうけど、ひとまずカレースプーン一杯分だけすくって入れておく。ティースプーンでちまちまとか性に合わないんだよね。がさつ、と言われるわけだわ。ははは。


「はい、これ」


 とん、と彼の目の前にマグカップを置くと、彼はわたしとマグカップの中身を交互に見て不安そうにしている。はっ! これは毒入りとか思われた? いや、どうしたらいいか? ってことなのかな?


「大丈夫だよ。これは毒とか入ってないよ」


 マグカップの中身を一口飲んで見せて、はい、と彼の手に持たせた。彼はもう一度わたしとマグカップを交互に見て、それからマグカップの中のホットミルクに恐る恐る口をつける。それから目を輝かせてごくごくとそれを飲み干した。おお、いい飲みっぷり。

 ぷは、と大きく息を吐いて、それからわたしの視線に気づいたのか、照れくさそうにイケメンが笑った。イケメンは笑顔の攻撃力も高い。胸がきゅんとした。餌付けしてる気持ちだな。でも正に今がそうか。


「わたしは、理央奈。りーおーな、だよ」


「……リオナ?」


「そうそう。貴方の名前は?」


「あーた、なま、え? ……カイル」


「カイルくんかー」


 そーか、そーか。ひとまずコミュニケーションがちょっとだけ進展したぞ?

 ほんの少し警戒心をやわらげたカイルくんを見ていたら、わたしのお腹がくぅと鳴った。そういえば何も食べてなかったんだった。軽くだったら彼も食べるかな? アラフォーがさつOLの底力、見せてやろうじゃないですか。

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