一回裏 取り柄のない青年は異世界へと転移する
その世界は、スキル至上主義といっていい世界だった。
どれだけ優秀なスキルを持っているかどうかで判断される。
それだけが唯一無二の絶対な価値だと思われていた。
年齢が七歳になると、教会でスキルの確認をされた。俺が持っていたのは「超学習」というスキルだった。
習えばなんでも覚える。どんな技術でも吸収して自分のものに出来る。
レアスキルではあったが、こんなど田舎の町ではただの宝の持ち腐れだった。
十五歳の時、俺は憧れの冒険者になった。
剣を教えてもらって、魔法を教えてもらって、ぐんぐん覚えて有頂天になっていた。
慢心した俺は、背中に大きな傷を負った。残念ながら治癒魔法を教えてもらうことはなかったので、傷は残ってしまった。
そして、冒険者を引退することになった。
小さい頃からの夢がなくなって、俺は絶望した。
それでもたまたま王宮の下働きで料理を教えてもらって、どうにか食べることと寝るところには困らなくなった頃、それは起きたのだ。
料理長に呼ばれるまま、重厚な扉の向こうに通され、衆人環視の中、魔法陣の中に立たされた。
「何でですか?!」
「お前と引き換えに異世界から勇者を召喚するのだ」
「俺と?!」
「お前のレアスキルと引き換えならば、強い力を持った勇者を呼べるだろう」
俺はつまり、捨て駒となったわけだ。
置換法と言うらしいその召喚方法の贄となって、俺は意識を失った。
「たすけて!」
自分の悲鳴で次に目が覚めた時、俺はまったくの見知らぬ世界にいた。
よくわからない材質で出来た建物、よくわからない材質で出来た床(?)。
ごちゃごちゃの何かの上に倒れていた俺は、人の気配で目を覚ましてその光景に唖然とした。
(これが、異世界?)
そんな俺を見つめる妙齢の女性がそこには佇んでいた。
長い黒髪はまっすぐで絹糸のように滑らかで風にさらさらと流されている。瞳は黒曜石のような黒。服は見たこともないもので、女性だというのに膝が出るような衣服はどうかと思った。
「誰だ?」
多分、異世界人だとは思う。人差し指で彼女を指さしながら問うと、その指をぎゅっと掴まれた。
「莠コ繧呈欠縺輔☆縺ョ縺ッ濶ッ縺上↑縺�」
全然分からない言葉で、彼女は俺を見つめる。ちょっと怒ったような顔をしている。
そうか。俺の言葉が彼女には分からないのか。どうしたらいいのか分からなくて困惑していると、彼女がその手をぱっと離した。綺麗な指だった。きっとやんごとなき身分の女性に違いない。
「俺は、迷子なんだ」
そして口をついて言葉がぽろりと零れた。
涙も一筋、頬を伝って落ちていった。
「縺医▲縺ィ縲√≠縺ェ縺溘�險闡峨�蛻�°繧峨↑縺�¢縺ゥ」
彼女は困ったように首を横に振りながら、また何か分からない言葉を口にした。
ああ、本当に、どうしたらいいんだ。
俺は贄だから、こうしてこんなひどい目にあっているのか。
「繧ゅ@繧医°縺」縺溘i縲√≧縺。縺ォ譚・繧具シ�」
そして、彼女は俺に手を差し伸べた。
この世界でも、そうなのかどうか、不安は残っていた。
でも、やさしく微笑む彼女のことを、俺は信じてみようと思った。
こくんと頷いて、その手を取ると彼女は少し嬉しそうに笑った。
自分の背よりも頭ひとつぶん小さい彼女は、きっと俺よりも年下だと思う。
そしてその日俺カイル・マクレナンはひとりの少女に出会った。
この出会いが、俺の波乱万丈の人生をさらに嵐に巻き込んでいくとは知らずに。
表と裏で、ふたりの心情をそれぞれ描写してみるという試み。
続けられるかどうかは別として、こういうのも面白いかなぁと思ったのです。
日本語部分はイクナガツールズさんの文字化けさせるツールで敢えて文字化けさせました。
異世界の言葉なんて、きっとこんな感じで何言っているのかわからないんじゃないかと思ったので、雰囲気だけでも伝わったら幸いです。