私こそが三億円事件の真犯人です ~とある金星人の告白~
私はエリナ・松丘・シューゾー。名前からお分かりの通り、生粋の金星人です。
今から五十年ほど前、金星から円盤に乗って地球にやって来ました。
当時、何事も形から入るタイプだった私は、刑事ドラマを参考にして警官に変装し、偽装した白バイで都内を走り回って、地球人の生態を調査していたのです。
ある雨の日のこと、私はたまたま見かけた現金輸送車を面白半分に呼び止め、
「この車には爆弾が仕掛けられている」
などと嘘をつき、たまたま持っていた発煙筒にたまたま持っていた光線銃で火を点け、爆弾を発見した様に装い、乗っていた人間を全員降ろしてから、車を安全な場所まで移動させるフリをしてその場を去りました。
さて、こうしてノリと勢いに任せて現金輸送車を奪い取ったものの、これからどうしようか、と私は苦悩します。
そのまま車を爆破してもよかったのですが、自分がその爆発に巻き込まれたらものすごく危ない、という事に気付いたのです。
とりあえず、人気のない所に車を止め、積んであったジュラルミンケースから札束を取り出し、たまたまそこを通りがかったヤギに全て食べさせ、よくある普通の動物による食害事件に見せかける事にしました。
が、ヤギに札束を食べさせながら、私はふと我に返ります。
「このまま現場を立ち去ったら、誰か他の無実の地球人が犯人にされてしまうかもしれない」
五秒考えた末に私は、
「この事件の真犯人が地球人ではなく、金星人である事を明白に示す証拠を残そう」
と決意しました。
空になったジュラルミンケースの中に、私はあるメッセージを残す事にしました。アルファベットの「B」の形に並べたたくさんの小さなナスです。
Bの形に並べたナス。
Bのナス。
Bナス。
ビーナス。
そう、地球の言葉で「金星」を意味する「ビーナス」です。これがあれば、真犯人が金星人である事は一目瞭然でしょう。
この様な分かりやすいメッセージを現金輸送車に残すと、私は円盤へ戻りました。
ところが、金星にいる上司に電話で今回の件を報告したところ、
「君、ビーナスは『B』じゃなくて『V』だよ。『Venus』ね」
と痛恨のミスを指摘されてしまったのです。
その場は笑ってごまかしたものの、受話器を置いた私は恥ずかしさのあまり、しばらく円盤の中を悶え転げ回りました。
さらにそれから数日後、私は道端で拾った新聞を見て愕然とする事になります。乗り捨てた現金輸送車は事件当日にすぐ発見されていたものの、そこに私がわざわざ残しておいたナス入りのジュラルミンケース、略してナス入りジュースがきれいさっぱり消えていたのです。
ナス入りジュースはそれから約四ヶ月後に別の場所で発見されましたが、中に入れておいたナスがどうなったのかは、残念ながら知る由もありません。仮にそのままだとすれば、ドロドロに腐って文字通りジュースになっていた事だけは確かです。
この他にもまったく身に覚えのない証拠や証言など不可解極まる偽装工作が多々ありましたが、全ては金星人の存在を隠蔽しようと企むNAS○の陰謀に違いありません。ナ○だけに。
あれから五十年。言おうか言うまいか悩みに悩みましたが、ようやく思い切って告白する勇気が湧きました。
今こそ、声を大にして言わせて頂きます。
「『B』と『V』の発音の違いなど、日本語においてさほど重要ではない!」
と。