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蒼空の彼方へ  作者: FM
3/3

第3話海洋を制すは黒鉄の城

大変長らくお待たせしました。第3話です!今回は初めて文字数が約20000字になりました。長くなってしまいましたが最後まで見ていってください。

偵察任務から5日後の4月16日、午前11時43分。本日は晴天なり。高度5000メートル辺りに真っ白な雲の絨毯が広がっている。現在サパン基地から東南に10キロ行った海の上を飛行していた。

《よーし。秋元、制限時間内に俺に弾を当てるか俺から逃げ切れたら訓練終了だ。いいな?》

無線機から隼人さんの声が聞こえて来る。俺は隼人さんの乗っている疾風の位置を確認しながら操縦桿とスロットルレバーを握る手にもう一度力を込めて返事をした。

「はい!」

《ふっ、それじゃぁ来いッ!》

俺は操縦桿を倒して機体を下に向けるとスロットルレバーも倒して一気に降下して行く。隼人さんは俺の下を飛んでいるので上から急降下して攻撃するつもりだ。隼人さんとの距離はそんなに離れていなかったので直ぐに距離は縮んで行く。照準器には隼人さんの乗る疾風がバッチリ入っている。このままあともう少し接近すれば俺でも当てることができるッ!


《そう簡単に当てれると思うなよ?》


「あっ⁉︎」


隼人さんは当然右に急旋回した。俺も慌てて機体を右に旋回させて追おうとしたが、高速で飛んでいる疾風は動きが鈍くなるようで急降下で670キロまで速度が出ていた俺の疾風は隼人さんの急旋回について行けずそのまま下に通り過ぎてしまった。すぐさま操縦桿を引いて機体を急上昇させる。速度が出ていたためにからだにかかるGが凄いことになる。


「ぐァッ・・・!」


そのGに耐えきれず俺は急上昇させるのをやめて機体を20度だけ傾けて緩やかに上昇させた。その間隼人さんがどこにいるかを急いで確認すると、なんと俺の真後ろにいた。あ!撃って来たッ!


俺は機体を右に急旋回させて回避する。幸い隼人さんとの距離は離れおり、こちらに弾が飛んで来るまで少し時間がかかったのでギリギリ避けることができた。しかし演習用の塗料弾と分かっていても俺に向かって飛んで来る塗料弾と緑色の曳光弾は恐ろしいな。俺は機体を旋回させながら後ろを振り向き隼人さんの位置を確認する。ピッタリと俺の後ろに張り付いてた。今撃たれたら間違いなく俺は被弾するだろう。そこで俺はあ。ることを思いついたのでやってみることにした。右に機体を90度バンクさせてからすぐさま操縦桿を思いっきり引いて機体を宙返りさせた。右旋回していた機体がいきなり宙返りするんだ、これで隼人さんが撃っても弾は当たらない。予想通り隼人さんの撃った弾は何も無い空間を飛んで行き、俺には掠りもしなかった。


《お?やるじゃねぇか》


首を上に向けて隼人さのいるであろう空間を確認すると、右旋回を辞めて距離を取るために俺から離れて行く疾風がいた。俺も宙返りをやめて隼人さんを追う。しかし俺も隼人さんも同じ機体に乗っているため、加速してもなかなか隼人さんに追いつくことができない。そこで俺は最終手段を使うことにした。左下らへんにある小さな四角形の赤色のボタンを親指で押し込んだ。


すると俺の乗る疾風のエンジンが唸り声を上げ、機体は一気に加速して隼人さんとの距離を詰めて行く。俺が今使ったのは二式戦闘偵察機「乱雲」にも搭載されていた水エタノール噴射式出力増強装置と言うもので、一時的にだがエンジン出力が増強される。徐々に隼人さんとの距離が近づいて行き、ついに照準器内に彼の機体が入った。俺はすかさずスロットルレバーに付いてるトリガーを引いた。


「食らえッ!」


《フッ、まだまだだな》


俺がトリガーを引いたとほぼ同時に隼人さんの乗る疾風が左斜め上に旋回し、俺の放った弾をあっさりと避けた。急激に旋回したことにより隼人さんの乗る疾風は速度が落ち、逆に水エタノール噴射式出力増強装置を使ってまで速度を上げていた俺は減速が間に合わず隼人さんを追い越してしまう。振り返ってみると上斜め後ろから無数の銃弾がこちらに向かって降り注いでいた。機体を左下に滑らせて回避を試みる。機体に固いものが当たる音が操縦室に響く。何発か演習弾(塗料弾)が当たってしまったなと一瞬考えたがすぐさま目の前の空戦に集中する。


後方を確認すると水エタノール噴射式出力増強装置を使って急速接近して来る疾風の姿があった。俺はもう一度水エタノール噴射式出力増強装置を使うかと考えたが、エンジンに負担をかけてしまうこの加速装置を何度も使うもんじゃないと言う訓練学校時代の教えを思い出して使うのを躊躇った。取り敢えず旋回して回避するかと考えた俺は機体を右に急旋回させた。が、ただ右に旋回させただけの動きに隼人さんがついてこれない訳がなく、隼人さんは十分に接近した後容赦なく撃ち、俺の乗る疾風の機体上面に赤色の塗料弾をたらふく食らってしまった。




朝早くから続いていた訓練や模擬空戦などが一通り終え、やることがなくなった俺はポケットに両手を入れながらエプロンを1人で歩いていた。まぁ夕方からはまた訓練があるんだけどね・・・。ここサパン基地は南の航空基地と比べるととても平和方な基地だ。前に偵察に行ったグイルランド軍の航空基地が近くにあるものの、あちらから攻撃を仕掛けて来ることはほとんど無いらしい。話によるとあのグイルランド軍に航空基地は5年前にここサパンと北にあるラビラル航空基地奪還(・・)を狙ったリベリアンを中心とした連邦軍が作った前線基地の1つで、今は連日の爆撃と補給路の切断によりかなり弱っているそうだが俺が偵察に行った時は元気よく対空砲ぶっ放していたしスコーピオンも飛んで来たんだよなぁ・・・。でもまぁあの基地には戦略・戦術爆撃機などの航空機はおらずスコーピオンのような戦闘機や偵察機しか配備していないから脅威度は低いのかもな。


5年前連邦軍がここら辺の基地を奪還を狙ったとか言ったが、その理由を説明する と元々ラビラル島や俺達のいるサパン島などはリベリアン軍とグイルランド軍の領土だったのだが10年前から始まった筑後軍の南方方面侵攻作戦でまず狙われたのがラビラルとここサパンだった。最初はリベリアン軍の艦載機相手に当時主力機だった八八式艦上戦闘機や九一式艦上攻撃機などで対抗し、ラビラルを中心に大規模な海戦と空戦が行われた。ラビラルをやっとの思いで占領しても翌日にはまた占領され返されていたりなど激しい戦いだったそうだ。


そんな攻めれず攻められずの状況はいっとき続いたそうだが、九二式艦上戦闘機(とんび)などの新型艦載機の登場や戦略航空母艦「鳳翔」の登場などで筑後軍は優位に立ち、それからはリベリアン軍とグイルランド軍相手に陸海軍協同の作戦で一方的な戦闘を展開し見事サパン島などを含むラビラル諸島を手に入れたそうだ。

現在戦線はさらに南方へと拡大し、今は巨大な油田のあるノリス島などを巡って戦っているそうだ。そしてその前線から離れたここサパン基地は敵機が空襲して来ることも敵艦隊がラビラル諸島奪還の為に強襲上陸して来ることもなく平和そのものなのだ。


と、エプロンを何の考えもなしに歩いていると第103海爆小隊の使っている格納庫の周りが何やら慌ただしいことに気がついた。この「02」と書かれた格納庫には三式艦上攻撃機翔電(しょうでん)を格納している。ここサパン基地を主拠点とする第103海爆小隊は翔電を6機持っておりその内4機を格納庫内に格納して、残りの2機をもしもの時に備えてエプロンにいつでも飛べるように待機させているのだが、今は格納庫から4機全てをエプロンに出しているところのようで、整備士の人達が機体のチェックをしたりしていた。気になった俺は翔電が格納庫から出されて行く様子を眺めている海爆隊員に話しかけてみることにした。


「何かあったんですか?」


話しかけられた男性海爆隊員は俺の方を振り向いて言った。


「ん?・・お前、最近220飛行隊に配属された新人だな?」


「はい、そうです」


「鈴木司令から聞いていないのか?」


何のことかサッパリ分からなかった俺は首を傾げた。すると男性海爆隊員は丁寧に説明してくれた。


「赤城が近くの海域を通るらしくてな、俺達海爆隊は敵潜水艦とかに備えて海域周辺を哨戒することになっているんだ。お前達も出ることになっている筈だぞ?」


なるほど、哨戒任務の為に翔電を出していたのか。て言うか、よくよく考えたらすぐに分かったことじゃないか。対潜哨戒は海爆隊の主な任務の1つだしな。・・・ん?赤城?


「えぇ⁉︎赤城が来るんですか⁉︎」


俺は赤城が近くに来ると聞いて驚いた。


「赤城ってあの戦略空母の?」


「それしかいないだろう。なんだ、お前見たことないのか?」


「雑誌やテレビとかでは何回か見たことあるんですが、生で見たことはないですね」


赤城型戦略空母の1番艦「赤城」、鳳翔に続き建造された筑後海軍の戦略空母で、先程話したラビラル島などを巡る戦いでも強大な航空戦力を持つ主力空母のとして艦上機型疾風と共に奮戦した英雄艦で、筑後海軍が世界に誇る筑後3大艦艇の1つだ。疾風並かそれ以上に知名度も高く、ここ碧落から内地に帰って港に停泊した時なんかは赤城の姿を一目見ようと何百人もの人達が集まる程に人気がある。俺はここに来る前は内陸の方に住んでいたので赤城を見る機会は全くなかった。


「ま、今日赤城を見れるかどうかは分からんがな」


「え?」


「今回の我々海爆隊の任務は対潜哨戒だからその護衛を君達にしてもらうかもしれないからな」


・・・そう言うことかぁぁぁぁ‼︎結局今回も俺は赤城をこの目で見ることはできないのか!


「そう・・ですか・・あははは・・・」


「そう落ち込むな、もしかしたら鈴木司令から赤城の直掩を頼まれるかもしれないぞ?」


俺はテンションの下がった状態のまま否定した。


「それは無いですよ。赤城には四六時中防空駆逐艦とかが付き纏ってますし、赤城を護衛する軽空母には神風しんぷうって言う優秀な艦隊防空用艦上制空戦闘機が載ってますから」


俺の話を聞いていた海爆隊員が少し驚いたような顔をこちらに向けた。


「お前物知りだな」


「ここに来る前は疾風とか長門とかの模型とかばかり作ってましたし、そうゆう関連のものばかり調べていましたから」


「いわゆるマニアってやつか?」


「軍オタとも言いますね」


「良いな。そう言う趣味を持っているってのは。私には趣味と言えるのがなくってな。そのせいでせっかくの休みの日に何もやることが思い浮かばないで何もせずに休みが終わってしまうってのがしょっちゅうある」


ハハハハと笑う海爆隊員。今まで俺の趣味を貶したりする人は何人かいたがこの人みたいに「良いね」と言ってくれる人は少ないので少し嬉しかった。


「まぁ私のような軍オタはあまり良い目では見られませんが」


「そうなのか?逆に人気者だと思ったんだが」


確かにそう思う人も多いだろう。現在我々は碧落と言う世界の広大な領土を巡って戦争中で、内地では毎日のように碧落の戦況などについて新聞やテレビなどで報道されている。しかし、こんな状況でも軍オタは周りの人達から変な目で見られることが多い。おかしなことに内地ではよく碧落のことについて報道されているのに、そこで平和に暮らしている人達は碧落の戦況などをまるでお天気予報でも見るかのような軽い気持ちで見ている。


軍オタではなかった頃の俺もそうだった。中学の頃、俺は目覚まし時計によって6時に起こされると顔を洗って自分で適当に作った朝食を食べながら朝のニュースを見るのがいつもの日課だった。どこどこで強盗事件があったとか、轢き逃げがあって犯人が捕まったとか野球でどこどこのチームが勝ったとか、そう言ったものの後に今の碧落戦線と言う題名のやつが始まり今現在の筑後陸・海・空軍の戦況や近々始まる作戦の内容などを分かりやすく説明されてた。その情報を俺は

右の耳から入れていたがすぐに左の耳から抜けて行って朝食を食い終えて色々準備をして玄関を開けて家から出て行く頃にはほぼ全部忘れていた。


軍事のことに興味を持ってからは熱心にそれを見るようになったが、それは高1の頃の話だった。碧落で行われている戦闘についての話を熱心に聞くのは俺のような軍事に興味を持つ人か、碧落の戦争について真剣に考えてたりする人達ぐらいだ。どちらもその数は少ない。日常で碧落の話題が上がるのはほとんど無い。どっちかと言うとスポーツについての話題の方が多い。つまり学校で俺のような軍オタは珍しく、同じ趣味を持つ人が同クラスまたは同学年にはいなかった。教室ではボッチでだし、周りの人からは(一部の人を除き)変な目で見られるしでろくなこと無かった。


ま、アニメオタクよりはマシだったかもな。自分の好きなキャラの描かれたファイルを持っていた奴がそのファイルを見た奴らから「きも〜い」とか「変態オタク」とか色々言われているのを見た時は本当に可哀想だと思った。そのことを海爆隊員に簡単にまとめて話すと海爆隊員は俺を哀れむような目で見てきた。


「だから、ここに来たのか?」


「それもありますね」


それから俺と海爆隊員はお互いに何も喋らず翔電を見ていたのだが、エプロンに待機する翔電の中に腹の部分が不自然に膨らんだ太った翔電がいるのに気がついた。あれはもしや?


「あれ?もしかしてあの翔電って対潜型の奴ですか?」


「そうだ。うちは四二型(海爆型)四二型改(対潜索敵型)を3機ずつ配備してるんだ。で、今回みたいな対潜哨戒任務の時なんかは四二型と四二型改の2機1組で飛ぶんだ」


翔電四二型は陸上機型である三二型を海爆隊用に改良したもので、燃料タンクの容量が増えて航続距離が伸びている。

翔電|四二型改は胴体内にあった爆弾倉を撤去し、そのスペースに対潜索敵用のレーダーを搭載した対潜索敵型で、自身は有効な攻撃手段を持たないので必ず通常型の翔電との2機で飛ぶ。最近だとエンジンや機体などを強化して150キロ爆雷や125ミリ噴進弾などを主翼下に懸架できるようになった改良型もあるとか。さらに聞いた話だと筑後海軍の保有する空母の主力艦攻が翔電から迅雷(じんらい)と言う後継機に変わりつつあり、主力艦攻ではなくなった翔電はこのように海爆隊仕様に改造されて使われているらしい。因みに、四二型は四二(ヨンニ)型と読み四二(シニ)型とは読まない。理由はシニと読むと「死に」を連想してしまい縁起が良くないからだとか。


「へぇ、知らなかったです」


「ま、あれの搭載している五号四型改一電波探信儀の探知能力が高いのかって言われたら微妙な感じなんだがな」


「でも低性能ってわけでは無いんですよね?」


「だから微妙と言っているんだ」


と、海爆隊員と色々話していると俺を呼ぶ声が聞こえて来た。声のした後ろを振り返って見てみるとそこには俺達の方に歩いてくる隼人さんの姿があった。


「よぉ、秋元〜平山空佐(くうさ)と何話しているんだ?」


「海爆機がエプロンに出ていたので、その理由を・・・ん?隼人さん、今何て言いました?」


「え?よぉ秋元ーって言っただけだが」


隼人さんは困惑した様子でそう答えた。しかし俺が聞きたいのはそこじゃない。


「その後です」


「平山空佐と何話しているんだ?って・・」


平山・・空佐⁉︎と、言うことはつまり⁉︎


「あ、あの・・・失礼を承知でお聞きしますが・,平山さんの正式な階級はい何ですか?」


「3等空佐だ」


3等空佐・・・俺の階級が飛行士の中では1番低い2等空曹だから俺より7つも階級が上じゃないか‼︎や、やべー‼︎俺今まで3等空佐に向かって普通に話していたのかよ!何で気づかなかった俺!階級章見れば1発で分かっただろう⁉︎これは直ぐに謝るべきだ!今、早急に、迅速に!


「す、すいませんでしたッ!3等空佐とは気づかず‼︎」


勢いよく頭を下げながら謝った。隼人さんはこの状況になった訳を察したらしく「何やってんだ」と言いたそうな顔で俺を見ていた。

やっぱり怒っているかな?と思い、平山3等空佐の方をチラリと見てみた。やはり平山3等空佐はその顔を怒りの色に染めて・・・いなかった。逆に優しく笑っていた。


「いやいや気にするな。頭の固い上の連中以外と久し振りに話したから楽しかったぞ。で、中島は何か用があったんじゃないか?」


「そう言うこと。秋元、鈴木司令がお呼びだぜ」


それを聞いて俺は察した。さっき平山3等空佐が言っていた赤城の通る海域周辺の対潜哨戒任務のことだろう。


「了解しました。平山3等空佐、本当に失礼しました」


「そんなにビクビクしなくて良い。また話そうじゃないか」


「はい」


俺は平山3等空佐に向けて敬礼するとその場を後にした。


「ははははっ!階級章をちゃんと見とくべきだったな」


俺からさっきのことについて聞いた隼人さんは大笑いしながらそう言った。


「一応説明しておくとあの人、平山努(ヒラヤマ・ツトム)3等空佐はあの海爆隊の隊長なんだよ」


「そうだったんですか・・あぁ〜失敗したぁ〜」


頭を抱えて悶える。優しいそうな人で良かった。もしそうじゃなかったら俺どうなっていたことか・・。


「ま、本人もまた話したいって言っていたし嫌われた訳じゃないさ」


「そうだと良いんですが・・・」


「大丈夫だって。ここにいる奴らは一部を除き皆んな仲間思いのいい奴ばかりだから」


ここにいる皆んな、と聞いて俺はあることを思い出した。


「そう言えば・・220飛行隊の人達にまだまともに挨拶していなかった・・って言うか、会ったこともない・・」


220飛行隊以外の部隊の人達とは軽い自己紹介をしたが220飛行隊の人達にはまだ挨拶どころか会っていない・・・来て早々色々あり過ぎて忘れかけていた、


「そりゃそうだろうな。220飛行隊の奴らは今までラビラルの方に出張していたからな。昨日の夜2時に帰って来たんだ」


「そうだったんですか。あれ、じゃぁ何で隼人さんはここにいるんですか?」


隼人さんも220飛行隊の所属だった筈だ。じゃぁ何で隼人さんだけここに残っているんだ?


「実はラビラルの用事は一昨日の時点で終わっててな、しばらく休日が取れていなかった俺達に鈴木指令が1日だけ休みをくれたんだ。だから昨日はちょっとした休日だったんだけど俺はお前が来るからって言うことで一足先にここに帰って来たってわけ」


わざわざ俺の為にせっかくの休みを潰して来てくれたのか・・なんか悪いことしちゃったな。


「すいません。俺なんかの為に」


「いいって気にすんな。それに鈴木司令にまた休みをくれるように言う予定だから」


「恐らくこれからある作戦会議の時にお前の自己紹介もあるだろうさ、頑張れよ」


場所は変わって本部1階の作戦会議室。部屋の中央には投影機が置いてありその投影機からは周辺海域の地図が映し出されていた。その地図を見ながら俺と隼人さんとその他第220飛行隊の隊員6人、合計8人が鈴木司令の秘書から今回の任務について聞いていた。


「ー以上です。海爆隊の今回の主な任務は対潜哨戒ですが、いつ敵艦載機などが襲って来るかも分からないので注意を怠らないようにお願いします。そして220飛行隊の皆さんは先程行った通り艦隊の直掩をしてください。もし敵偵察機や艦攻が来たらこれを速やかに撃墜してください。 ・・各員の健闘を祈ります」


秘書の説明が終わって投影機の為に薄暗くしていた部屋が明るくなった。秘書の説明が終わるのを見計らって鈴木司令自身が話し出した。


「質問のある者はいるか?」


約3秒ほど待ったが俺を含め誰も手を挙げなかったので鈴木司令は話を続けた。


「無いようだな。それでは君達に新人を紹介する」


鈴木司令は俺を手招きして呼ぶと皆んなの前に立たせて、俺の耳元で「自己紹介は自分でしろ」と言って軽く肩を叩いた。目の前には席には右から隼人さん・どう見ても筑後人ではない金髪の女性・腕を組んだガタイの良い男・真面目そうな男性・長い黒髪をポニーテールのように纏めた青年・ぱっと見 学生に見えてしまう位若いショートカットの女性・その横に同じ位の若さのショートボブの女性が座っている。


「3日前にここに来た秋元慶(アキモト・ケイ)です!空戦も余り上手くできない新米ですがよろしくお願いします‼︎」


先程平山3等空佐にした時のように勢いよく頭を下げる。


「高等飛行教育航空学校を出たばかりの新米だからな。知らないことが沢山あるだろう。先輩である君達全員が秋元に色々教えてやれ。 そして決して死なせないように」


鈴木司令は俺の方を見ると「だが最後に自分の身を守るのは自分自身だ。長年の戦闘で得た技術と勘は自分を守り敵を打ち滅ぼす最強の武器だからな」と言った。


さっきまで鈴木司令の秘書の長い説明を退屈そうに聞いていた隼人さんが冗談交じりに言った。


「ま、こいつスコーピオンの攻撃をまともに食いながら普通に帰って来たしな。運だけは良いみたいだからそう簡単には死なないと思いますよ?」


確かにあれは本当に運が良かった。殆どの弾が硬い部位に当たっていたお陰ですぐ落ちるような致命傷にはならなかった。


「自分も運は良いっすよ?」


1番左側に座っている髪をポニーテールみたいに後ろに纏めている青年が言った。それを隼人さんが突っ込む。


「いやお前は運が良いんじゃなくてタフなだけだから」


「私も機体に重大なダメージを受けても帰ってこれたが?」


次に金髪の女性が自信満々に言った。それにもすぐさま隼人が突っ込む。


「いや貴方は運ではなく操縦技術が良いから!」


などと俺を置いて向こうで話が進んでいたが鈴木司令が自身の腕時計を見て言った。


「さて、時間があまり無い。皆簡単に自己紹介をして貰うぞ。まずは加藤からだ」


するとじっとこちらを見ていた真面目そうな男が立った。


「220飛行隊の隊長を務める加藤和正(カトウ・カズマサ)だ。これからよろしく」


と言って右手を差し出して来た。


「はい、よろしくお願いします」


俺も右手を出して加藤隊長の手を握って握手をした。すると腕を組んでいたガタイの良い男が立った。


「同じく220飛行隊の所属三島一郎(ミシマ・イチロウ)だ。加藤の2番機を務めている」


「よろしくお願いします」


この人も操縦上手いんだろうな。などと考えていると、あの黒髪ショートカットの女性が席を立った。


「初めまして秋元さん!中島隼人の妹 中島愛理(ナカシマ・アイリ)です!よろしくお願いします!」


と言うと愛理さんはニコッと笑いながら敬礼をした。軍服ではなくて学生服着せたら良く似合いそうだなぁなどと考えているとその隣に座っていた茶髪のショートボブの女性が立った。


佐藤楓(サトウ・カエデ)です。よろしくぅ〜」


彼女、マイペースそうな人だなぁ。と、彼女を見ながら思った。次に肩まで伸びた髪をポニーテールのように後ろに束ねた青年が「次は俺っすね〜」と言いながら立ち敬礼すると


「同じく220飛行隊に所属する宮本友也(ミヤモト・トモヤ)。よろしく〜》


と言った。何かこの人隼人さんと同じような感じの人だなぁ。そして最後にセミロングの金髪と鋭い切れ目が特徴の女性が立った。


「シュヴァルツ・ゲルト・ユリアだ。よろしく」


とだけ言ってユリアさんは座ってしまった。


隼人さんはもう知っているので自己紹介は無しである。


「さて、自己紹介も終わった出撃してもらうぞ。マルヒトマルマルには全員飛べるようにしておけ。以上、解散!」


俺も含める全員が鈴木司令に敬礼してガタガタと椅子を鳴らしながら立ち上がり作戦会議室を後にした。俺も出撃の準備をする為に皆の後を追うように作戦会議室を後を出た。今回俺達の任務は海爆隊の護衛だと思っていたが平山3等空佐の言った通り赤城を中心とする艦隊の直掩を俺達がやることになった。赤城をこの目で見れると思うとワクワクが止まらない。


ドアを閉めて廊下を歩いて行こうとすると「おい」と声をかけられた。声のした右の方を見るとそこには宮本さんと隼人さんがいた。


「どうしました?鈴木司令に用意でもあるんですか?」


と、俺が言うと宮本さんがニコニコしながら


「秋元くんを待ってたんだよ」


と言いつつ肩を組んで来た。この人凄い馴れ馴れしいな。まぁそんなに嫌じゃないし良いか。


「いや〜俺にも後輩ができたと思うと嬉しいよ〜」


隼人さんに聞いた話によると、俺が来る前までは宮本さんがこの部隊に1番遅く入って来た人だったらしく周りは全員先輩だらけで、いつも「後輩が欲しい〜」と言っていたそうだ。そして隼人さんの2番機を務めていた人でもあるそうだ。でも今回隼人さんと一緒に飛ぶのは俺だ。では宮本さんは誰と飛ぶんだろうか?


「今回岩崎さんは誰と組むんですか?」


「ユリアちゃんと一緒に飛ぶぜ」


ドヤ顔しながらそう言った岩崎さんに隼人さんが心配そうな顔をしながら言った。


「ユリアちゃんって・・おいおい本気かよ、大丈夫か?」


「なるようになるさ」


2人の話している話しの内容がいまいち分からなかったので直接2人に開いてみる。


「どういうことです?」


「あのユリアって奴は変わり者でね。見た目は美人なんだが中身がねぇ〜。ま、1回本人と直接話してみろ俺の言っている意味が分かるから」


「はぁ・・」


う〜ん今度暇な時にでも話しかけてみるか。出撃まであまり時間が残っていない、さっさと俺の疾風の置いてある格納庫に向かう。宮本さんの武勇伝などを聞きながら格納庫前に来ると、既にエプロンに腹の下に増槽を抱えた疾風6機が用意されていた。整備員達がそれぞれ自分の担当の疾風の最終確認をしているようだ。


前回手酷くやられた俺の疾風は驚いたことにたった5日で完全復活していた。今俺の目の前に弾痕も綺麗に無くなった疾風三二型がある。


「じゃ、隼人をよろしくな〜」


と言って宮本さんは俺の肩を軽く叩き自分の愛機に向かって行った。「はい」と返事をして俺も俺の疾風に向かった。主翼の付け根の所からよじ登り操縦席に体を滑り込ませた。秋元は操縦席を見回しどこか異常が無いかを確認する。フラップの位置を離陸位置にして高等飛行教育航空学校時代からやっている離陸前点検を開始した。外では俺の機体を担当する整備員が機体の周りをを一周しながら、機体に何も異常が無いことを確認し、次に俺にエレベーターとエルロン、ラダーを動かすように言う。俺が操縦桿を左右前後に動かし足でラダーを軽く動かした。整備員が一通り動作を確認をし終えると機体の横に立ち「異常なし!」と言いながら俺に親指を立てた。


俺は右下の燃料計の隣にあるトグルスイッチの操作レバーを人差し指で上に上げた。するとパァン!という爆発音がエンジン内から聞こえ同時にプロペラがクルクルと回り出した。数秒間ただ回っているだけだったのでありゃこれはやり直しかな?と思ったらいきなり勢い良く排気管から真っ白な煙が吹き出しながらエンジンがバルバルバルと元気よく動き出した。この疾風は他国の軍用機もよく使っているショットガン・スターターと呼ばれる方法でエンジンを始動させる。


ショットガン・スターターは、モーターに繋がる銃身の役割をする短い鋼管とそれに接続された銃尾に空包のカートリッジを装填し、電気的あるいは機械的にこれを激発させ、カートリッジが発火すると、高速で高圧のガスが管の中を走りモーターを回転させ、クランクシャフトに装着されているエンジンのスターターリングと噛み合いエンジンを動かす方法の事で、現在世界中の多くのレシプロエンジンを搭載した軍用機がこの方法でエンジンを始動させている。最初は電気モーターを使った最新式のエンジン始動装置を使う予定だったそうだが、モーターとそれを動かすバッテリーがどうしても大型化してしまい、重量も結構重くなってしまうので重量増加などを嫌った設計班は電気モーターをやめて世界的に普及しているショットガン・スターターを採用したそうだ。でも初期量産型の疾風一一型の最初に生産された100機はショットガン・スターターではなく手動でエンジンを回して始動させるタイプだったと聞く。


プロペラピッチレバーを離陸位置にして最後にフットペダルを踏み込み、機体にブレーキをかけスロットルレバーを前に倒す。スロットレバーの動きに合せ、エンジンの回転が上がり同時に油圧計の針が上がる事を確かめる。油温計が規定値内である事も目で確かめた。素早くスロットルレバーを戻し次は逆にスロットルレバーの動きに合わせて回転が下がるか確認した。


1800馬力を発揮するハツ ー III型甲エンジンの重圧で力強いエンジン音が操縦席にも聞こえてくる。複葉の練習機から疾風を元に作った零式高等練習機に乗り換えて初めて聞いたあのエンジン音は一緒忘れないだろう。


フットペダルを踏み込むのをやめてスロットルレバーを少しだけ倒す。そろそろと疾風がエプロンから滑走路に向けてタキシングして行く。既に滑走路へ タキシングを終えた海爆隊の翔電四二型と四二型改が2機横に並んで待機している。と、突然無線機から平山3等空佐の声が聞こえて来た。


《お先に行かせてもらうよ。空で会おう秋元くん》


滑走路に待機する翔電四二型の操縦席から平山3等空佐がこちらに向かって手を振っていた。


「はい、空で会いましょう!」


平山3等空佐は頷くと手を引っ込めて風防を閉めた。1300馬力を発揮するタツタ ー II型(液冷倒立V型12気筒)エンジンの出力が上がりエンジン音がより一層うるさくなる。翔電四二型と四二型改の2機がゆっくりと動き出し滑走を始める。直ぐに80キロ、100キロと速度が上がり尾輪が浮く。先に翔電四二型が離陸し、そのすぐ後に翔電四二型改が離陸して行った。後続の海爆隊機も同じように次々と離陸して行く。約3分程で6機全ての翔電が離陸を完了した。


加藤隊長を先頭に縦一列に並んで滑走路に向かう。滑走路に着くとさっきの海爆隊のように横に2機並んで待機する。


《サパン航空管制塔から220飛行隊へ、離陸を許可する。離陸後方位045に迎いミル島上空で龍驤航空隊の誘導機と合流せよ》


《こちら加藤了解。離陸を開始する》


先頭にいた加藤隊長と三島副隊長の乗る疾風のエンジン出力が上昇し、まず先に加藤隊長が滑走を始めた。最初の数メートルはゆっくりと進んでいた疾風はどんどん速度を増していきさっき飛んで行った翔電のように離陸した。加藤隊長が離陸するのとほぼ同じタイミングで三島副隊長が滑走を始め飛んで行った。次々と離陸して行く疾風達を見ていると直ぐに俺の飛ぶ番になった。先に隼人さんが俺に手を降ってから滑走を開始する。俺は機体に異常がないかとざっと確認して隼人さんが完全に離陸したのを確認すると両足で踏み込んでいたフットペダルを緩めてブレーキを解除しスロットルレバーを前に倒した。


出力が急速に上がり座席越しにエンジンの振動を微かに感じる。機体がゆっくりと動き出し徐々に速度を増して行く。しかし今回は胴体下に増槽を懸架している

せいかいつもより加速が遅い気がする。トルクのせいで機体が左に向かうとするのをラダーを使って真っ直ぐ走るように調整する。尾輪が浮き上がり機体が水平になったお陰で滑走路がよく見えるようになった。尾輪が浮き上がってからすぐに離陸可能速度に達し俺は操縦桿を自分の方に引いた。機体がふわりと浮き上がる。問題なく離陸はできたみたいだ。車輪とフラップを格納して上空で旋回待機している編隊に加わる。



同時刻。サパン基地から東北に約200キロ、サパン島近海を戦略空母赤城を始めとする小規模な艦隊が航行していた。赤城の真後ろを航行している軽空母「龍驤」の艦内にある飛行隊の待機室で1人の男が机の上で寝ていた。顔にタオルを置いて腕を組んで寝ているその男の名は本田健一(ホンダ・ケンイチ)、龍驤戦闘機隊の第1中隊に所属する四式艦上戦闘機「神風(シンプウ)」のパイロットだ。


突然待機室のドアが開き人が1人が入って来た。


「やっぱり寝ていた。本田、時間!」


顔に置いていたタオルを取られた本田は突然差し込んで来た光に目を細めて、不機嫌そうな声を漏らしながら上半身を起こした。


「ったくなんだよ(カオル)。せっかく気持ち良く寝てたってのに」


本田を起こした薫は呆れたようにジト目で見ながら起こした理由を説明した。


「サパンから対潜哨戒機が来るからその迎えに行けって言われの忘れた?」


「あれ?もんそんな時間か?」


と言って本田は自分の腕時計を見た。午後1時2分、予定の時間を2分過ぎていた。


「やっべ。薫、さっさと行くぞ!」


「それはこっちの台詞だっつーの!」


元々飛行服を着たまま寝ていたのが幸いして準備には殆ど時間をかける事なく2人は待機室を出た。迷路のような廊下を小走りで走りながら飛行甲板へ向かう。待機室は緊急出撃の時になどですぐさまパイロットが航空機に乗れるようにと飛行甲板に近い所にあるので本田達も直ぐに飛行甲板に上がることができた。


既に担当の整備員が本田と薫の愛機、神風(シンプウ)の準備を終えておりエンジン始動を今か今かと待っている状態だった。本田は担当の整備員に「わりぃ!」と謝ってから主翼付け根に飛び乗ると無駄のない動きで操縦席に滑り込み素早く計器のチェックを始める。全て問題は無かったので本田は担当の整備員に向かって親指を立てる。整備員もそれを見て頷くと人差し指を立ててクルクルと回す動作をした。それを確認した本田はトグルスイッチを下から上に人差し指で上げた。


神風(シンプウ)は筑後軍の配備する航空機の中でも稀な電気モーターでエンジンを始動させる方式を採用している戦闘機なのだ。


プロペラがゆっくりと静かに回りだし少ししてからエンジンが排気管から機体後方に向かって白い煙を大量に吐き出しながら動き出した。因みにこの龍驤に配備してある神風(シンプウ)疾風と同じエンジン(ハツーIII型甲)を搭載した初期型(一一型)ではなく当初の予定通り2100馬力の出力を生み出すことのできるハツ ー Ⅴ型(ごがた)エンジンを搭載した二二型である。疾風より重低音なエンジン音が飛行甲板に響き渡る。


薫の方も準備はどうかと右後ろの方を見てみると同じく準備は完了しているらしくちょうどエンジンを始動させたところのようだった。


「こちら龍驤戦闘機隊第1中隊5、6番機。発艦準備完了」


「龍驤第1戦闘機中隊5番機、6番機。誘導員の指示に従い順次発艦位置につき発艦。発艦後は方位245に向かいミル島上空でサパン航空隊と合流し所定の位置まで誘導せよ」

「龍驤5番了解」


そう返事をした後本田は操縦席から立つと両手を大きく左右へ手を振り下ろし


「車輪止め払えッ!」


とエンジンに負けない声量で怒鳴った。2名の整備員が、それを見て「車輪止め払え!」と同じく大声で復号し一斉に左右の主脚の車輪止めを外す。エンジン出力を少し上げ両足のフットペダルを少し緩めると、そろそろと機体が前進を始めた。前方で待つ甲板員の誘導に従い機体の向きを微調整しながら進み発艦促進装置(カタパルト)のある位置へ着くと、もう一度フットペダルを踏み停止する。誘導隊員からもう少し前へ前進するように手信号で指示されたのでフットペダルをじょじよに緩めじわ〜とゆっくり前進する。左右の向きを再度調整しながら50センチほど進むと誘導隊員が止まるように合図する。フットペダルを踏み機体を停止させると飛行甲板の隅で待機していた4、5人の甲板員が一斉に機体に駆け寄り機体の下や後ろに行って作業を開始する。


本田からは見えないが甲板員が機体の下に入り主脚の付け根付近に射出用ワイヤーを取り付けていた。同時に他の甲板員が機体後部の尾輪に尾輪固定装置を取り付ける。作業を完了した甲板員は飛行甲板端にいる信号伝達員に作業完了のサインを送った。発艦士官は本田に装着作業の終了を知らせ、機体の射出前確認の指示を甲板員にだし、さらに信号伝達員に


「初期射出準備知らせ!」


と指示する。指示を受けた信号伝達員は目の前にある複数のボタンの中の1つを押した。すると艦内にあるカタパルト制御室のオレンジ色のランプが光り「射出準備」を通達する。その間発艦士官は機体とカタパルトに異常が無いことを確認し本田に手旗信号で「発艦最終作業を行え」の指示を出し、それを見た本田は計器の最終確認を行い発艦士官に親指を立てて異常なしの合図を送る。信号伝達員はまた別のボタンを押して射出要員に「最終射出準備」を通達する。全ての準備の完了を確認した甲板員が白色の旗を上げた。


挿絵(By みてみん)


発艦士官がしゃがみ右手で艦首の方を指差し「射出」を本田に知らせる。本田は操縦桿を握り締め射出時の衝撃に備えた。信号伝達員が右端にあるボタンを押して射出要員に「射出」を通達、指示を受けた射出要員は制御装置の射出レバーを引いた。カタパルトが作動し神風(シンプウ)が急加速する。


カタパルトの力を借りて時速120kmまで加速した神風(シンプウ)はフラップの生み出す大きな揚力によって機体を浮き上がらせた。4000kgという軽量な機体に2100馬力のエンジンを搭載しているので加速や上昇性能は疾風よりも高い。勿論離陸も艦載機なので疾風より短い距離で離陸できる。


後方を確認するともう片方のカタパルトから同じように薫の乗った神風(シンプウ)が発艦しているところだった。問題なく発艦したのを見届けた本田は車輪とフラップを格納し機体を少し左に旋回させて方位245に機首を向けた。後から発艦した薫もすぐに本田に追い付き本田の左後ろに並ぶ。



サパン基地を離陸してから約30分の時間が経過した。青と言うよりは水色に近い色の海の中にぽつんと1つ小島が浮いている。合流地点であるミル島に着いたんだ。しかし周辺に迎えの機は見えない、こちらが早く着きすぎたかな?加藤隊長が無線の周波数を事前に龍驤航空隊と決めていたやつに変更し呼びかける。


《こちら220飛行隊隊長加藤、龍驤戦闘機隊応答せよ。龍驤戦闘機隊応答せよ》


数秒間全く応答がなかったが、突然少し雑音の混じった男性の声が聞こえてきた。


《こちら龍驤第1戦闘機中隊6番機の本田。応答遅れてすまない。そちらの飛行進路を教えてくれ》


《現在島の南西から北東に向け飛行中》


《了解した。そちらは進路を維持されたし》


《了解、進路を維持する》


こんな感じのやり取りをしてから程なくして、前方に2機の航空機を確認した。恐らく味方なんだろうが、念の為いつでも戦闘に入れるように身構える。お互いの距離はあっという間に縮まり機体の判別ができた。艦隊防空用艦上戦闘機 神風(シンプウ)だ。主に艦隊や輸送船団などを護衛する軽空母に搭載されている艦上戦闘機で、軽空母での運用が前提で設計されている為 疾風より少し小さめの機体になっており、重量も軽空母で離着艦できるように軽くしてある。神風(シンプウ)の自重が3900kgなのに対し疾風は3800kgなので重さは疾風とほぼ変わらない。しかし神風(シンプウ)二二型の搭載しているエンジンは疾風より強力な2100馬力を発揮するハツ ー Ⅴ型エンジンなので上昇性能や加速力などでは疾風よりも上だ。でもまぁハツ ー Ⅴ型は疾風に搭載しているハツ ー III型甲よりも信頼性が低く最初の頃はよく故障していたそうだ。なので神風(シンプウ)の一一型はハツ ー Ⅴ型ではなく信頼性の高いハツ ー III型を搭載したそうだ。


高速で俺達とすれ違った神風(シンプウ)は180度ロールしてから機首を上げループするいわゆるスプリットSと言う方法でUターンして来た。スプリットSは高度を犠牲にして速度を得るUターン方法で、主に下方を自機の進行方向と反対方向へ通り過ぎた敵機を追跡する際に用いられる。恐らく今回はすれ違った俺達にすぐさま追いつく為に使ったのだろう。


2機の神風(シンプウ)は海爆隊の方と俺達の方に分かれて、1機は俺達の真上を通過して行き編隊の先頭に行き主翼を振った。


《これより誘導を開始する。ちゃんと着いて来いよ?》


《安心しろ、どんな動きをしようともお前のケツから離れはせんよ》


《フン、そりゃ頼もしい》


誘導されること約30分、海ばかりの風景に飽きてきた頃に神風(シンプウ)のパイロットから通信が来た。


《目的地に到着した。右下を見てみろ》


機体を少し右に傾けてから言われた通り右下を見てみる。するとそこには筑後海軍が世界に誇る大型航空母艦「赤城」の姿があった!まだ距離があるので艦の大まかな形しか分からないがこの距離からでも分かるあの広大な飛行甲板は見間違うことはない。赤城だッ!

並走している艦・・あれは秋月型だろうか?それが小船に見えるほどだ。


赤城の前後に陽炎型が4隻、左右には秋月型2隻、艦隊の先頭には妙高型が1隻、赤城の真後ろに軽空母「龍驤」、そして龍驤の後方両側に吹雪型が2隻、艦隊の最後尾に長良型4番艦「由良」が航行している。


《なーんか赤城を護衛している船小さくね?あんなので守れんのかよ》


この言葉を聞いた俺はすぐさま隼人さんに反論した。


「何を言いますか!最新の360度探知可能な電探を装備した最新鋭駆逐艦 陽炎型に圧倒的な防空能力を持つ秋月型、少なくとも3年間赤城を守り続けている軽空母龍驤に、対潜・対空・対艦攻撃能力をバランス良く持つ汎用型駆逐艦 吹雪型、高い対潜能力を持つ長良型ですよ⁉︎数々の激戦を生き延びた妙高型もいるし十分凄い艦隊ですよ!」


《ふ〜ん。俺は飛行機以外はよくしんねーけどとりあえず凄いお前が興奮しているのはよく分かった》


ここまで誘導してくれた神風(シンプウ)は主翼を振ると右に旋回して何処かに行ってしまった。自分達220飛行隊は艦隊の直掩が今回の主な任務なので編隊を組んだまま艦隊の上空を旋回しながら辺りを警戒する。敵機が来ない限りこうやって艦隊の上空を飛び回るだけなので暇な任務になりそうだ。



艦隊から北西に行った海域の海上。ガトー級潜水艦の22番艦、SS-223「ヘリング」は浮上航行しながら目標を探していた。ヘリングは普段西大海洋辺りで商船狩りなどを行なっているのだが、2日前に前衛で偵察活動をしている同じくガトー級潜水艦のSS-248 ドラドから「敵機動艦隊発見」との報告を受けてその艦隊を攻撃する為にここまで来ていた。筑後の機動艦隊を叩けると言うことでヘリング艦内の士気は大いに高まっておりドラドの報告を聞いた他の潜水艦達もここの海域に我先にと集まっていた。筑後の機動艦隊と言えば|giant aircraft carrier 《巨人空母》の名で知られる赤城級が有名だ。赤城は全長約300メートル、全幅約50メートルと今あるどの空母よりも大きく、航空機の搭載数も約150機と我々リベリアンが誇る主力大型空母エセックス級並かそれ以上の搭載能力を持っている。航空機隊の練度も高く戦闘機隊にいたってはエースだらけだ。赤城を攻撃しようとしたインディペンデンス級空母のカボットとサン・ジャシントの航空隊が赤城航空隊に蹴散らされ2隻とも撃沈したのはまだ記憶に新しい。その前だとエセックス級のタラワも赤城の攻撃によって大破し、タラワを守っていた戦艦ネバダは爆沈している。赤城級の2番艦加賀も航空基地を1隻で壊滅させたり輸送船団とそれを護衛していた駆逐艦まとめて全部沈めたりと大暴れしている。その機動艦隊を叩けるとなれば士気が上がるのも仕方ない。空母や戦艦などと違って我ら潜水艦を攻撃できる有効な手段を空母は持ち合わせていない。しかしそれを護衛している駆逐艦が厄介だ。奴らはこちらが沈むまでしつこく追いかけ回し爆雷を馬鹿みたいに落として来る。いかに駆逐艦に見つからず必殺必中の魚雷を空母にブチ込めるかが鍵だ。


「艦長!ハダックから敵艦隊発見との電文が!」


艦橋で自ら愛用の高倍率双眼鏡を使って敵艦を探していた艦長に長いハシゴを登って来た通信士が言った。


「場所は?」


「ここらか北西に約40海里の海域です」


と言いながら通信士は電文の書かれた紙を艦長に渡した。数秒間その紙を見ていた艦長は不意に顔を上げ艦内に向かって叫んだ。


「味方艦が敵艦隊を見つけたぞ!最大戦速!取舵135ッ!」


ヘリングは速度を上げながら進路を左に大きくに変え目標の敵機動艦隊のいる海域へ向かった。


どうだったでしょうか?色々ツッコミたい所もあるでしょうが、こんな小説を読んでくださった事に凄く感謝しています。まだ読んでくれる人がいましたらこれからもよろしくお願いします。


感想や質問などお待ちしております。


重大発表!

本作「蒼空の彼方へ」の改良?版を現在制作中。世界観もストーリーも全くの別物の新作小説となります。まぁやりたいことは同じで、レシプロ機で戦う架空戦記になる予定です。題名は「蒼空を翔る」です。興味ある人は読んでみてください!




兵器紹介


挿絵(By みてみん)


空母赤城と次回登場予定の艦上双発哨戒機海猫


赤城型戦略航空母艦1番艦「赤城」

就役 創暦2598年

基準排水量 5.2000トン

全長 295m

全幅 48m

吃水 11.2m

飛行甲板

・全長 283m

・全幅 48m

・油圧式カタパルト2基

機関

・ ボイラー12缶

・蒸気タービン4基

・スクリュープロペラ4軸

速力 35ノット

巡航速度 18ノット

乗員約4.300名

兵装

・10cm連装高角砲8基

・30mm連装機関砲22基

・20mm4連装機関砲24基

・20mm単装機関砲30挺(移動式)

搭載機

・零式艦上戦闘機 強風 一二型甲(疾風三三型甲の艦上機型)65機

・三式艦上攻撃機 迅雷 二二型 65機

・零式艦上戦闘機 強風 二二型甲(艦上夜間戦闘機型)4機

・三式艦上偵察機 彩雲 一一型4機

・四式双発艦上哨戒機 海猫 二一型5機


四式双発艦上哨戒機 海猫

・上のイラストで描かれているのは初期の一一型。一式双発艦上攻撃機 天雷と言う双発攻撃だった物を哨戒機に改造したもの。天雷は最初の頃は単発機では不可能な長距離飛行(3400キロ)を行える攻撃機として使われていたがより高性能な単発機が次々と登場し天雷とほぼ同じ距離を飛行できる単発攻撃機も現れたため機体の大きい天雷は不要とされた。しかし元攻撃機としての搭載量を生かし哨戒機や輸送機、夜間警戒機などとして今でも活躍している。

海猫は磁気探知機やレーダーなどを使い敵潜水艦を見つけだし爆雷を使って攻撃する。そして現在筑後海軍では空中投下型対潜水艦用音響捜索浮標を開発中で海猫にも搭載予定である。


そして今回赤城の挿絵を描いてくださった荒瀬秀敏さんのURLを貼っております。是非見てみてくださいhttps://www.pixiv.net/member.php?id=23112469

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