第2話 碧落の空を舞うは銅鉄の翼。
え〜かなり次話を投稿するまでに時間がかかってしまいました。誠に申し訳ございません。
午後1時43分。本日は晴天、風も雲もほとんど無し。視界良好。サパン基地から南西に800キロ行った所にあるグイルランド軍の航空基地を偵察しに行く乱雲を護衛するのが今回俺と隼人さんに言われた任務だった。俺にとっては初の任務なので離陸前はずっと緊張しぱなしだったが、今はだいぶ落ち着いた。隼人さんはと言うと俺が機体に乗り込む直前に「俺が守ってやっからお前は安心して飛びな!」と言ったきり一言も喋っていなかったのでやっぱりプロの飛行士は任務中は無駄口を叩かなついのかぁと感心していたが、そうでは無かった。彼に飛行進路について聞いていた時に微かにだが彼の声でもない、ノイズ音でもない別の音が聞こえて来た。それは音楽だった。しかもロック風の。コックピットを見た時に小さくだがヘッドバンギング的な動きをしていたの間違えないだろう。つまり隼人さんはこの暇な移動時間中に機内でロック音楽を聴いているのだ。しかし音楽を飛行中に聞いて良いのだろうか?前に居た訓練学校の教官は「飛行中は音にも気をつけろ」と言っていた。エンジン音などで機体の不調が分かる時もあるし、機内の警報音を聞き逃していたら重大な事故につながる時だってある。しかし相手は先輩、俺から口出しするのもなんだかはばかれる。しかしこの飛行時間は本当に暇なので俺も今度、そこまでうるさくない音楽を持ってこようかなぁ〜と考えたりした。周辺の警戒と暇つぶしを兼ねて俺は風防の外に広がる景色をジッと見た。現在の高度は疾風の巡航高度とされている高度とほぼ変わらない4200メートル。ここから見るラビラル諸島の景色は絶景の一言に尽きる。ラビラル諸島の景色を撮った写真集を作って販売すれば結構売れるんじゃないだろうか。そんなくだらないことを考えながら俺は首を左から右に振って前方を飛ぶ乱雲を何となく見た。二式戦闘偵察機「乱雲」(二式司令部偵察機「乱雲 」と昔は言われている)、疾風を生み出したことで一気に知名度の上がった有名航空機メーカー、佐藤航空会社が作った単発三座の偵察機がこの乱雲である。無駄のない洗練された機体に1800馬力もの出力を生み出す小型軽量の空冷二重星型14気筒エンジンを搭載し、圧倒的な加速力と速度で敵戦闘機を振り切り、味方に重要な情報を届けることができる。また、機首上部に機関銃を二丁搭載しており、空戦フラップも付けているのである程度の空戦もできる。だから戦闘偵察機と言う名になっているのだ。今目の前を飛んでいるのは一二型甲で、エンジンに同盟軍であるゲルニアが使っている航空機用出力増強装置、MW50を参考に作った(と言うかパクった)水エタノール噴射式出力増強装置を搭載しており3分間だけだがエンジン出力を2200馬力まで上げることができるようになり、機首二丁、後方に一丁装備されている12.7mm機関銃を13mm機関銃に強化してある。同じエンジンを使っている機体とは思えない程こいつの速度は速い。恐らく筑後軍の保有する飛行機達でもこいつの最高速度に追いつける奴は少ないだろう。本物の乱雲をこの目で見るのは初めてなので実は興味津々だったりする。疾風の人気のせいなのか偵察機と言う地味な機体のせいなのか、あっちではこの乱雲はそこまで知られていない。俺も訓練学校で初めて乱雲のことを知った。疾風のようなどっしりとしたゴツい機体ではなく空力的に洗練されたスレンダーな機体で、疾風とは別な美しさがある。もし疾風と乱雲が擬人化したら、きっと疾風はゴツい男になって乱雲はスタイルのいい若い女になるんだろうな。あ、女と言えばあの乱雲のパイロットも女だったな。確か名前は・・・綾部だったかな。ミーティングの時と機体に乗り込む時にチラッと見た。あまり見ない髪型のボブカットだったので印象に残っている。
《そろそろ目的地です。皆さん準備は大丈夫ですか?》
噂をすれば何とやら、突然無線機から若い女性の声が聞こえて来た。乱雲のパイロット、綾部さんからだ。綾部さんからの問いかけに隼人さんが答えた。
《準備って言っても俺達は特にすることもなんだけどねぇ〜。まぁ心の準備はしておくよ》
と、呑気に言う隼人さんに綾部さんは少し呆れたような感じて言った。
《敵がこっちに来ないかちゃんと警戒しておいてくださいよ?》
《オーライ、綾部様には指一本触れさせんよ》
しばらくして、海原に浮かぶ島の中でもひときは大きい島が見えてきた。まだ少し距離があるが、ここからでも立派な滑走路が2つあるのが確認できる。もしあそこから大量の戦闘機が離陸してこちらを襲って来たら・・・と考えてゾッとした。まぁこちらの方が高度があるからもし迎撃機が上がって来たとしてもスロットルを倒して速度を上げれば逃げれると思うが。飛行場のある島の上空に差し掛かった頃、自分にとって敵迎撃機並みに恐ろしい攻撃が始まった。
ボンッ!と少し離れた所で爆発音が聞こえて来た。音のした方を見ると空中に1つ小さな黒い雲が浮かんでいた。ボン、ボンッ‼︎と言う爆発音と共に次々と同じような雲が俺達の周りに現れる。的基地に配備してある対空砲からの攻撃だ。
「もう少し高度を上げた方が良かったんじゃないんですか?」
今俺達が飛んでいる高度は敵の対空砲の有効射程内だ。もし弾が機体に直撃しようものなら1発で木っ端微塵になるだろう。命中率は決して高くはないのだが何時こっちに弾が飛んで来るか分からない恐怖で漏らしそうだ。
《大丈夫だ。こんくらいの対空砲火、当たりゃしない。それに知ってるか?対空砲ってのはな、ビビっている奴に飛んで来るんだよ》
隼人さんが話している間にすぐ近くで対空砲弾が炸裂した。俺はまるで雷に怯える子供並みに俺はビクついた。目標の飛行場上空に来るとより一層対空砲火が激しくなってきた。が、空中で炸裂する対空砲弾をよくよく見ていて気づいたのだが、狙いがズレている。
時々至近弾が来るものの、大体の対空砲弾は前方の方で炸裂しているからだ。狙いが修正される前にここから離脱したいなと思い乱雲の方をチラリと見る。今頃中央の座席に座っている偵察航法士が下にある基地の交差した滑走路と格納庫などの施設の写真を撮りまくって、情報を収集しているんだろう。
《う〜ん、特に怪しい動きは無いみたいですねぇ》
《そんじゃ、さっさと帰ろうぜ。やることはやったんだろ?》
対空砲弾の狙いも徐々に正確になって来た。このまま長居しても良いことは無いから早く帰りたい!と言うのが隼人さんと綾部さんとの会話を聞いた今の俺の心情だった。
《そうですね、迎撃機が来る前に帰投しましょう》
そのまま基地上空を通過した俺達は基地から距離を取りつつ大きく旋回し、進路を北東に向けた。そして現在俺達は基地のあった島の西側を飛んでいた。
《お〜い秋元〜。遅れてるぞぉ〜》
まだ余り編隊飛行に慣れていないせいで、俺は編隊から遅れていた。
《すいません!すぐに追いつきます!》
スロットルを少し出力を上げて速度を上げる。若干エンジン音が高くなり機速が少しずつ上がって行く。雲の切れ間から顔を覗かせた太陽からの光がコックピット内に差し込む。俺は何となく太陽の方を目を細めて見て、そして見つけた。こちらに向かって急降下して来る機影を。
国籍マークを見なくてもその独特な見た目のお陰でどこの機体か一瞬で分かった。
《1時上方、スコーピオン3機ッ‼︎》
マラー・スコーピオン、またの名P-55「スコーピオン」。グイルランド軍が打倒疾風を目標に開発した機体で、前翼型の主翼両側に1650馬力を発揮する液冷V型12気筒エンジンを推進式に搭載した異色の双発重戦闘機である。推進式大好きグイルランド軍の開発しはこいつの最高速度は665キロにもなり、急降下速度は700キロを軽く突破すると言われている。機動力ではこちらの方が勝っているが急降下速度、最高速度はスコーピオンの方が勝っている。また、機首に毎分800発もの連射速度を誇るミッハーワ製20ミリ機関砲を4問集中装備している為、今までのグイルランド軍戦闘機と比べて高い火力を誇る。
《クッ!狙いはお前だ、回避しろ!》
3機中2機が俺の方に右上方から急降下しながら近づいて来た。俺は突然のことで気が動転していた。どうしようかと焦っている間に敵戦闘機との彼我の距離があっという間に縮まり、敵の機体がハッキリと確認できる距離まで接近を許してしまった。
殺られるッ!そう思った俺は操縦桿を左に倒しながら引き、遅ればせながら回避運動をとろうとした。1機は進入角度を誤ったのか攻撃せずに機体の下をくぐって行った。しかしその後から来た2機目は左旋回しようとしていた疾風の機体側面に容赦無く20ミリ機関砲を浴びせた。
「クッ⁉︎」
金属同士がぶつかるような、機体が抉られるような、とにかく余り聞きたくない生きた心地のしない音が機内に響き、同時に激しく揺れる。
《秋元!》
《秋元さん⁉︎》
隼人さんと綾部さんの声が遠くから聞こえた気がした。・・・・機体は左旋回を続けている。俺は瞑っていた目をゆっくりと開け、機体を水平に戻し状況を確認する。風防正面右側にこびり付いた黒い液体、恐らく被弾により漏れ出した潤滑油だ。右側の風防に蜘蛛の巣状のヒビ、穴は空いていない。右主翼に多数の穴、一部の穴から大量にではないが燃料が漏れている。ここからは確認できないが恐らく機体右側側面には多数の弾痕が残っているだろう。驚いたことに今すぐに飛行に支障を及ぼす程の被害は受けていなかった。
隼人さん達の方を見ると俺を狙わなかった3機目が綾部さんの乗る乱雲めがけて真上から急降下していた。
「綾部さん直上!」
無線機に向かって思いっきり叫ぶが、乱雲は全く反応しない。
「綾部さん!」
無線機から鳴音も何も音が聞こえて来ない。恐らく先程攻撃を受けた際に無線機がやられたんだろう。ヤバイと思って乱雲の方を見ると乱雲はスコーピオンが銃撃する直前で右斜め上方にバレルロールじみた機動で敵の銃撃を回避した。しかもその回避行動中に乱雲の後部機銃が通り過ぎて行くスコーピオンめがけて13ミリ機関銃をぶっ放していたので凄い奴がいるなと思った。
俺を襲った2機のうち1機は隼人さん達の方に向かって行き、残る1機は再び上昇してこちらを攻撃しようとしていた。
「中島さん!貴方は秋元さんの援護に向かってください!」
急降下をして得た速度を生かして一旦距離を取る敵戦闘機をから目を離して、正面からやって来る2機目のスコーピオンを睨みながら綾部は言った。
《・・お前は大丈夫なのか?》
隼人が秋元を助けに行くと言うことは、その間乱雲を護衛する人がいなくなると言うことだ。しかし綾部は自信に満ちた顔で言った。
「我に追いつく敵機無し。です!」
《・・了解した》
正面から来るスコーピオンと乱雲の間に割り込んだ隼人はスコーピオンの真正面に向かって牽制に機銃を一連射した。スコーピオンから撃たれる前に機体をバレルロールさせて敵の射線から逃げた。一回転し終えて機体を水平に戻した疾風の真上をスコーピオンがすれ違う。
《すぐに戻る!それまで持ち堪えてくれ!》
「了解しましたッ!」
隼人の乗った疾風が一気に加速して秋元の方へと向かう。それを見送った綾部は20ミリ機関砲を乱射しながら前から突っ込んで来るスコーピオンをバレルロールで避け、そしてスロットルレバーを前に倒しきる。
乱雲のスロットルレバー は普通に前に倒すと全体の3分の2までしか倒れない。しかしスロットルレバーの先端に付いているボタンを押しながらやると最後までスロットルレバーは倒れる。 最後までスロットルレバーを倒すと水エタノール噴射式出力増強装置が作動し、エンジン出力が一気に上がる。排気口から炎が吹き出し、エンジンの回転数が急激に上がり、乱雲は唸り声をあげながら急加速する。
緩降下して更に速度を稼ぎ、できるだけ敵から距離を取る。最初に綾部を襲ったスコーピオンが上昇を終えてまたこちらに向かって降下して来た。最高速度では負けているが、出力増強装のお陰で加速力ではこちらが勝っているので、スコーピオンを引き離して行く。この加速力こそ乱雲の最大の強みだ。
スコーピオンにケツを取られてしまい、俺は必死に左右に旋回して敵の銃撃を回避しようとするが敵の銃弾は容赦なく機体に当たっていた。幸いなことに敵弾はほぼ全部が1番硬い部分である胴体に当たっていたので致命傷にはなっていない。
それにスコーピオンに搭載している20ミリ機関砲は連射速度が早い替わりに弾の炸薬量が少ないから多少当たっても大丈夫・・のはずだ。しかし機体に敵弾が当たる音は心臓に悪すぎる。寿命が縮みそうだ。高い操縦技術を持っていればスコーピオンのような双発機の後ろなんて直ぐに取れるんだろうけど、俺にそんなことはできない。しかしこのままだとジリ貧だ。どうやってこの状況を打破しようか・・・と、色々考えようとしたが敵弾を回避するので手一杯でそんな余裕は殆ど無かった。
そんな時、救世主は来てくれた。敵機の位置を知る為に振り向いた時、敵機に向けて上から急降下する疾風を確認した。
「隼人さん!」
俺は思わずその助けに来てくれた人の名前を叫んだ。敵機は俺に夢中で上から急速接近している隼人さんには気づいていないようだ。俺を追いかける為に速度を落として、さらに上の隼人さんに気づいていないスコーピオンなんて疾風のいい的だ。
一気に敵との距離を詰めた隼人さんはスコーピオンの機体上面めがけて12.7ミリ弾と20ミリ弾の雨を降らせた。弾はスコーピオンの左主翼に次々と当たり左エンジンが炎上しプロペラが吹き飛んだ。一瞬ガクンと左に傾いたが機体の安定は保っている。エンジンからは黒煙が吹き出し、主翼付け根からは燃料が漏れており既にスコーピオンは虫の息だったが隼人さんは容赦なく追撃する。スコーピオンの後ろを取った隼人さんは追加の銃撃を加え、避けることもままならないスコーピオンは至近距離から20ミリと12.7ミリを食らい右エンジンからも出火、更に右ラダーに20ミリが直撃しラダーが破砕した。両方のエンジンをやられたスコーピオンは徐々に高度を下げて行く。もうアイツはほっといて大丈夫だろう。
無線機が故障しているので、俺は機体を左右に振って感謝の気持ちを隼人さんに伝えた。隼人さんは横に並ぶと俺達の基地のある方角をを指差しながら何か言っている。「お前は早く帰投しろ」とか言っているのだろう。
「了解!」
俺は大きく頷くと基地へと向かうことにした。
地面スレスレをエンジンパワー全開で飛行しながら、後ろから追いかけて来る2機のスコーピオンの銃撃を乱雲に乗る綾部は巧みに躱していた。水エタノール噴射式出力増強装置は3分間しか使えないのでもしもの時に備えて残りは取っている。
「そんなに激しく動かれると弾を当てれないんだけど⁉︎」
乱雲の後部機銃手である吉田か綾部に叫んだ。
「すいませんね〜でも回避行動しないとこっちが堕とされちゃいますしッ!」
綾部はそう言うとラダーペダルを蹴って機体を右に滑らせて敵の銃撃を避け、右に急旋回。後ろから急接近していたスコーピオンは乱雲の急旋回についてこれず突っ込んで来た勢いのままオーバーシュートしてしまう。
「それにその後部機銃でスコーピオンを堕とすのは無理ですし」
乱雲の後部座席に装備している旋回機銃、98式13粍旋回機銃は戦闘機用の固定機銃として開発された98式13粍固定機銃を旋回機銃にしたもので、対戦闘機用機銃としては初速、命中率は共に悪くなく破壊力も申し分の無い優秀な機銃なのだが、たった1丁の13粍機銃で双発重戦闘機であるスコーピオンを撃墜できるかと言うと、ぶっちゃけ怪しい。
「操縦士に当てれば堕とせる」
「スコーピオンの風防って防弾だったと思うますが・・・」
吉田は右から来る2機目のスコーピオンを確認すると、13粍旋回機銃を敵機に向けた。
「知るかそんなもん!ほら来たぞ、右側から敵機ッ!」
ダダダダッ!ダダダダダッ‼︎と急速接近して来る相手を牽制する為に機銃を敵機に向けて乱射する。5発に1発の割合で発射される曳光弾が空中に淡い緑色の跡を残して行く。敵機との距離はまだあったので発射された13ミリ弾はばらけてしまい命中弾は無かった。時速600キロオーバーの速度で接近して来るスコーピオンを確認した綾部はまた敵をオーバーシュートさせようとした。
《美奈!そのまま敵機を釣り上げてくれ!》
突然来た隼人からの指示を聞いた綾部は、瞬時に隼人のやろうとしている事を理解した。敵機に背を向けると水エタノール噴射式出力増強装置を再度使用し、操縦桿を手前に思いっきり引いて機体を急上昇させる。後ろのスコーピオンも急上昇する乱雲を追撃する為に機首を上げて上昇する。いくら水エタノール噴射式出力増強装置を使っているとはいえ、双発機であるスコーピオンの方がパワーがあるのでスコーピオンは乱雲にどんどん近づいて行った。が、スコーピオンから20ミリ弾が発射されることは無かった。
駆けつけて来た隼人が上昇途中のスコーピオンを攻撃したからだ。攻撃を受けたスコーピオンは右主翼がボロ雑巾のようになり、主翼からは燃料も漏れ出していた。スコーピオンは乱雲を追撃するのをやめて逃げようと旋回したが、攻撃を受けて穴だらけになっていた右主翼が折れて吹き飛んだ。ボロボロの主翼が旋回時のGに耐えきれなかったのだ。
綾部はすぐさま残りの敵機を探した。最後の1機は不利を悟って既に逃げていた。
初の任務で敵機から攻撃を受け、何も出来ずおめおめと基地に帰ることになった俺は落ち込んでいた。基地は近くだったし、主翼からの燃料漏れは防弾ゴムタンクのお陰で止まっていたし、潤滑油は漏れ続けていたが無くなっても直ぐにエンジンが止まる訳ではないので問題なかった。
俺が戦線を離脱してから10分後に隼人さん達は追いついて来て、今はさっきと同じ編隊を組んで飛行している。目の前には基地のあるサパン島が見えている。
コックピットに付いている時計を見て驚いた。
現在時刻3時12分。
12時30分に基地を飛び立ってから3時間以上経っている。うわっ・・何かそう考えたら一気に疲れが出て来た。俺はハァ〜とため息を吐いた。
《どうだった?初めての任務は》
隼人さんからの通信だ。俺の右側を飛んでいる疾風を見ると隼人さんがこっちを見ているのが確認できた。
「基地に行くまでは何ともなかったんですけど・・いざ敵機が来たら焦ってしまって・・・すいません」
隼人さんには言わなかったけど、恐怖もあった。スコーピオンに撃たれたあの時、俺はまだ死にたくない!と恐らく人生で 初めて心の底から思った。俺は何処か普通の高校生が修学旅行に行く時のような気分でこの任務に挑んでいた。が、敵機に撃たれたことで改めて教えられた。
ここは碧落、ここは戦場。修学旅行生の行くような楽しい旅行先とは違う。人の命が簡単に失われる所。
《まぁ最初から大活躍できるとは思ってないさ。でもお前、誰よりも先にスコーピオンを見つけただろ?それはお手柄だったと思うぜ?》
《今日敵を墜とせなかったとしても、生きていればいつかは撃墜できますよ。こうやって基地に生きて帰って来ることが1番重要なんです》
2人は俺を叱ることもせず俺を励ましてくれた。が、俺はなんとも言えない罪悪感を感じていた。その理由があり過ぎて嫌になる。
「・・・すいません 」
と俺は小さな声で謝った。もう隼人さん達に迷惑をかけない為にも、この罪悪感を消すためにも、一流のパイロットになれるよう頑張ろう。
そうこうしていると、基地の滑走路がハッキリと見える距離まで近づいていた。よく見るとエプロンには消防車などの車両が待機している。
《破損機優先。秋元、先に降りろ》
「了解」
滑走路に機首を向けて、速度を徐々に減速しながら降下していく。航空機事故の3、4割は着陸時の失敗によるものとよく言われている。俺も昔テレビで被弾して真っ黒な煙を吐きながら飛んで来た疾風が着陸に失敗して大破、炎上したのを見たことがある。意外に思われることが多いが、着陸は結構難しい。
高揚力装置を展開し、降着装置も降ろす。機首を少し上に向けながら降下して行き、アスファルトの滑走路に主輪が叩き一回小さく跳ねた。が、問題なく主輪は接地しその少し後に後輪も接地した。疾風の主輪の強度はそこら辺の航空機よりあり、ある程度の硬着陸でも問題なく着陸できる。
何とか着陸に成功したことにホッとした俺は座席の背もたれに寄りかかった。内心スコーピオンに撃たれた主翼の部分が着陸時の衝撃で壊れて主翼が折れてしまわないかと不安だったが、大丈夫だったようだ。俺は機体をエプロンまでノロノロと走らせて指定の場所に止めた。するとぞろぞろと消防車や救急車両が集まって来た。
俺はエンジンを止めて風防を開けた。俺の乗る疾風の整備を担当している山寺さんが駆け寄って来る。
「派手に被弾したみてぇだな。怪我してねぇか?」
「はい、大丈夫です」
疾風のコックピット内にある装甲板が敵弾とその破片を防いでくれたようで、俺自身は全く負傷していなかった。
「すいません。貴重な機体を壊してしまって・・・」
「このくらい人間で言う掠り傷よ、すぐに直せる。今回の失敗は次に生かせば良い」
「はい」
俺はコックピットから出ると、主翼の付け根の所に立ってから地面に飛び降りる。疾風の全高は4メートル弱あるので、主翼から飛び降りようとすると、まぁまぁな高さから落ちることになる。そう言えば俺がまだ小さい頃、疾風のコックピット内に乗らせてもらった時があったがその時は主翼によじ登るのに一苦労していたなぁ。
地面に着地した俺は振り返って疾風を見る。機体右側の主翼や胴体に刻まれた無数の弾痕が痛々しい。よく俺怪我一つせずに帰って来れたな。コックピットの側面には7.7ミリ厚の装甲板があるけどスコーピオンの20ミリ弾を防げるかと言うとぶっちゃけ怪しい。今回は本当、運が良かったんだな。
「よぉ秋元、大丈夫だったか?」
俺の疾風の横に機体を止めた隼人さんがコックピットから降りて来て俺に話しかけて来た。
「はい。すいません足を引っ張ってしまって」
「まぁ初戦なんてそんなもんだよ。初めて出撃してそのまま帰らぬ人にいる人もいるからなぁ・・・」
「自分は運が良かったってことですね」
「だな。今度は自分の実力で生き延びれるようにならないとな」
「はい」
「それじゃ、鈴木司令に報告しに行くか。秋元、綾部達を呼んで来い」
「了解」
俺は乱雲の前で整備員と話している綾部達の所へ向かった。
うん、色々突っ込みどころがありますよね。まぁこんな小説ですが少しでも読んでくれる人がいたら嬉しいです。
兵器紹介のコーナー
マラー・スコーピオン。
グイルランド軍が打倒疾風を目標に開発した機体で、前翼型エンテ型の主翼両側に1650馬力を発揮する液冷V型12気筒エンジンを推進式に搭載した異色の双発重戦闘機。最高速度は665キロにもなり、最高速度が580キロである疾風三二型よりも速い。旋回性能は双発機であるため良くないが、上昇性能や急降下性能、火力の面では疾風三二型と同じかそれ以上のものを持っている。
夢とロマンで飛ぶ戦闘機である。
二式戦闘偵察機「乱雲」一二型甲
最高速度が670キロと、スコーピオンとほぼ同じ速度で飛ぶことができる高速偵察機。水エタノール噴射式出力増強装置を使うことによってエンジン馬力が1800から2200まで上がり、えげつない加速力で敵機を振り切ることが可能。しかしこれを使うと凄い勢いで燃料を消費し、エンジンにかなり
無理をさせてしまうので積極的に使えるものではない。自衛用としてコックピットの後部に旋回式13ミリ機銃を一挺搭載し、機首にも固定式13ミリ機銃を二挺搭載している。胴体下には大型の増槽を取り付けることが可能で、増槽を付けた際の航続距離は3500キロにもなる。