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There is darkness place  作者: けろよん
改稿版
16/30

やってきた両親

 いろいろあったその日の放課後。

 今日はもう何も起こらなそうだ、家に帰ろうと光輝が安心しかけた頃。

 いきなり全校放送で指導室に呼ばれた。学校に光輝の両親もやってきたという。

 問題を起こしたから呼ばれたのだろうとクラスメイト達の間でヒソヒソと噂になった。

 問題を起こしたのは郁子だろうにと光輝は思ったのだが、呼び出されたのなら行くしかなかった。

 諦めの息を吐いて鞄を置いて席から立ち上がる。

 隣の席で学校だというのにドーナツを頬ばっている郁子が見上げてきて目が合った。

 特に何か言葉を交わすこともなく口をもごもごさせている彼女を置いて、光輝は一人で指導室に向かうことにした。



 郁子は別に光輝を一人で行かせたいと思っていたわけではなかった。

 ただ、今はドーナツを食べていた。

 近くに敵の気配は無いし、腹が減っては戦は出来ぬという言葉もある。考えている間に光輝は行ってしまった。場所は指導室だと分かっている。

 だから今はドーナツをきちんと食べておこう。そう思ったのだった。



 放課後のまだ明るい時間帯の廊下を歩いて、光輝は指導室のドアの前に辿りついた。

 この向こうでは何が待っているのだろうか。

 緊張しながら息を吸って覚悟を決めて扉に手を伸ばす。


「失礼します」


 思い切って中に入ると、すでに両親と先生は来ていた。

 簡素な机とパイプ椅子に向かい合って座っている。

 緊張する空気の中、光輝も席に付いた。

 希美は呼ばれていないのかと思ったが、


「失礼しま~す」


 すぐにやってきて小声で挨拶して席に座った。

 母が彼女に小さく囁いた。


「あなたはいいのよ」

「だってあたしも家族だもん。気になるよ」

「そうだな。では、みんなで話をしよう」


 父がそう言って話を始めた。

 先生が話をするのかと思っていたから、光輝はちょっと意表を突かれてしまった。

 どこにでもいる平凡なサラリーマンである父は語る。


「ついにこの日が来てしまったのだな」

「この日?」


 光輝はすぐに訊ね返してしまう。悪魔が現れて自分の周りでいろいろあった日だから、どんな日なのか気になってしまった。

 父は語る。この日のことを。


「いつか闇の世界の者が来ると思っていた」

「あなたはわたし達の本当の子供ではないのよ」

「え」


 母も語る。運命の日が来たかのように。

 光輝にとってはあまりに衝撃的な言葉だった。


「そんな気はしてたよ」

「何で!?」


 希美の言葉もあまりに衝撃的だった。

 自分の気づかない何に妹は気づいていたというのだろうか。

 呆気に取られる光輝に両親は事情を説明した。


「お前は闇の王の生まれ変わりなのだ」

「今までのご無礼をお許しください」

「そんなことを言われても困るよ」


 何がどうなってこうなっているのか光輝にはさっぱり分からない。


「闇は引かれあうんだよ」


 希美の言葉もさっぱり分からなかった。

 分かっている両親は勝手に納得して話を進めた。


「そうだな。お前は闇の王である前にわたし達の子供だ」

「その認識は変わらないわ」

「事情を説明させてもらおう」

「はい」


 そして、両親は事情を説明した。

 光輝には理解しがたいことだが、自分の関わることだ。

 よく分からなくても頑張って聞くしかなかった。おおむねこういうことのようだった。



 闇の王は人間に深い興味を持っていた。そこで魔族の司祭と相談して人間の世界に転生することにしたのだ。

 だが、それは司祭ゼネルの罠だったのだ。司祭は王を追い出した闇の世界で、何も知らない王の妹リティシアを操り、自分が支配者になろうとしたのだ。



 光輝は何となく理解した気分になった。


「つまり闇の王だった僕を人間に転生させて追い出して、何も知らない妹を操り人形にして、その司祭が支配者になったと?」

「でも、誤算があったのだ。王になるには闇の炎の力が必要で、王はそれを持ったまま人間に転生したのだ」

「リティシアは今のままでは王になれないの。ゼネルの目論見は外れたのよ」

「そうなのかー」


 光輝は他人事のように呟いた。希美はちょっと厳しい視線を向けてきた。


「お兄ちゃん、ちゃんと理解してる?」

「もちろん理解シテルヨー」


 ちょっと声が上ずったのは許して欲しい。これでも頑張って理解したのだ。

 正面では先生が難しい顔をしている。何か注意されるかと光輝は身構えるが、やがて彼は肩の力を抜くように息を吐いて言った。


「先生、よく分からないし、もうここにいなくていいかなあ。明日の準備もいろいろあるんだ」

「待ってください! この話は先生にも知ってもらいたいのです!」

「先生は光輝の担任でしょう! 責任からは誰も逃げられないんですよ!」

「はい」


 光輝はてっきり先生が呼んだ側かと思っていたのだが、どうやらこの場を用意したのは両親の方のようだった。


「凛堂さんといい、困るよ……」


 先生の呟きに、光輝は同情してしまった。

 それでも自分のことなので関わらないわけにはいかない。

 光輝は訊ねた。今まで自分の親だと信じていた人に。


「それでその闇の炎の力は今どこに?」

「今もお前の中にある。闇の炎の力よ出でよ、シャドウレクイエムと唱えなさい」

「や……闇の炎の力よ出でよ、シャドウレクイエム」


 ちょっと恥ずかしかったが、光輝は言った。その時、腕の中から何かが湧き上がる感覚がして黒い炎が出た。

 最初は小さいかと思われたその炎だったが、その勢いはすぐに増して大きくなり、吹き上がる黒い炎が天井に届きそうになって、両親と先生はひっくり返って床に伏せた。


「こら、いきなり出す奴があるか!」

「だって唱えろって言うから!」

「早く収めなさい! こっちに向けちゃ駄目!」

「どうしたら」


 収めろと言われてもやり方が分からない。闇の炎は吹き上がり続けている。

 希美は


「綺麗、これがシャドウレクイエム……」


 とか言ってうっとり見上げている。


「…………」


 誰も助けになりそうにない。光輝はとにかく自分の手に言い聞かせることにした。


「静まれよ! 僕の右手―――!」


 何だか恥ずかしかったが、冷静に考える時間が今は無かった。炎はさらに勢いづいて吹き出そうとする。

 その時、


「わたしに任せてください!」


 扉をけたたましく開けて郁子がやってきた。ドーナツを食べ終わったようだ。

 彼女は炎を恐れもせずに歩いてきて光輝の腕を掴むと、指を二本揃えて叩き付けてきた。


「封印! 封印!」

「痛い! しっぺ痛いって!」


 光輝は腕を振り切って上げる。その時には炎は不思議と収まっていた。郁子は額の汗を拭った。


「ふう、封印は成功しました」

「あんなことで収まるの?」

「封印の儀式をしたわ」

「これで?」


 光輝は同じように自分の腕に指を当ててみる。郁子は首を横に振った。


「あなたにはまだ無理よ。闇の訓練を受けていないもの」

「そうですか」


 つい投げやりに答えてしまう。

 そうしていると、立ち上がった両親が声を掛けてきた。


「さすがは闇のハンターだ」

「あなたに任せておけば安心ね」

「光輝君、この包帯を巻かせてください。炎を抑える効果があります」


 郁子がなぜか敬語だ。両親の前だからだろうか。

 彼女は光輝の手を取って包帯を巻き始めた。

 女の子にやってもらって光輝は少し照れてしまう。包帯なんて巻くほどじゃないと思ったが、断れそうにはなかった。

 まあ、気になるようなら後で外せばいい。そう思うことにして好きにさせることにした。

 落ち着いて席につき、郁子が加わった話し合いの場で、両親は話を続けた。


「我々はしばらくお前と離れて暮らそうと思う」

「あなたは狙われているの。近くにいると危険なの」

「でも、ハンターが守ってくれる。だからそうするようにと勧められたのだ」

「わたし達はしばらく温泉旅行に行ってくるわ」

「うん」


 どこから温泉旅行に話が飛んでいったのかよく分からなかったが、光輝は頷いた。

 両親は郁子を相手に話を進めた。


「郁子さん、息子のことをお願いします」

「頼りにしてるわよ」

「はい、どうぞお任せください」


 ハンターは自信たっぷりだ。悪魔に恐れず立ち向かい、闇の炎まで鎮めて見せたのだ。

 信頼されるだけの実力はあるのかもしれなかった。

 他人事のように見ていると、両親が暖かく力強い眼差しを向けてきた。


「光輝、我々がいなくてもきちんと暮らしていくんだぞ」

「遠く離れていてもわたし達は親子だからね」

「うん」


 どこまで本気なのか光輝にはよく分からなかったが。

 ともあれ、両親はそれからすぐに出かけていった。

 家に帰ることもせず校門前に待たせていたハンターの組織が用意したらしい立派な車に乗って。

 光輝はただ見送るのだった。

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