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一話 改

マガジン×モーニングの漫画脚本大賞用に改稿した一話です。

 時坂光輝は普通の中学二年生だ。両親と中一の妹と暮らす四人家族。

 ペットの犬の名はケルベロス。名付けた妹の希美は魔の物に興味があるらしい。光輝は近所から変に思われなければいいなと思う普通の少年だった。

 朝、いつものように希美と一緒に中学校に登校することにする。二人一緒に家の玄関を出る。


「ケルベロス、行ってくるね~」

「ワン!」


 妹の言葉に元気に答える地獄の番犬、普通の犬。光輝はその微笑ましさに苦笑する。

 一緒に朝の登校の道を歩いていく。


「お兄ちゃん、今日の運勢は最高だったね。良い出会いがあるって。あたしは最悪だったよ……」


 そんな朝見ていた番組の話とかをしながら登校する。

 中学校に着いて、希美は一年の教室へ、光輝は二年の自分の教室へ向かう。学校はいつも通り賑やかだ。


「おはよう、時坂君」

「おはよう、凛堂さん」


 席に付くと、隣の席の凛堂郁子が挨拶をしてきた。特に親しいわけでは無い、黒髪ロングの似合う寡黙な少女だ。それっきり本を読み始めてしまう。光輝は授業の準備をする。

 いつもの授業が始まる。今日も平和だと思っていたら、いきなり窓ガラスやドアがガタガタと揺れた。突風かと思ったら、いきなり窓ガラスが割れて黒い影が飛びこんできた。

 鳥じゃ無かった。悪魔だった。最初はみんなわけが分からなかったが、一人が悲鳴を上げるとみんなが逃げ出した。光輝はただ立って見ているしか出来なかった。だが、ドアは開かなかった。

 悪魔は語る。


「無駄だ。ロックの魔法を掛けた。そのドアはもう内側からは開かない。お前達の中に闇の炎を受け継いだ者がいるはずだ。そいつを出せ」


 みんなには何の事か分からない。光輝も分からずに見ていると、郁子が悪魔の前に歩み出た。恐れずに堂々と啖呵を切る。


「闇の者よ、この世界であなたの好きにはさせないわ」

「お前、ハンターか!」


 悪魔はみんなの知らない郁子のことを知っているようだった。みんなが彼女を頼りに見る中で、郁子は先生に向かって言った。


「先生、この前わたしから没収した剣を返して! 闇の者はあれで無ければ倒せない!」

「あれなら職員室に置いてあるぞ。凛堂、あんな物を学校に持ってきちゃ駄目だぞ」

「職員室ね」


 郁子は颯爽と行こうとするが、ドアは開かない。悪魔は言う。親切に二回目。


「そのドアはロックの魔法を掛けているから内側からは開かんぞ」

「そうだったわね」


 悩んでしまう郁子。みんながハンターを頼りにして状況を見守る中で、光輝は思い切って言う事にした。


「悪魔よ、お前の狙いは何なんだ!」

「俺は主様から命じられて闇の炎を宿す者を探しに来たのだ。この辺りにいるはずなのだが。おや、お前の右腕から感じる力は……」

「気づかれたか」


 悪魔が飛びかかるのと、郁子が光輝を突き飛ばしたのは同時だった。光輝は机の脚で頭を打ってしまう。


「痛い! 何をするんだ凛堂さん!」

「敵の狙いはあなたよ!」

「え!?」

「お前が炎を宿す者だな。主様の仰られた通り、ここにいた!」


 悪魔が光輝と郁子を追い詰めるようににじり寄る。郁子は悔し気だ。


「刀さえあれば……」

「すまんな、凛堂。玩具だと思ったんだ」


 先生が謝った時、ドアが開いて希美が姿を現した。


「お兄ちゃん! 何の騒ぎ……!?」

「しまった! 俺のロックの魔法は外側には鍵を掛けられないんだ!」


 悪魔の注意が逸れた隙に、郁子は光輝の手を掴んでダッシュした。


「チャンスよ! 後をお願い!」

「分かった」


 後を希美に託し、郁子と光輝は教室から廊下へ飛び出した。そのまま職員室を目指して走っていく。希美は恐れを我慢して悪魔と向かい合う。


「魔の者、いつか対峙することになるとは思っていたけど」

「お前は我を恐れず向かって来るか」

「お兄ちゃんは必ず戻ってくるよ。そういう人なんだ!」

「そうか。ならば待たせてもらうとしよう!」


 二人の間に一触即発の空気が流れる。

 悪魔は光輝と郁子を追っては来なかった。光輝は途中で郁子の手を振り払った。


「何が起きているんだ! 説明してくれたって良いだろう!」

「そうね」


 郁子は真面目な顔をして説明してくれる。


「わたしは闇のハンターギルドから派遣されてきたハンターよ。闇の王の生まれ変わりと推測されたあなたを監視するためにこの学校に通っていたの」

「僕が闇の王の生まれ変わり!?」

「詳しいことは知らないけど、上はそう判断したの。上の決定に従うのが下の仕事よ」

「何で敵は僕を狙って……」

「それは敵に訊いてちょうだい。今は急ぐわ」


 郁子は光輝のびっくりするような勢いで職員室のドアを開けた。


「ドアは静かに開けなさい!」


 先生に注意されるのも仕方ない。郁子は動じなかった。


「緊急事態よ。静かにして」


 悪魔の現れた騒ぎは職員室にまでは届いていないようだった。先生達が問題児を見るような視線をぶつけてくる中で、光輝は気まずく思いながら彼女に代わって謝った。


「すみません、すみません」


 郁子は気にせず光輝の手を引いたまま職員室を通り、机に立てかけてあった剣を手に取った。


「あったわ、これがあれば奴と戦える!」

「じゃあ、早く戻ろうね」


 視線が気まずい職員室からすぐに出ようと光輝は思ったのだが、郁子はあろうことか剣を鞘から抜いて数回振った。


「うん、絶好調。勘は鈍ってないわ」


 郁子は満足気だった。


「はいはい、分かったから早く戻ろうね。すみませんすみません」


 光輝は彼女の背中を押してみんなにあやまりながら職員室を出た。

 廊下に出て光輝は周囲を確認する。悪魔の姿は見えなかった。


「まだ教室にいるのかもしれないわ。行きましょう」


 郁子は走って教室へ向かう。


「廊下は走っちゃ……」


 いけませんと言える状況では無かった。光輝は急いで後を追った。




「待たせたわね! 闇のハンターのお出ましよ!」


 剣を手にした郁子はまたびっくりするような勢いで教室のドアを開けた。光輝は今度は驚かなかった。だが、教室でいつもの授業が行われていたのに目が点になった。

 教壇に立っている先生が訊いてくる。


「凛堂、剣は取ってきたのか?」

「ええ、この手に」

「じゃあ、早くそいつを何とかしてくれよ」


 悪魔はまだいた。教室の後ろで授業を見ていた。まるで授業参観に来た親のようにのんびりと。

 組んでいた腕をほどいてこっちを見てきた。


「待っていたぞ。お前が必ず戻ってくるとこいつが言っていたからな!」

「お兄ちゃん!」


 希美が人質に取られていた。


「今度は逃げるなよ。逃げるとこいつが痛い目に合うからな!」

「くっ」


 人質が取られてはハンターもうかつに踏み込めない。光輝は訊くことにした。


「お前の目的は何なんだ。僕に何の用があるんだ!」

「お前の中には闇の炎シャドウレクイエムが宿っているはずだ。それを渡せ」

「シャドウレクイエム?」


 そう呟いた時だった。光輝の呼び声に呼応したかのように内なる闇が目覚める感覚がして、右腕が痛んだ。


「何だこれは。沈まれ! 僕の右腕えええ!」

「お兄ちゃん! ついにそっちの道に……」


 魔の者に興味のある希美は目を煌めかせる。


「違うよ! うわあああ!」


 闇が目覚めた。光輝の右腕から闇の炎が吹き上がった。みんながそれを目撃した。


「これが王の力!」

「シャドウレクイエム!」

「渡せ! それは真に王にふさわしい方の物だ!」

「ちょっと待ってよ。うわあああ!」


 希美を突き飛ばして飛びかかってくる悪魔。光輝は暴走を抑えきれずに悪魔に腕を向けた。

 闇の炎が発射され、悪魔は吹き飛び、教室の壁が破壊された。

 呆然とする光輝。


「時坂、後で職員室な」

「はい……」


 先生の言葉を光輝は断ることは出来なかった。

 郁子は剣を使えなくて手をうずうずさせていた。

 希美は闇に目覚めたかっこいい兄のために黒いマントを用意しないといけないなと思ったのだった。




 遠い異世界の城で、浴室に浸かりながら闇の王女リティシアは自分の使い魔がやられたことを察していた。


「我が使い魔が倒されるとは。向こうの世界で動きがあったか」


 指先を見つめながら不吉に笑う。


「闇の炎シャドウレクイエム。この手に!」


 拳を握り、彼女の元から複数の影が走る。新たな使い魔達が現世に向かって放たれていった。


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