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闇が来たと彼女は言った

 ごく普通の高校生、時坂光輝にとって日常とは毎日学校に登校して退屈な授業を受けて家に帰る代わり映えのしない毎日の繰り返しのことだった。

 そんないつ終わるともしれない日々に変化が起きたのは、相変わらずのいつもの授業を受けていた時のことだった。

 突然ドアや窓ガラスががたがたと揺れ、何かが破裂するような音が教室中で鳴ったのだ。やっとテロリストでも来たのかと光輝は少し興奮した。

 騒ぎ出す生徒達、収めようとする先生、何かの異変を伝える放送は無かった。

 そんな中、立ち上がった生徒がいた。いつも物静かで退屈そうにしていた隣の席の凛堂郁子だった。特に口を聞く用事も無いので隣の席なのに光輝は彼女と話をしたことがなかった。

 その彼女がこんな時でも冷静な態度を崩さずに言った。


「闇が……来た」

「え?」


 彼女は何を言ったのか、光輝はぽかんとしてしまう。思えば授業の受け答え以外で初めて隣人の声を聞いた気がする。

 そんな関わったこともない郁子はいきなり光輝をカッと睨むと、


「危ない!」

「いてえ!」


 突き飛ばしてきた。椅子から転げ落ちて倒された光輝は反対側の隣の机で頭を打って床にうずくまった。頭を抑え顔を上げて文句を言う。


「何をするんだ、凛堂さん!」

「闇の者が動き出したのよ! あなた、狙われてるわ! でも、何でだろう」

「知らないよ! それに闇の者って何!?」


 見ると教室の騒ぎはいつの間にか収まっていて、みんなが二人に注目していた。

 気づいていないのか郁子は光輝から目をそらさなかった。少し考えてから言う。


「そう、あなたには見えないのね。では、これを付けなさい。必要になるはずよ」


 そう言って郁子が出してきたのは黄色いカラーコンタクトだった。それを指先で摘まんで見せてくる。彼女の瞳は真剣だ。


「これを付ければ、あなたにも闇の者が見えるようになるわ。さあ、付けてあげる」

「やだよ! コンタクトを目に入れるのって恐いし! カラコンなんて中二病みたいだし!」


 光輝は目が良いし変に恰好を付ける趣味も無いのでそういった物は付けたことが無かった。

 だが、断っても郁子は聞く耳持たずに付けて来ようとする。光輝は押し返そうと抵抗するのだが、彼女の腕は意外に強くて押し負けていく。


「それに騒ぎも収まったみたいだし!」


 光輝の叫びに郁子は一瞬だけ横を確認したが、すぐにまた光輝に視線を戻した。


「まだ闇の者は去っていないわ。あなたには見えないだろうけれど、そこの机の上にいる。こちらの動きを探っているのよ。またすぐに動きだすわ。いいからこれを付けなさい」

「分かった! 分かったから離れてくれ!」


 光輝は妥協しようとするのだが遅かった。彼女の満足そうな声がする。


「ん、付いた」

「うおお! 俺の右目がー!」


 光輝は付けられた物の感触に右目を抑えてうずくまる。郁子は離れて立ち上がった。


「大丈夫。すぐに慣れるわ」

「くっそ」

「強引に取ろうとしては駄目よ。それには微弱ながら魔力が宿ってるから危険よ」

「おあああ」


 危険と言われては手を出せない。

 とんでもないことを言いやがる彼女の言葉に涙目になる光輝の視界の上で、郁子は振り返って先生に向かって言った。


「先生、あれは?」

「あれ?」


 いきなり話を振られて先生は聞き返す。郁子は言った。


「この前わたしから没収したあの剣よ。あれで無ければ闇の者は倒せない」

「ああ、あれね。あれなら職員室に置いているが……でも、駄目だぞ。学校にあんな物を持ってきちゃ」

「職員室ね」


 郁子は先生の注意なんて聞いちゃいなかった。自分の知りたい情報だけ聞きだすと光輝の手を引っ張ってきた。


「付いてきて。狙われているあなたを一人にするわけにはいかない」

「でも、今授業中だけど」


 光輝は授業を口実に断ろうとしたのだが、


「行ってこい。用事を片づけたらすぐに戻ってくるんだぞ」


 やっかい者を追い払いたい先生に言われてしまった。

 光輝は引っ張られるままに一緒に行くことになった。

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