覚醒
なんも変哲のない普通の日だった
その日俺は後輩から連絡があり車で遊びに向かっていた。
予定通りの時間だ、後輩からは何回もメールが届く、早く来てくれないとゲームができないです。早く来てください。別に遅れてはいないのだけれど早く遊びたいらしい。
到着して店に入る『おー、待たせたな、ちょっとトイレ行ってくる。』俺は用を足しにトイレに向かう。『‼️』おかしい?チャックが下ろせない‼️なぜだ?よく見ると左手が動かない事に気づく。あれ?シビれたかな?自分でもよくわからない。よく考える。やっぱり動かない。ある時気付く、足も動かない。俺はトイレで倒れこんだ。這いつくばって動く。頭がボーッとする,トイレにいた他の客が気付く『店員さん呼んできますね。』そして、店員が救急車を呼んでくれたそうだ。ここから俺の悪夢が始まった。救急車が到着する。店内が騒然とする。
後輩が駆けつけてくれる、『大丈夫ですか?中田さん!』その時の記憶はまだある。(すまん、迷惑かける』『俺の嫁さんに連絡してもらっていいか?携帯を取ってきてくれ、暗証番号は0000ー〇だ、俺はいいから解除して電話使ってくれ』
『分かりました‼️連絡しておきます‼️』大丈夫ですよ!もう安心してくださいね、レスキューの人が声をかけてくれる。自分のお名前わかりますか?まだきちんと聞こえる。中田です。中田和也です。年齢は?35歳です。何か病気は持っていますか?服用している薬はありますか?この時まだ相手が言っていることがわかる。おれは大丈夫だ。持病はありません。薬も服用していません。ただ、血圧が高めでした。このやりとりは、はっきりと覚えている。分かりました‼️応答願います!レスキューの人が多分病院だろう、連絡をしている。患者は35歳体重は約95キロ血圧が普段から高いとのことです!脳梗塞の可能性が高いです。脳梗塞の線で検査の準備をお願いします!今から向かいます‼️
あー、脳の病気かー、俺、もしかしたら、死ぬのかな、眠いなぁ、目をつぶろう、あ、意識がなくなる、死ぬのかな〜
くそう、嫁さんと娘は悲しむな〜、短い人生やったわ、父さん母さんごめん。先にいくことになってしまったかもしれん。すいません、親不孝者です。さようなら。
そこでおれの記憶は消えた。
お兄ちゃん❗️お兄ちゃん❗️
?あれ?誰だ?呼んでる気がする。光が射してくる。目の前が明るくなって来た。『あ!目が開いたよ!』ベッドの横には年の離れた妹がいた。
母もいた。あ!和也!大丈夫?『やった〜起きたよ、』『あ、ああ、。』
どうやら命があるらしい。でも、声が出ない光がまぶしすぎて目が開けられない。左手と左足が動かない。必死に右手でアピールする『何か書くものをくれ』ノートとペンを❗️その時俺は筆談すればいいと思ったようだ、今思えばこれも迷惑をかけた。目が見えないので右手の感覚だけで文字を書く、自分ではきちんと書いているつもりだ。後から見たが、またこれが酷い。家族と妻が解読したらしい跡があったがすごい、古代文字のような線が残っていただけだ。苦労したろうに、母と妹と妻に感謝だ。俺が何か伝えたいのだと思って必死に解読したと後から聞いた。書いてあったことは会社に連絡してくれだとか暑いだとかおしっこしたいだとか身の回りの事と仕事の事しかなかったらしい。そう、俺は仕事人間だったのだ。そんな話せない俺に妻はずっと寄り添って近くにいてくれた。夜になると帰らなければいけないのだが俺は寂しくて帰らないでくれと涙を流していたそうだ。妻は看護師をしている。だからほとんどのことをうまくやってくれる。その病院の看護師たちも『奥様が看護師でよかったですね』と言ってくれる。ただ辛いのが、脳の病気をしたらしいので暴れないようにとか、ベッドから落ちないように、体がベッドにくくりつけられていて辛い。起き上がることもできない。苦しい。唯一許されている行動が喋ることとナースコールを押すことだけだ。すこしづつ目も開いてきて口も動くようになってきた。何もできない毎日が続く。何だこれは?生きてる心地がしない。もしかして命が助かっただけでもう駄目なのか?こんなの家族と妻の荷物になるだけじゃないか?死んだほうがよかった、俺も妻もまだ若い。妻は1つ下の34歳だ娘も4歳だ、俺がいなくなればまだ再婚もできる。俺が言うのも何だが妻は年齢の割に童顔で顔も性格も可愛らしいと思う。しかも看護師だ。新しいパートナーなんかすぐ見つかるのではと思う。まだやり直せる年齢だ。俺なんかと結婚したためにこんな苦労を、かわいそうに。妻が話しかけてくれる。
『大森君から連絡があってすぐ駆けつけたけど、脳の写真見てすぐわかったよ〜、もうあなたは!私も脳外科にいたことあるからすぐ分かったね、駄目だってね。執刀してくれた谷口先生も『あんた看護師ならわかるだろう!今がどういう状態か、オペするよ!いい?まだご主人若いから何とかなるかもしれない!』『だってさ、』『はいって答えるしかなかったよ〜。私も34歳で未亡人か〜って考えたね、それくらい危険だったんだよ。あなた血圧高くて保険入れなかったからお金もないし言い方悪いけど死んでも何も残らないからね。あっはっはー。』
さすが俺が選んだ妻だ。強い。たまたま当直だったドクターがオペができる先生で結構すごい人だったらしい。それで俺は助かった。昔から運だけはよかったんだ。これは本当だ。仕事もこいつと結婚できたのも全て運がよかった。仕事も運を引き寄せとんとん拍子で出世してしまった。もちろんできる限りの努力は、確かにした。遊んでいたわけではない。妻と出会えたのも偶然だった。たまたま結婚しようと思っていた男性に結婚は考えていないと言われ、別れたばかりのとこに俺がひょいと現れうまくいっただけだ。
だんだん日が暮れる。
夜は眠れない、それもそうだ昼間あんなに寝てるんだから寝れるわけがない。もともと夜型の人間だ。仕事も夜遅かった。熱心だと捉えるか、だらだらおそくなってしまったかはわからないが帰るのはいつも午前様だった。おっと、俺の仕事が何だって?俺は学習塾の講師をしていた。頭がいいんですねってよくいわれるがそんなことはない、三流の大学しか出ていない。この会社に入ってから猛烈に勉強した、人生で一番勉強した。こんなんだったらもっと早く学生のうちにやっておけばよかったと後悔した位だ。俺は運がよかったと言ったが人生は失敗ばかりだ、高校受験で失敗し、大学受験も失敗、俺の時は就職氷河期と言われ仕事が全然見つからなかった。やっと見つけた仕事も半年で辞めてしまった。辛くて我慢できなかった。親不孝者だ。そこで考えた。
元々は教師になりたかった。
どこで駄目になってしまったんだろう?
中学生の時はそんなに成績が悪いわけではなかった。むしろよかった。クラス委員なども任され部活でもキャプテンをやっていた。それまで唯一輝いていた時代だった。
あ!そうだ❗️俺が腐った理由はここだ!高校受験の失敗、教育大学に行きたかったのでそれが狙える進学校を希望していたのだが、受験に失敗し、かなりランクが下がった高校に行くことになってしまった。そこがターニングポイントだったのではと、そこで俺は自分のような失敗をしてほしくないと考え高校受験をメインとする学習塾の面接を受けた。
『きみ本当にやる気あるの?!うちは会社を半年で止めるような根性無しは雇ったことがないんだよ‼︎』わかっていたことだが履歴書で突っ込まれる。そりゃそうだろ、給料払うんだからきちんとやれそうなやつしか採用しないでしょ。『しかも君太ってるし!自己管理ができてないからだぞ!』なんじゃそりゃ!外見のことなんか言うなよ!こいつむかつくなぁ。どうせそこそこ偉い立場でいきがってるくらいの人なんでしょ?そう思ってた。隣には社長が座っている。『まあまあ、いいじやないか。頑張る言うてるんだからやらせてみたら?』(駄目です!いくら人が欲しいからといって採用できませんよ!』『しかもテストの結果も悪いし!生徒より頭が悪いんじゃないか?』結果的にこれが俺の猛烈に勉強した理由だ。悔しかった。『すまんなぁ中田くん、川原くんは熱い男でな。本当に会社のことに真剣に考えてるからこそ厳しいこと言うんや』はあ、社長の前だからこんなに頑張ってるのかなこの人、と、その時は思っていた。が、実はこの人会社の経営を任されている事実上のトップで一番偉い人だったのだ、社長は基本的にこの川原さんという人に経営を任せているみたいで信頼を寄せているみたいだった。あぁ、
駄目だ、この人にどうやら嫌われたみたいだ不採用だなこりゃ。と思っていた。数日後電話がかかってきた。『もしもし、先日はどうもありがとう、川原です。あれからいろいろ社長とも話し合ったんだけども君が頑張りたいというのと.うちの卒塾生だよね、そういう意味も込めて前の会社での悔しい思いをぶつけて欲しいので一緒に頑張らないか?』お気づきかもしれないが俺は学生時代にこの塾に通っていたのだ。採用だ!やったー!さすがにこんなに手応えがなかった面接はいままでなかったが、どうやら採用らしい、親を悲しませないように頑張ろうと誓った。
この会社との出会いが俺の人生を変えていったかもしれない。