表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/175

控訴


『魔族の手先として人間を苦しめてきた非道許し難し。

 しかしながら魔族に関する情報提供はありがたく情状酌量の余地あり。

 よって被告に十年間の奉仕活動を命ずる』



 ……というのが、おれを奴隷として使役する建前だそうな。



 おれだって勉強はしている。

 国際法に照らし合わせればおれは完璧に無罪だってことぐらい知っている。

 この判決はおれを奴隷としてこき使うために「魔族にさらわれた」という事実を完全にシカトしている。



 つうかね、いちおうマイラルの国籍を持ち、イドグレスで活動していたおれを、こいつらが裁いちゃダメなのよ。

 国際法に準じるならマイラルに返還するのが筋ってもんなのよ。



 人の感情でいかようにも左右される。

 しょせん法律なんてそんなもんってこった。

 日本じゃなぜか神聖視されてるけどな。



 別にいいけどね。



 逆にいえば人心さえ掌握しちまえば法律なんてどうとでもなっちまうってことだ。

 いずれ悪用できるだけ悪用してやるから楽しみにしとけっていうね。



 とはいえ……今は、久しぶりの奴隷ライフを楽しもうと思う。

 戦士にもたまには休息が必要なのだ。





 おれは工場に放り込まれると作業着を着てベルトコンベアーの前に立たされた。



 ベルトコンベアーから次々と弁当が流れてくるので、その上にリグネイアの象徴ピピンの花を乗せるというのがおれの仕事らしい。



 一見楽な仕事のように思えるが、弁当はものすごい勢いで流れて来るので、正確な位置に花を置き続けるというのはけっこう大変な作業だ。



 でも一時間もしないうちに慣れた。



 慣れてくるとそれこそ思考停止で機械的に作業をこなせるようになる。

 こんなの魔法で自動化しろよといいたくなるが、たぶんできないんだろうなあ。

 魔法は万能の力ではないし。



 果てしなく退屈な作業。

 ある種の拷問といってもいいかもしれない。


 でも最近働きづめだったおれにはわりと心地よい時間だ。



 こうやって何も考えずに同じ作業を延々と続けていると、自分が工場の部品になったかのような錯覚に囚われるよな。



 工場の一部ってことはこの国の一部。

 国の一部ってことはこの世界の一部ってこと。


 つまり、今のおれはエルメドラと一体化しているのだ。



 ……という冗談はさておき――こうして実際に働いてみると、オルドの機械文明に近いテクノロジーを持っていることが実感できる。



 やはり、何か関連性があると考えるべきだろうな。

 石碑の解読結果が楽しみだ。







「リョウくん。君、もしかして未成年か?」



 仕事にもすっかり慣れたある日、工場長のイルヴェスサにそんなことを聞かれる。



「そうですが……それがどうかしたんですか?」


「リグネイアでは未成年は罪に問われないことになっているのだが」



 残念ながらおれが未成年であることを証明する方法がねえからなあ。

 あっても握り潰されてただろうけど。



「おれはこういうのは見逃せない性質だ。少し上に掛け合ってくる」


「え? あ、いえ、そこまでしていただけなくても……」



 ……どこの世界にもいるんだなあ。熱血漢っていう人種は。



 嬉しいっちゃ嬉しいけど、よけいなお世話だよ。

 出たくなったらそのときは脱走するからさ。

 ここの管理体制クソぬるいし。



 まあいいか。

 どうせすぐに泣きを入れてくるだろ。

 懸命に「がんばったけどダメでした」アピールをしながらさ。

 偽善者万歳。





 ――ところがこのイルヴェスサという男。おれの予想以上にがんばった。



 おれがもう判決が出た後だからやめろっていっているにも関わらず、何度も何度も警察機関に不当を訴えかけ、なんと工場外で署名活動まで始める始末。

 最初は傍観していたこのおれも、ここまで来ると逆にうざったく感じてきた。



 あまり目立ちすぎるのは困る。

 おれが工場内で白い目で見られるのはもちろんのこと、いずれするつもりでいる脱走計画にも支障が出てしまう。



 もっとも一番困るのは、こんなよく知らん人間に借りを作ることだが。

 ここまでされたら、たとえ結果が出なくてもおれはこいつに感謝しなきゃならなくなる。それは正直すごくイヤなんだが。



 まさかこんなところでマリィの気持ちを理解するとは思わなんだ。

 マジック隊長はともかく錬金術師をバカにしている清掃業者なんぞに借りなんか作りたくはなかっただろうなあ。





「やったぞリョウ! 判決を覆してやった!」



 イルヴェスサがおれのところに喜び勇んでやってきたのは、署名活動を始めてから一月ほど経った頃だった。



「えぇ……マジですかぁ?」


「本当だ。これを見ろ!」



 イルヴェスサが持ってきた紙切れには裁判所の捺印が入ってる。

 まさかマジで判決を覆して来るとは思わなんだ。

 熱血漢もたまには役に立つもんだな。



 ええっと、なになに……、



『被告を未成年であると認め、成人するまで刑の執行を延期する』ねえ。



 ふぅ~ん、へぇ~……なるほどねぇ。





 ただ延びただけじゃねぇ――――――――かッ!!!





 むしろ拘束期間が増えてるだろ、これッッ!!!

 なめとんのかボケッ!!



「やったなリョウ、これで学校に通えるぞ!」



 こ、こ、この男…………いつかころす……ッ!



ありがた迷惑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ