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奴隷ふたたび


「――はい、ありがとうございます。このご恩は決して忘れません」



 マリィはマジックさんとの通話を切ると、恨みがましそうにこっちを見てきた。



「君のおかげで隊長に要らぬ苦労をかけさせた。清掃業者にも借りを作ってしまったし……今日はさんざんだよ」



 過ぎたことをとやかくいうな。

 目的は達したんだから喜ぶのが先だろう。



「これでそのレポートがろくでもないものだったら、さすがの私も怒るぞ」



 怒るだけなんかい。

 お優しいことで。


 まあその心配は無用だけどな。








 庭園に戻ったおれたちは、休息の間にてレポートの内容をあらためた。



 幸い中身は無事で、何ひとつ抜けはないようだ。



 命拾いしたなグゥエン。

 おれの大事なレポートに何かあったら、おまえ……死んでたぜ?



「これはすごい。主要都市の情報や魔族の生態について実に事細かく書かれているではないか。特に聖煙に関する調査が興味深い。もしかしたらイドグレス攻略の糸口になるやもしれん」


「そんなどうでもいいことより重要なのはオルドの機械文明だ」


「いや、まったくどうでも良くはないのだが……」



 おれは写真機で撮ったオルドの石碑をマリィに見せる。



「おれの勘では、ここに刻まれている文字は古代リグネイア語だ。リグネイア一の錬金術師のあんたなら解読できるはず」


「リグネイア一か。私もそこまで驕ってはいないつもりだが……」



 マリィは渡した写真をじっと見つめる。



「……残念ながら私にも読めん。私に読めないということは他を当たっても徒労に終わるだろうな」



 ダメか。

 おれは思わず舌打ちする。



「だが古代リグネイア語だというおまえの推測は間違っていないと思う」


「だったらなんであんたに読めないんだ?」


「古代リグネイア語とひとくくりにされてはいるが、当時のリグネイアには統一国家がなく、地方によって言語が違ったりすることもザラだったからな。こいつはかなりマイナーな地方言語で、おそらく文献は残っていないだろう」



 ……望みは断たれた、か。



 さて、これからどうするべきかな。


 やはりオルドで拾った鉄蜘蛛の残骸を解析するのが王道か?


 ん~……なんだかまたイドグレスに帰りたくなってきたなあ。



「だが諦めるにはまだ早い。おまえがこの石碑を見て古代リグネイア語だと推測できたように、言語体系は違えど大陸特有の規則性というものは存在する。解読は可能だ」



 おお!

 一筋の光明が見えてきたか!

 そうこなくっちゃ! やっぱリグネイアに来て良かったぜ!



「この写真は解読班に回しておこう。レポートも預からせてもらうがいいな?」


「ああもちろんだ。有効活用してくれ」


「これで君はめでたく用済みになったわけだが……」


「なに解放してもらえんの?」


「冗談は顔だけにしたまえ」



 確かにおれの顔は冗談のようにイケメンだけどな。

 でもそういう話じゃないんだろうなたぶん。

 自分でもとても虜囚とは思えない、不敵な面構えをしてると思うよ。



「軍本部からは捕虜としてしばらくこの庭園に閉じ込めておくよう通達を受けている。その後の沙汰はわからないが、おそらくは奴隷同然の強制労働コースだろうな」


「ああ、そうなんだ。それはよかった」


「いいのか?」



 いいよ。

 つうか最初からずっと奴隷だし。

 処刑されるよりナンボかマシだわ。



「私から減刑を嘆願することも可能だが……」


「いやいいよ。裁判も要らねえや。どっかの労働施設にでも適当に送ってくんない?」



 あっ、でも石碑の解読結果だけは教えろよ。

 それだけは約束してくれないと困るぜ。


 主におまえらが。



「おまえらの対応如何によってはこの庭園を爆破するかもしんねーから、そこんとこは充分に気をつけろよ」



 おれが脅してやるとマリィは苦笑いを浮かべた。



「おまえは本当におかしな奴だ。いいだろう、君がどこにいようと解読結果は必ず渡すと約束しよう」



 オッケー。

 それだけ約束してくれるならもういいよ。



 やれやれ……最近は看守長をやったり商会の会長をやったりと、何かとクソ忙しかったからなあ。

 これでようやくまたのんびりと奴隷ライフを楽しめるわ。

 一時はどうなることかと思ったが、やっぱしリグネイアに渡ってきて良かった。



 世界が未曾有の危機だってときに、自分だけのんびりしちゃっていいものかね。

 でもまっ、たまにはアリか。







 庭園に軟禁されていたおれの身柄は一週間後、国営の労働施設へ移送されることに決定した。

 マリィのいうとおり、これから奴隷として働かされるのだろう。



「いやぁ……なんだかもうしわけないなあ」



 おれが独りごちると、連行しに来た兵士が怪訝な顔つきをする。

 単なる独り言なんで適当に流してくれると助かる。



 田中たちが世界を救おうと必死になっている最中、自身の優れた才覚を何ひとつ生かさず思考停止で奴隷をやるのは最高の愉悦だ。



 多少経済には貢献してやるからさ……あんまし恨むなよ。

 恨むならリグネイア王だけにしてね。

 これ、おれの意志じゃないから。

 おれは悪くねえのよ。



奴隷大好き人間

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