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チリも積もれば山となる

 清掃会社から業者がやってきたのは翌日の朝だった。


 できれば当日中に済ませたかったが、急な依頼だったしさすがに文句はいえんな。



 もやしみてえにひょろ長い清掃業者の男は、おれたちと顔を合わせると露骨に嫌な顔をした。



「戦争屋と違ってこっちは忙しいんだから。予定外の業務は困るんだよねえ」


「本当にもうしわけない。空軍の不始末だから文句ならあいつらにいってやってくれ」


「ったく……マジックさまの頼みでなければ断ってましたよ」



 マリィが精霊を使い、恐る恐るといった感じに連絡を入れると、マジック隊長は二つ返事でOKしてくれた。

 こうして清掃業者もすぐ着てくれたし、マジで噂通りの人格者だな。

 弟子になりてえ。



 だが、魔法もろくに使えんおれごときが世界最高の魔法使いに師事するというのはあまりに恐れ多い。

 ド田舎の有名人ぐらいが分相応ってもんだ。

 おれは妥協の出来る男なのだ。



「では行きますよ」



 業者が持ってきた魔道具は、それはもう馬鹿みたいにでかい鉄のクジラだった。

 そいつがバカっと大口を開けると、ものすごい勢いでゴミを吸い取っていく。

 吸い取ったゴミは、ケツから分別されて出てくる。



 おれたちの持っている掃除機のパワーアップバージョンみてえな感じだな。

 ご家庭毎にゴミを分類しなくていいのは手間がかからなくていいね。



 今回は特別に布に包まれた紙類を選別してくれるよう注文したが……今のところはヒットしていない。



「……なかなか出てこないな」


「もしかしたら中身をぶちまけられてるかもしれねえ。探すからマリィさんも手伝え」



 おれは鉄クジラが吐き出した紙類の山に手を突っ込み、ひとつひとつ精査していった。





 き……気の遠くなるような作業だ。



 首都内で捨てられたすべての紙類に目を通すなんて不可能だろ。



 だがおれは不可能を可能にする男!

 やるっきゃねえだろぉがよぉッ!



「お二人とも、お疲れさまです」



 おれたちが紙の山の中でヒーヒーいってると、休憩をとっていたエクレアが差し入れを持ってやってきた。



 ぷはぁ~~うまいッ!



 疲れた体には水が染み渡るねえ!



「人手が足りねえ。すぐに手伝ってくれ」


「わかりました。ではさっそく!」



 エクレアは持っていた布袋を脇に置くと、紙の束に手を突っ込んだ。



 ……ん? この布袋、どこかで見たことがあるような……。



「なあ、その布袋。おまえのものか?」


「いえ、先ほど拾ったものですが。なんでこんな場所に無造作に落ちてるのか不思議で、つい持ってきてしまいました」



 それだぁ――――――――ッ!!!



「それがおれの持ってきた布袋だよ! なんで早くいわねえんだ!」


「えっ、そうだったんですか? あまりに堂々と落ちてたんで……」



 たぶんあの鉄クジラが吐き出したんだろう。



 すっげえ有能だなあのクジラくん!

 頼ってよかった清掃業者!



「中身は大丈夫なのか?」



 マリィにいわれておれはすぐに中を改める。

 まさか中身がないとかいうオチはねえだろうな。



「……問題ねえ、ちゃんと入っている! サンキュー師匠!」


「まだ弟子入りを認めたわけではないがな」



 無事目的を果たしたおれたちはガッチリと握手した。

 どこの世界でもシェイクハンドは友好の証だぜ。



「おっと、清掃員のあんちゃんに報告しねえと」



 もう切り上げてもいいってことを伝えるべく、おれは鉄クジラを操る清掃員のところに駆け寄ろうとした。



 ……ん?



 なんだ、あのピカピカ輝く砂の山は?



 さっきおれが通ったとき、あんなものあったっけ?



 好奇心を刺激されたおれは足を止め、砂山のほうに足を向けた。



「触るな!」



 おれが砂山に手を触れようとしたところで、清掃員のあんちゃんに怒鳴られる。

 いつの間にか鉄クジラがおれの前にまで詰め寄ってきていた。



「なに怒ってるんだよ。つうかこの光っている砂は何?」


「見りゃわかんだろ。金だよ金」



 えっ、金?


 なんでまたこんな場所に、そんな高価なものが……。



「おまえは余所者だから知らんかもしれんが、魔道具には金や銀のようなレアメタルが使われているんだよ」



 清掃員がいうには鉄クジラに飲み込まれた魔道具は、再利用可能な素材にまで分解されるらしい。

 すげえ便利な魔道具だなおい。



「魔道具に使われるレアメタルは微量だが、塵も積もれば山となる。そこの金は国家の財源となる。盗めば厳罰に処されるぞ」



 あ、それで怒ったんだ。納得。



 いやいや、盗まねえから。

 信用ねえなおい。



「なるほど、それで清掃業が国営なんだ。ちょっとした錬金術だなこりゃ」


「そうだ錬金術だ。おれたち清掃業者こそ無価値なゴミを貴重な財産に変える真の錬金術師よ」



 いわれてるぜマリィ。

 あんたら偽物だってさ。



 でもゴミを無駄にしないっていうアイディアはいいね。

 誇りを持って仕事しているのもいい。

 おれはあんちゃんのこと、ちょっとだけ尊敬するぜ。



「もっとも、おれのほうがもっとすごいけどな」



 だっておれはゴミを金に変える必要なんかねえもん。

 おれがゴミ山からすくい上げたものは、金なんか目じゃないぐらい価値ある人類の財産なんだからな。

石の中から玉を見出す

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