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夢の島

 首都カロナールから北上すること数十分。

 目的地であるゴミ処理場は、おれの想像よりはるかにでかかった。


 このリグネイアゴミ処理場には首都中のゴミが集まるそうだから、予想できて然るべき事態ではあるのだが……。



「この中からたったひとつの布袋を探すのか」



 ……絶望的だな。



 それでもやるしかねえんだけど。

 早くしねえと大事なレポートが焼却されちまう。



「そう悲観することはない。我々には魔法があるのだ」



 マリィが誇らしげにいうが……そんな便利な魔法がホントにあるのか?



「エクレア、例の魔道具を」


「はい、ただいま!」



 エクレアは車のトランクから三台の魔道具を取り出す。



 見たことのない魔道具だ。



 形状的には、日本の掃除機にすげえ似てるけど……まさかこのゴミ処理場をぜんぶ掃除するとかいいだすんじゃねえだろうな。



「日本生まれの君なら見覚えがあるかもしれんが、こいつは『掃除機』というとても便利な魔道具だ」



 そのまんまじゃねえか!

 もうちょっとネームをひねれよ!



「ご家庭の生活ゴミを手早く魔力で吸ってくれるため、奥さまに大人気だ」



 知ってるよ!

 そんなちっぽけな掃除機でこの膨大な量のゴミをどうする気なんだって話だよ!

 まさかそれで全部吸えるとかいいだすんじゃねえだろうな!?



「この掃除機は最新型でね。一番の売りは選択した対象物を吸引の対象から除外する機能にある」



 ……なんだと?



「さらにこの掃除機は先ほど私がちょっとした改造を施し、選択した対象物だけを吸引するようになっている。出力は最大にすれば十数キロの物体でも余裕で飲み込めるほど強力だ。どうだ、希望が出てきただろ?」



 それは素晴らしい。

 確かにちょっとだけ希望が出てきたぞ。



「確か君のレポートは紙に書かれているんだよな? 現代リグネイアでは記憶媒体に紙を扱うのは珍しい。対象物を紙に絞ればいけると思うのだが……どうだい?」



 おお、なかなかいいじゃねえか!

 確かにリグネイアでは情報はデータ化してフロッピーディスクに入れるのが主流!

 さすがは高名な錬金術師さま!

 頼りになるぜ!



 よぉし! 時間も惜しいし、さっそくこいつで大掃除を始めようじゃねえか!









 ――――……紙を吸引対象に絞れば捜し物なんて簡単に見つかる。



 そう思っていた時期がおれにもありました。



 掃除機を開けて、圧縮吸引した物体を復元して内容を改める。



 本、本、本。



 たまにナプキンや油取りなどの生活用品。

 それとトランプやボードゲームのような娯楽品も引っかかる。

 おっと、これは飲食店の伝票だな。

 こういうのは普通ぜんぶ紙製だよなあ。



「めちゃくちゃ紙に頼ってるじゃねえか!」


「うむ、首都のくせに意外と旧時代的だな。私の工房ではすでに紙などいっさい使ってないのだがなあ」



 あんたら田舎暮らしだけど、やってること自体は最先端だからなあ。



「おれも魔導データなんて形のないものが信用ならんからレポートに紙を使ってたわけだしなあ……ちょいとばっかし見積もりが甘かったな」


「聞き捨てならない発言だな。イドグレスでは魔力が使えないからしかたなしに使っていただけだろうに」



 それもあるけど、やっぱり紙は偉大だよ。

 どれだけ技術が進もうと、未来永劫になくならない媒体だと思うね。



「ああ、くそ! なんかいい探し方ねえのかよ!」



 実はイドグレスに戻ればレポートの写しがあるのだが……そのことをマリィに伝えるべきか?



 いや、できればそれは避けたい。

 レポートはアーデルの部屋の隠し金庫に保管してあるのだが、その中にはシグルスさんの剣もあるからだ。

 他はともかく竜鱗の剣をリグネイアのカスどもに渡すわけにはいかない。

 シグルスさんにあわせる顔がねえからな。



 てめえの尻はてめえで拭う。

 考えろマサキ・リョウ。この膨大なゴミの山から目的のモノを効率的に探す方法を。



「……なあマリィさん。このゴミってさ、全部埋め立てちゃうわけ?」


「まさか。貴重品や再利用できるものもあるのだから、きちんと分別はするよ」


「じゃあさ、その分別作業ってどうやるの?」


「それは国営の清掃会社の仕事だから詳しくは知らない。ただ、そうとう大型で高性能な魔道具を用いて分別作業を行うそうだ」


「そいつらに助っ人を頼むことはできないのか?」


「それは私の権限の外だ。日本育ちの君には想像しにくいことかもしれないが、国家直属の組織に頼みごとをするというのはとても面倒な事なんだよ。私のような下っ端軍人の要求など聞き入れてはもらえないだろうね」



 ふぅん、なるほどねえ。

 こんなところでも派閥、派閥か。ヘドが出るぜ。



「誰かいねえの? あんたのところで清掃会社を説得できる奴」


「私が知る限りはいないな」


「ウソつけ。おれでもひとり知ってるぜ」


「誰だ?」


「マジック隊長。この国であのひとのことを悪くいう奴はいねえんだろ?」



 普段は飄々とした態度をとっているマリィだが、これにはさすがに驚いたようだ。



「馬鹿をいえ! こんな些末ことで隊長の手を煩わせられるものか!」


「些末なこと? もしかしたら世界の命運を分かつ一大事かもしれないんだぜ」


「車内で話は聞かせてもらったが、イドグレスの機械文明の謎とやらがそこまで重要な情報になるとはとても思えない。私個人としては非常に興味深い案件だと思うし、君に協力するのもやぶさかではないのだが……」


「この際、大事か小事かなんてたいした問題じゃねえよ。マジック隊長が評判通りの大人物なら、困っている隊員を放ってはおかねえはずだ」


「それは、その通りかもしれんが……いや、しかしだな……」



 ごちゃごちゃぬかすな。

 もう決定したことだ。



 マジック隊長に連絡をとって清掃会社を説得してもらう。

 これが最善の解決案だ。



 おら、時間がねえんだからちゃっちゃと実行に移せよ師匠。



世界一高慢な弟子

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