表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/175

マリィ・マーマネス



「マジック隊長? ああ、隊長はお忙しい身の上でな。このような雑務はすべて私の仕事なんだ」



 茶をすすりながらマリィとかいう名の女はあっさりそういってのけた。



 ……がッ、



 ガッカリ、だ。



「世界最強の魔法使いに会えると楽しみにしていたのに……ッ!」


「なんだ、私では不満か? これでもマジック隊長から庭園を任されるほどの凄腕の魔法使いなのだがな」



 マリィは飲んでいた湯飲みをおれのほうにそっと差し出す。



「これが私の魔法だ。どうだ、すごいだろう?」



 すごい?


 すごいっていったい何が……。





 …………あっ、茶柱が立っている。





「知ってるか? 日本という島国では茶柱が立つのは縁起がいいこととされてるんだ」



 ナメとんのかこのクソアマァ!

 しょーもないことに魔法を使うんじゃねえよ!



 魔法っつうのはもっとこう……崇高で高尚なもんだろうがよ。

 具体的なことは一切いえねえけどさ。



 ダメじゃんおれ。



「とうぜん知ってるよな? おまえはどう見ても日本人だものな」



 こいつも一目でおれを日本人と看破してくるのか。



 ていうか、おれってそんなに日本人的に見えるのか?

 こっちに着てからも、あれこれと手段を尽くして髪を染めてるんだけどな。



「どうして白人の真似をして髪なんか染めている? 日本人なら日本人らしく黒髪を誇ればいいものを」


「日本人の真似をしているあんたにはいわれたくねえっすよ」



 何でといわれても……何でだろうなあ。



 きっと自分で自分が嫌いだからだろうな。



 髪を染めて外国人の真似事でもしてりゃ、自分が自分でなくなるとでも思ったんだろうよ。

 アホくせえとは思うが、今でも続けてるってことは未だにそう思ってるんだろうな。



 ……本当にアホだなあ、おれは。



「私は隊長の趣味につきあっているだけだ。わりと気に入っているがね。さて……君とは色々とお話がしたいが、とりあえず庭園に不似合いなその手錠は外してもらおうか」



 マリィがパチンと指を鳴らすと、おれの手にはめられていた手錠は無機質な音を立ててあっさり外れた。

 あんなナリだが、やっぱすげえ魔法使いなんだな。



「よろしいのですかマリィ殿? 彼はオーネリアス出身らしい実に野蛮な獣のような男ですが」



 おい、いってくれるな左隣の兵。

 また暴れるぞこら。



「彼の瞳には確かな理性の光がある。紳士的に扱えばそう大事にはならんよ。それにこの庭園に入った以上、あらゆる抵抗は無意味だ」



 マリィは兵の労をねぎらい席を外させると、おれに着席を促した。



「空賊どもが無礼を働いた。私から非礼をわびよう」



 おれたちはちゃぶ台を囲んでふたたび対峙する。

 和むといえば和むが……なんだかちょっとシュールな光景だ。



「いいんですか? 仲間を賊扱いなんかしちゃって」


「事実なのだからしかたない。リグネイア王もなぜあのような連中を野放しにしているのか、正直理解に苦しむよ」



 旧日本軍も陸軍と海軍の仲が悪かったらしいが、こういう派閥争いはどこの世界も変わらんのだな。



「被害に遭ったおれがいうのも何だけど、いちおう仲間なんだから仲良くしたほうがいいと思うぜ。向こうはあんたらの隊長のことを褒めちぎってたしさ」


「それはあの人が別格だというだけの話。他の魔法使いのことは陰でこきおろしているよ。『時代遅れの原始人』だとね」



 魔法使いは道具を利用せずに己の身だけで魔法を使う。

 つまり飛空艇という魔道具を使う金色の翼の連中のほうがより高等ってことか。

 んなわけねえじゃん。



「あんたらだって道具が使えねえわけじゃねえし、世界的に有名なのは魔法騎兵隊のほうなんだからただの嫉妬だわな」


「おお、わかってるじゃないか。君はなかなかいい男だな」



 おれはマリィにすすめられるがままにお茶を飲む。

 ホントはこういう毒物が混入されている可能性のあるものは飲んじゃダメなんだが、どのみち命を握られてるも同然な立場なわけだし……別に構わんだろう。



 まあ、どちらで死にたいかと問われれば、毒より魔法でころされたいがね。



 んー、うんまいなぁ。

 やっぱお茶は玉露に限るねぇ。



 どうやら毒は入ってなかったようだ……って当たり前か。情報を吐かせる前に捕虜を毒殺する理由がどこにある。



「敵対派閥からも敬われるマジックさんってすごいんだなあ」


「勿論。リグネイアであの御方を悪くいう者などいないよ」



 マリィはお茶を飲みきると一転、引き締まった軍人の顔になる。



 はぁ……ようやくか。


 捕虜の緊張を解くためか知らんが、とんだ茶番だったな。

 お茶を飲んでただけにな。



「ではそろそろ本題に移ろうか。魔王イドグレスの復活により今、我々人類は滅亡の危機に晒されているといっても過言ではない。君がイドグレスで得た情報を我々に……」


「あー皆までいわなくてもいいっすよ。用件は理解してるし、そのための準備もとっくの昔に完了してるから」



 おれは湯飲みを置くとにやりと不敵に笑ってみせる。



「おれがあんたらに捕まったときに、でかい布袋を持ってただろ? あの中におれが向こうで調査したデータが全部詰まってるから、まずはそいつを持ってきてくれ」



 そう、おれがたった独りでリグネイア軍に捕まった一番の理由がこれだ。



 こいつらを利用して解明させてもらうぜ。

 イドグレスの――否、この世界の謎をな。



 いやはや、マリィ殿が話のわかりそうな御仁で助かったよ。

 やっぱおれってラッキーマンよのう。



「あいわかった。君を確保した金色の翼に連絡してみよう」



 マリィがパチンと指を鳴らすと毛玉みたいな生物がフワフワと飛んでやってくる。



 書物でしか見たことがないが、あれが精霊ってやつか。



 精霊ってのには色々種類があって、こいつはたぶん声を運ぶ精霊だと思われる。

 ワイツの中にはこいつが入ってるそうだが詳しくは知らねえ。



「魔法騎兵隊第三遊撃部隊所属のマリィです。グゥエン隊長に取り次いでいただきたい」



 マリィが精霊を通して金色の翼を連絡を取る。

 どうでもいいけどあんた、めっちゃ階級低いな。遊撃隊長ですらないのかよ。

 そのわりにはさっきからやけに大物じみた態度とってやがるな。

 謎すぎる。



「……はい、そうですか。わかりました。では失礼します」



 指を鳴らして精霊を解放する。

 どうやら通話が終わったようだ。



「話は通ったのか?」


「いや……それが、少々困った事態になった」



 なんだ? 渡すのを渋ってんのか?


 いっとくがおれがいなきゃあのレポートを理解するのはたぶん無理だぞ。

 そういう風に書いているからな。



「おれに交渉させてくれよ。一発で納得させてやるからさ」


「いや、そうではなくてな……袋は捨てたそうだ」



 ……は?



「小汚い袋で、中身もわけのわからん記号の書かれた紙束が入っていただけだから、ゴミだと思って捨てたんだとさ」



 は……はあああああああああああああああああああああ!!?



「わけのわからん記号って! そりゃ多少は暗号を入れてるが、基本的には日本語しか使ってねえぞ!?」


「連中はリグネイア語しか解さんからな。他国の文化を理解する気すらない、どうしようもないアホ揃いなんだよ」



 どっちが獣なんだかとマリィが肩をすくめてみせる。まったくだ!



「今すぐ連中に探させろ! あれにはおれの人生が……いや、人類の希望が詰まってるんだぞ!」


「やめておけ。奴らに何かを期待するのは無駄だ。だからさっさと通話は切った」



 じゃあどうすんだよクソったれがぁ!

 なめとんのおんどりゃぁ!!



「今すぐ我々だけで探しに行くぞ。着いた早々にもうしわけないとは思うがね」



 いわれなくとも行くっつうの!

 断られてもついて行くっつうの!


 命より大事なおれのレポート――――絶対にこの手で取り戻すッ!



「前言撤回だ! こんなモノの価値もわからん連中と仲良くする必要はねえ!」



 特にグゥゥエェェン! きさまだけは絶対に許さんぞぉぉぉぉっ!!



 いずれ必ず思い知らせてやるからなぁぁぁぁぁぁっ!!

 覚悟しとけよぉぉぉぉぉッ!!!



仲間じゃないので問題ない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ