ロイクヤードへ
にわかには信じがたい話だが、おれは例のケンカ騒動から数日後に留置先を変更されることになった。
てっきりこれから手酷い拷問でもされるかと思っていたので、ちょっと拍子抜けだった。
連中の拷問技術がリリスお嬢さまと比べてどれほどか興味があったんだけどな。
まあいいや、たかが奴隷ひとりにケツまくるカスどもだ。
どうせタカが知れてる。
次の留置先に期待するとしますかね。
手錠をはめられ、新たな留置先に向かう際に乗せられた乗り物――これがなんとビックリ、自動車にそっくりなのだ。
こいつが噂の機装車ってやつか。
なかなかええやん。
でも外見的には日本車には一歩届かずといったところかな。
機能美を突き詰めると自然と美しくなるものなので性能的にもたぶん負けてるだろうな。
いやいや、惜しいところまで行ってるんだがなあ。
「なあ、あんちゃん。この車ってどこに向かってるの?」
車内でおれが尋ねると、左隣の兵士はあろうことかシカトぶっこいてきやがった。
軽くムカついたので何度もしつこく尋ねてやると、今度は肘鉄が飛んできた。
おれはその肘を軽く取って関節を極めてやる。
手錠をかけられていてもこのぐらいはできる。
おれの前にわざわざ肘を差し出すなんて……なんて素晴らしいマゾ野郎なんだ。
あんた気に入ったぜぇ。
今からたっぷりかわいがってやるよぉ。
「きさまぁっ!」
今度は右隣の兵士が怒声をあげて拳銃を引き抜く。
「撃ちたきゃどうぞご勝手に。ただしこいつの関節は回復魔法でもまともに治らないよう、ぐちゃぐちゃにするけどな」
回復魔法だって万能じゃない。
これでもおれは回復魔法には詳しい。
どうへし折ってやればまともに治らなくなるのかってのは一度研究したことがある。
ぐちゃぐちゃにするとはいってみたものの、完璧には破壊しないのがミソだな。
机上の空論っていうのもアレなんで、一度試してみたかった。
「……いったい、何が目的だ?」
「世間話」
「は?」
「だから、世間話だよ。隣にいたくせに話を聞いてなかったのか?」
最近の大人は人の話を聞かないから困る。
もしかしたら耳が悪いのかもしれんな。
「ちゃんとおれと会話してくれるっつうのならすぐ外すよ」
「わかってるのか? セーフティは解除した。引き金にも指がかかっている。おまえが何かしようものならすぐに射殺できるんだぞ」
「だから好きにしろっつってんだろ。本当に人の話を聞かない奴だな。だいたいおれはあんたとは話してねえ。部外者はすっこんでろよ」
話の腰が折られてはなはだ不愉快だ。
話を戻すべく左隣の男に声をかける。
「あんたが選びなよ。おれと楽しくお話するか、それとも関節を犠牲にするか?」
「正気かおまえ? 命をかけてまでするようなことか?」
「知らなかったのかい、正気じゃイドグレスでは生き延びれられねえんだぜ?」
大した持ち合わせのないおれだけど、だからこそ持っているものは全部使う。
命はおれの最大の持ち物だ。遠慮なく使う。
今んとこ、あんたの関節と同等程度の価値しかねえけどな。
「……わかった。要求を呑もう」
兵士が諦めると、おれも関節を外す。
おれの命もそうお高くはない。今日のところは言質だけで勘弁してやるよ。
「で、どこに向かってんの?」
「首都の南西にあるロイクヤードという町だ。魔法騎兵隊の本拠地で、おまえの身柄は暫くそこで預かることになっている」
魔法騎兵隊か。
名前からして魔法の歴史に詳しそうだな。
そいつは好都合だ。
「処刑されないのか?」
「今のところは予定にない。おまえはただの人間だしな」
なるほどねえ……それで暴力を使って少しでもスッキリしようとしたわけか。
ますます好都合。脱獄する手間が省ける。
「本国はおまえからイドグレスに関する有益な情報を得られることを期待している」
「マジかよ。おれ、ただの奴隷だぜ?」
「ただの奴隷ではないことは現地住民からの証言からも明らかだ」
「ああ、それそれ。それが一番聞きたかった。現地住民の身柄はどうなったの?」
いちおう住民に手を出さないという条件をつけて降伏したんだ。
悲惨なことになってなきゃいいんだがな。
「現地住民にはいっさい手を出してはいない。これでも我が軍は国際法を遵守しているからな」
「おいおい、国際法じゃ捕虜への暴行は禁止だぜ? おれは連中に殴られまくったぞ」
「捕虜から暴行を加えられた場合は正当防衛が成立する」
あっ、それで腕の拘束を外して反撃することを促したんだ。
なるほど納得したわ。
さすがはヤクザ軍隊、適度にクズいなあ。
「まあいっか。そんだけわかればいいわ。じゃあ、今度はあんたの番だ」
「……?」
「何事もギブアンドテイク。聞きたいことがあれば何でも聞いてくれ。これでもおれはそこそこ波瀾万丈な人生を送ってるから、おもしろい情報が得られるかもしれんぞ」
おれの申し出に兵士は少し戸惑うも、おれがイドグレスで何をしていたのか尋ねられた。
せっかくの機会なんで、教えられることが可能な範囲で教えてやったよ。
パーガトリという監獄で看守として働いていたこと。
イドグレスの歴史を解き明かすべく遺跡調査に明け暮れていたこと。
奴隷と結託して反乱を起こしたこととかな。
あっ、最後のはいっちゃまずかったかな。
まあいいか。もうあの町で働くことはないだろうし。
「……ウソだろ?」
ウソみたいな本当の話だ。
なんかおれの話を聞く奴はみんな似たようなことをいうんだよなあ。
おれが選ばれすぎてるせいで話の内容に現実味がないんだろうなあ。
「ぶっちゃけあそこで真面目に働いてたのも、親善大使としてリグネイアに渡るためだったんだよね。あんたらのおかげで計画が三年は早まったわ。サンキューな」
「親善大使だって!?」
「そうだよ。だってこんな戦争くだらねえじゃん。さっさとやめたほうがいい」
戦争だって経済を回す原動力にはなりえるけどさ、いくらなんでも長すぎるんだよ。
こう泥沼化しちまったら、もはや両国共に益がねえよ。
「仲良く手を取り合えとまではいわねえさ。でも一時休戦するぐらいはいいだろ?」
益がねえことを長々とやってると経済が回らねえ。
経済が回らねえとみんな頭が回らなくなる。
馬鹿が増える。
馬鹿が増えると馬鹿が集まり馬鹿げたことをやりだすようになる。
それはみんなを不幸にする。
だから――
「おれが戦争を止める」
形はどうであれ、こうしてリグネイアまでやって来たんだ。
だからイドグレスの代表として、やれるだけやってみるさ。
――遺跡調査のついでだけどなッ!
あくまで自分の都合優先




