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リグネイア大陸


 リグネイア軍にあえなくとっ捕まったおれは、飛空艇に乗せられてあっという間にリグネイアの首都カロナールへと連行された。



 牢に繋がれたおれのところに、リグネイアの兵士たちが集まってくる。

 そんなにおれのことが物珍しいのかね。



「彼がガルデの責任者? ただの人間じゃないか」


「いえ、町長のミクネには逃げられました。彼は奴隷を管理する看守の長です。ただ、どうもこの町のNo.2的存在のようでして……」



 ノーティラスに頼んで処刑されそうなミクネたち要人は逃がしてもらった。

 おれも一緒に来いといわれたが……それは断った。



 町を預かる者がまっ先に逃げ出すのはあまりに無責任。

 被害を最小限に抑えるためにも降伏の声明を出す者は必要。

 だが敵軍に捕まれば処刑されるのは明白。

 ならば部外者かつ同族であるこのおれが声明を出すために残る。



 おれがそういうと、ミクネは何やら感動していた様子だったが……実をいえば単におれの都合だ。

 ノーティラスはおれのことを強く引き留めなかったから、おそらく察していただろうけどな。



「魔族に魂を売ったか。堕狗グードめ」



 それは心外。

 おれは人間と魔族はわかりあえると思ってるからな。



「出ろ。隊長がお呼びだ」



 衛兵に促され、おれは雑兵どもの軽蔑の視線を一身に浴びながら牢を出た。


 おいおい、いくらおれがイケメンだからってそんな熱い視線で見つめんなよ。

 あんまり見つめ続けるとあまりのまぶしさに目が潰れるぜ。





 隊長とやらの部屋に案内されると、なぜか手かせを外された。

 まるで意味がわからん。



「君がマサキ・リョウか。部下からの報告によると、ガルデの町のNo.2とのことだが……」



 まるで熊みたいな外見をしたゴツくてむさ苦しいおっさんだった。

 ぼうぼうの無精ひげが見苦しいことこのうえない。

 ちゃんと剃れよ。

 リア王を前にして無礼であろうが。



「……それは事実なのかね?」


「答えてもいいが、その前に名乗りなよ。名前も知らん奴に話すことはねえよ」



 あえてぶっきらぼうにいってやると、熊男は豪放に笑った。



「いい度胸をしている、気に入った。おれの名はグゥエン。グゥエン・ロド・マルクマードだ。飛空艇による遊撃隊『金色の翼』の隊長を任されている者だ」



 へぇ、なかなかご大層な肩書きを持っているじゃないか。

 おれもリア王と名乗りてえところだが……残念ながらまだ自称なんだよなあ。



「おれの名はマサキ・リョウ。ただの奴隷だ、よろしくな」


「ただの奴隷は町を代表して降伏声明を出したりはしないが」


「だったらすげえ奴隷に変更するわ」



 やれやれ、事情を説明すんのが面倒臭いなあ。


 とりあえずおれは、オーネリアスから魔族に拉致されてパーガトリで働かされていたことをグゥエンに伝えた。



「……それで働きが認められて看守長に任命されたと」


「そっ。で、おれは向こうでは商人だったから、パーガトリの経営も任されていたってわけよ。その縁で町長とも仲がよくてね。だからNo.2なんて思われてたのかもな」


「町長ではなく、おまえが声明を出した理由は?」


「お偉いさんはみんな逃げちまったんだからしょうがねえだろ? おれが降伏声明を出さなかったらあんたらあの町を焦土にする気だったろうに」



 罪のない非戦闘員がいようが、人間の奴隷がいようがおかまいなしにな。

 まったく恐ろしい連中だよ。魔族のことをとやかくいえんな。



「つうことでおれは無実な一般人なわけよ。仕事があるんでコープスに帰してくんないかな?」


「そりゃ無理だ。おまえは魔族に与した罪人としてここに運ばれてきた。イドグレスの内情を知るための重要参考人でもある。それとな……」



 グゥエンは笑いながらおれに近づくと、その丸太のような腕でおれの腹を殴ってきた。



「おまえさ、年長者への礼儀がなってないぞ」



 腹を抱えてうずくまったおれの顔面に、さらに蹴りをぶち込んでくる。



「どうした、でかいのは態度だけか? わざわざ手かせを外してやったんだ。ちょっとは反撃してみたらどうだ?」



 ……あ、いいんだ。反撃しちゃっても。



 そりゃありがたい。


 じゃあ――遠慮なくッ!




 おれは素早く立ち上がり、グゥエンの髪をひっ掴んでその鼻っ面に膝をぶち込む。



「ガぁッ!」



 お次は痛みで仰け反って無防備になったどてっ腹に回し蹴りを放り込んでやった。





 あんたさ、一見強そうに見えるし、実際そこそこ強いんだろうけど……体型がアスリートのそれじゃないぜ。


 だからパワーはあっても敏捷性スピードがないんだ。



 ボディビルダーの筋肉が実戦では何の役にも立たないゴミなのと同じように、

 横綱級の相撲取りがケーワンでは通用しないのと同じように、


 あんたの肉体じゃ、おれのシャープな動きにはついてこれねえんだ。



 つまりな……てめえらなんざ、飛空艇がなけりゃその辺のヤクザとさして変わんねえってことよ。



 そんなあんたに見せてやろう。

 日本の空手家特有の、光速の連撃コンビネーションってやつをな。



「ヒャッハァ――――――――ッ!!!」



 軍人風情が! いいこと教えてやるよ!

 こっちの拳闘の技術はなぁ、あんたらの百年先は余裕で行ってるんだぜぇッ!



 おれは現代日本空手の申し子!

 ミチルみたいな天才でもなけりゃ、素手でこのおれさまは止められねえぜ!?



第五章開幕

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