ギャンブル
「なあエドック。おまえのセカンドネームさ、何かおかしくね?」
なんかこう、作者が適当につけました感あるよな。
なんでだ?
「逆だ。クッドエは鷹を意味し、狩猟を生業とするリコの村ではポピュラーな名前。適当なのはファーストネームのほうだ」
「まさかと思うが……」
「右から読んでも左から読んでも同じ名前になるようにって親がつけたんだよ」
「……くっ」
くっははははははははっ!
馬鹿じゃねえのおめえの親! 名前を回文にするとか思いついても普通やらんわ!
おれの知り合いにも田中太郎とかいうくっそ適当な名前をつけられた勇者がいるけど、おめえはそれ以上だな! キラキラネームのほうがまだマシだわ!
「リコの村の英雄さまも親には恵まれなかったんだなあ」
「おれのことはどうだっていいんだよ! そんなことより今後の話だ!」
エドックが机をバンと叩く。
おいおい……今後も使うんだし、壊れたら困るからやめてくれよ。
「今後の話はもうしただろう? 会議はもうおしまいだ」
「だったらいつまでここにいるんだ! さっさと戻れ!」
「馬鹿だなあ。おれたちゃ無理難題を要求してくる奴隷と交渉に来てるんだぞ。最低でも4~5時間はここに居座りたいね」
交渉が難航してる感を演出したいからな。
すぐに帰宅ってわけにゃいかねえよ。
だからこうしておまえをいじって遊んでるんだ。
「……あんな適当な作戦で、本当にうまく行くのかよ」
「行くのかよ、じゃなくて行かせるんだよ。このおれがね」
このおれを誰と心得る。
リア王、マサキ・リョウさまだぞ。
どうだ、おまえの名前の五倍はカッコいいだろ。
うらやましいか? やらんけどな。
「まあおれがっつうか、そこのじじいが何とかしてくれるわけだけどな」
おれはとなりでレイラを視姦しているノーティラスに話を振る。
「……? あ、ああ。任せとけい」
うわの空で返事すんな。
どうやらじいさん、レイラのことをいたく気に入ったようだ。
テトラだったらころしてるところだがそいつなら許す。存分に犯せ。
「なあリョウ。その魔族、本当に信用できるのか?」
エドックが不審そうな目でノーティラスを見る。
魔族を信用できないのは当然だが、そういうのを本人の目の前でいっちゃダメだろ。
確かおれより一つ下だったっけ? まだまだケツが青いな。
「リョウよ、この小僧にちゃんとわしのことを説明してやれ」
「この変態具合を見りゃわかんだろ。まるで信用ならんじじいだよ」
「おいぃぃぃぃっ!」
「でも使う。イドグレスを脱出するだけならおれ独りでどうにかなるかもしれんけど、おれはおれの理想のためにこのじじいを信頼する」
人間と魔族はわかりあえる。
それがおれの理想だ。
ハッキリいって綺麗事だ。
そんな簡単にわかりあえるなら、とっくの昔にこの世から戦争はなくなってる。
でもおれは自分がやりたいと思ったことだけをやる。
夢の理想だけで生きていく。
おれの命はそのために全部使う。
ただそれだけだ。
「にしても説明ねえ……そういやノーティラス、あんたいったい何者なんだ?」
「なんじゃ藪からぼうに。見てのとおりイケメンエルナじゃが」
「いや、なんか町のみんなあんたのことをやけに敬っているからさ。あのアーデルでさえあんたのことをさん付けで呼んでるし」
「そりゃわしはこの町一番の年寄りじゃからのう。長老に敬意を払うのはどこの世界でも共通じゃろうて」
それにしたってなぁ……どうにも引っかかるんだよなあ。
「たとえば、たとえばの話だが……昔は偉い役職についていたとか、ない?」
「おや、話していなかったか? わし、昔はロイヤルズじゃったんよ」
おぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!
そんな話、まったく聞いてねえ!
聞かなかったおれもおれだが、そういう話はもっと早くいえッッ!!
「もっとも、とっくの昔に除席されとるがのう。アーデルはわしの後輩じゃな」
「……好奇心から聞くが、なんでやめたんだ?」
「なんでも何も、見てのとおり歳じゃよ。さすがにもう昔のようには働けんわ」
ノーティラスが口の中でもごもごと呪文を唱えると、目の前にある会議用の大机がまっぷたつに割れた。
真空魔法だ。
しかもかなり高度な。
生身の人間が食らったらひとたまりもない威力だ。
「う~む、イマイチな切れ味。やはり歳には勝てんのう」
「イマイチ、じゃねえよ! その机いくらすると思ってんだ!」
おれが襟首をひっ掴むとノーティラスは年寄りはいたわらんかいと駄々をこねる。
うるせえよ変態じじい。おれはあんたが何者だろうと態度は変えねえぞ。
「やはり信用できないじじいだが、それでも元ロイヤルズという肩書きだけは利用できそうだ」
「わしを過去の栄光だけで生きてる風にいうのはよさんかい」
事実だろ。
あと机は弁償しろ。
「じゃあそろそろ解散するか。後はテトラの指示に従って行動してくれ」
日もすっかり暮れてきた。
おれはテトラに手かせをはめてもらうと、簡単な別れのあいさつをかわした。
「リョウさん、あなたに女神のご加護のあらんことを」
テトラ……あんたと別れるのは寂しいけど、もう少しの我慢だと思うことにするさ。
「おいリョウ」
帰り際になぜかノーティラスに呼び止められる。
「あのショートカットのおなご。名前はなんというんじゃ?」
もしかしてレイラのことか?
あいつのこと、そんなに気に入ったのか。
おれはとりあえず名前と簡単なプロフィールを教えてやることにした。
「なあリョウ、今回の仕事の報酬は彼女に決めたぞ」
ああ、そういや今回も女の髪をやると約束していたな。
それにしても、よりにもよってレイラか。
悪趣味なじじいだなあ。
「そりゃ無理だ。あいつは基本おれのいうことには従わねえからな」
「そこをなんとか! わし、今回はがんばるから!」
ちっ、しかたねえじじいだなあ。
だがすべては計画のため。
どうにかしてやらんでもない、が……。
「承知と思うが女にとって髪は命。無理をいって切ってもらうわけにはいかない」
「それは、そうじゃが……」
「だからあんたが直接交渉しなよ。そのための舞台はセッティングしてやるからな」
「ど、どういう意味じゃ?」
「あいつとデートしなよ。それで仲良くなれば、髪だって譲ってもらえるさ」
おれの提案に、ノーティラスはまるで子供のように目を輝かせた。
「よォし、今回の作戦はぜったいに成功させるぞい!」
意気揚々とスキップするノーティラスをみて、おれは大きなため息をつく。
やれやれ、ホント困ったじいさんだよ。
アーデルも歳を食ったらあんな感じになるのかね。
そんなアーデルは見たくねえわ。
あんなガキみたいなエロじじいにおれたちの命運を託すかと思うと、
素晴らしく危険なギャンブルに胸が躍るなッ!
理想など建前!
破滅上等のギャンブル狂い!




