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反乱

 ここガルデの町には新聞という文化がある。

 デザイアの時代から連綿と受け継がれてきた大いなる遺産というやつだ。


 つっても現代日本のように世界中の情報がビッシリ載っているというわけじゃない。

 あくまでも低レベルな地方紙。

 近所の猫が子供を産んだとか基本しょうもない情報ばっかりだ。



 その新聞を作っている会社が、今朝号外を出したわけだが……これが珍しくショッキングで重要な内容なんだな。

 一面の見出しはこうだ。



『パーガトリ奴隷に乗っ取られる』



 昨晩未明、リコの村の英雄を自称するエドック・クッドエという人間が、看守たちに向けてこんな声明を出したそうだ。



「パーガトリは我らが乗っ取った! 開放して欲しくば我らを解放せよ!」



 西の塔で看守長の就任パーティをやってる最中の脱獄劇だった。

 看守は全員パーガトリを出払っていたため、奴隷たちを鎮圧することができなかったのだ。



 もちろん看守たちは奴隷の要求など飲まず、すぐに抗戦した。

 だがそこは堅牢強固な要塞監獄パーガトリ。いったん籠城されるとこれがなかなか落とせない。

 アーデルという大戦力を欠いた魔族たちは奴隷の抵抗にあぐね果てることとなった。



 籠城対策の基本といえば兵糧責めなのだが、パーガトリに限っていえばそれは通用しない。

 なぜなら町で消費する食料生産はパーガトリ内部で行われているからだ。

 逆にこっちが兵糧責めされる立場なのだ。



 ガルデは奴隷任せの歪な社会構造のツケをここで支払う形になった。



 エドックは町の責任者との対話を望んでいるが、おそらくこれは通らないだろう。

 その件でおれは今、役所に呼ばれていることだしな。



 さて……新聞には一通り目を通したし、そろそろ行きますかね。





「いやいや、これはまずいことになった」



 事務用の机に肘をつき渋い顔をしているのは……誰だっけ?



 ああ、そうだ思い出した。ミクネ町長だ。

 いかんいかん、興味のない奴の名前をすぐに忘れてしまうのは悪い癖だ。



 ……いや、良癖かな?


 脳の容量にも限りがあるわけだし、要らない情報はどんどん捨てていかないとね。



「もうしわけありません。これは看守長である私の責任です」


「まったくだ。後始末はきちんとつけてくれよ」


「処罰なされないのですか?」


「着任前に起きた不祥事。君の手腕とは無関係の話だよ」



 おれはミクネの寛大な対応にうやうやしく頭を下げた。

 ま、これから美味しい蜜を吸わせてくれるであろう相手をそう簡単には切れんか。



「君の手腕は今から見せてもらいます。この前代未聞の大事件、どうにかして収めてくださいよ」


「もちろん私も全力で事にあたりますが……首謀者は町長との会話を望んでいます。あなたに来ていただかないことには何も始まりません」


「武力で何とかならないのかね?」


「それは昨晩行いました。町の現有戦力ではあの要塞は落とせません」


「援軍を呼ぶことはできないのかね?」


「町の恥を大陸全土に晒すことになりますが、よろしいのですか?」


「う……それは困りますねえ」


「恥をかくだけならまだマシです。このような失態、万が一アーデルさまに知られようものなら、我らの首はロギアのとなりに並ぶことでしょう」



 ミクネの面がサッと青ざめる。

 実際のところアーデルはシグルスさん絡みじゃなけりゃ滅多に怒ったりなんかしないのだが、まあこいつは知らんだろう。



「なんとか! なんとかならんのかね!?」


「ですから、まずは町長自らお出でになられないことには……」


「あんな野蛮な連中の群れの中に飛び込めるか! 君が何とかしたまえ!」



 なんという弱腰。

 まあ行ったらとっ捕まって人質になっちゃうだろうから正解だけどな。



「わかりました。では私が市長代理として交渉にあたります」


「君ひとりで大丈夫なのか?」


「もちろんひとりでは行きません。人間に詳しい専門家がいますので、彼らに同行してもらいます」


「そうか。我らの進退がかかっているんだ、くれぐれもよろしく頼むよ」






 こうしておれは、ノーティラスたち親人派のエルナと一緒にパーガトリへと向かった。



「市長代理として交渉に来た! 門を開けてくれ!」



 おれが叫ぶと巨大な門が音を立てて開いた。



「入れ」



 おれたちは腕に枷をつけられて、パーガトリの内部に通された。





 使い慣れた会議室でおれたちは待たされる。

 しばらくすると今回の反乱の首謀者たちが入室してきた。



 首謀者は三名。

 肩書きと名前は以下の通り。



 リコの村の英雄。エドック・クッドエ。

 オーネリアスのアマゾネス見習い。レイラ・セスタ。

 同じくオーネリアス生まれの才女。テトラ・セスタ。



「外してくれ」



 テトラに手かせを外してもらうと、おれはエドックと固い握手をかわす。



「う……」



 う……うう、



「うはは」



 ま、まさか……まさかこんなに、



「うははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」




 いやぁ、まいっちゃうなあ!

 まさかこんなあっさりうまく行っちゃうなんてなあ!

 もうちょっと難航するかなあって腹くくってたのによぉ!

 ぐへへへ、笑いが止まりませんなあ!



「リョウ……おまえもしかして、けっこうすごい奴なのか?」



 今頃気づいたのかい、遅いよエドックくぅん?


 そぉだよぉぉ~ん、おれはすごいんだよぉん。

 何しろ神に選ばれてここに飛ばされてきた男だからねぇ。



「げにおそろしい男じゃ。敵に回したくはないのぉ」



 そいつは誉め言葉として受け取っておくぜノーティラス。

 おまえも大した奴だよ。

 女の髪の毛欲しさにここまでついて来る奴はそうそういない。立派な狂人だ。



「ちょっと待て、こっそり酒宴を抜け出して奴隷を解放したのは私たちの手柄だぞ!」


「ぜんぶリョウさんの計画通りにやっただけだけどね」



 おお、レイラにテトラよ!

 おまえたちもよくやってくれた!


 おれが酒宴中にみんなの気を引いていたおかげとはいえ、見事な手際だった!

 このリア王が誉めてつかわす!



「はい、浮かれタイムはこれにて終了。計画はまだまだ始まったばかりだ。気を引き締めていくぞ」



 おれは安普請の椅子に足を組んでどかりと座る。

 自分でいうのもなんだが、その様はさながら世界の王のごとくよ。



「さあ始めようか。交渉という名の談合を」



反撃開始!

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