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機人


 こうやって地下の階段を降りていると、ティルノ遺跡のことを思い出すな。

 あのときと違うのは、先陣をきって歩いてくれるアーデルの存在だ。



 いやぁ、頼もしい。実に頼もしい。

 田中もミチルもあんまり頼りにならなかったからマジ助かるわ。



 だから、この下にある施設に向かうのも、比較的気分が楽だよ。



「敵はいる……と、考えるべきか?」



 当然。


 ティルノ遺跡は破壊されていて機能が停止していた。

 だがここは違う。

 悠久の月日を経てなおその機能が生きている。



 この先にあるものは容易に想像できる。

 想像通りなら、このまま生かしておくのは危険だ。



「おそらく施設は破壊することになる。そのときは頼むぞアーデル」





 地の底にある施設ものは、おおかたおれの予想通りのものだった。





 ごうんごうんと無機質な音を立ててベルトコンベアーが駆動する。

 その上に乗った鉄の蜘蛛は、ロボットアームによってさらに加工され、施設の奥へと消えていった。

 おそらくこのまま、どこかの神殿にでも配備されるのだろう。





 兵器製造プラント。





 それがこの地下施設の正体だ。



 結局ここもティルノ遺跡のエルナーガと同じようなもんってか?

 いやはや、物騒だねえ。

 もうちょっと平和なモンが作れねえのかよ。

 どうやらこの世界の神さまは尊敬できなさそうな感じだな。



「決定だな。この施設は破壊する」



 アーデルが呪文を詠唱する。

 これほどの施設が無傷で残っているのに少々惜しいがしかたがない。

 こいつを放置しておいたら最悪、大陸が蜘蛛だらけになっちまうからな。



「おっと、それは困りますヨ」



 ――誰かいるのか!?



 おれは声をかけられたほうに反射的に顔を向ける。



「この『エルセクト』は、あなたがた魔族を駆逐するために必要不可欠ですからネ」



 いっさいの気配を感じさせないソイツは、はたして人ではなかった。



「見られた以上は、死んでもらいマス」



 厳つい仮面で顔を覆い、修道服を着ているがその下は無機質な金属の塊。

 人の形はしているが、全身からオイルの臭いをプンプンさせてやがる。



 こいつは――――人型ロボットか!?



 大きく跳躍した鉄仮面は、疾風のごとき早さでおれたちに襲いかかる!

 その両手には鋭い鉤爪がついている!



「――ちっ!」



 アーデルは呪文の詠唱を中断し、間一髪のところで鉄仮面の一撃を剣で受け止めた。



「やるな貴様。名を名乗れ」


「ワタシの名はデンゼル。偉大なるゼノギア神に仕えるオルドの民の生き残りデス。以後、お見知り置きヲ」



 デンゼルは大仰にお辞儀をしてみせる。

 その態度やしゃべり方から、どこかピエロを連想させる奴だ。



 しかし……ゼノギア神?



 聞いたことのない神だ。

 ゴルドバ、ソルティアに続く第三の神がいるってことか。



「我が名はアーデル。誇り高きロイヤルズが一席。いざ尋常に――勝負!」



 あいかわらず閃光のように速いアーデルの剣。

 それをデンゼルと名乗る鉄仮面は紙一重でかわしていく。

 すげえな。おれなら初撃で死んでるね。



「我の剣をここまでかわすとは……貴様、人ではないな」


「人ですヨ。我ら <機人> はゼノギア神によって生み出された進化した人類なのデス」



 わずかに距離をとったデンゼルはアーデルに向かって手をかざす。



「よって魔法も使えル」



 デンゼルの掌から稲光。



 ――雷魔法!?



 早ええ! 呪文の詠唱もなしとは!



「カラクリ人形が。我を侮るなよ」



 一方アーデルも負けてはいない。

 こっちも詠唱なしでソルティアの盾を張ってデンゼルの雷をガードしている。

 わずかな時間の攻防だが、両者の実力の高さは充分に伺いしれた。



「貴様の実力はだいたい把握した。口惜しいが、捕らえて情報を吐かせるのは無理のようだ」


「おやおや、早くも負けを認められるのですカ?」


「よって迅速に破壊する!」



 アーデルが、踏み込んだ!



 まるで地を這うように疾走はしり、あっという間にデンゼルとの距離を詰める!



「ちょッ!」



 下から上に向かって、アーデルの剣閃がほど走る!

 その様はさながら昇り竜のごとく!



 デンゼルはギリギリのところで体を反らしてかわすが、完全に体勢が崩れてしまっている。



「我流『紅牙』」



 死に体になったところにアーデルの豪剣が振り下ろされる。


 こいつは……かわせねえなあ!



「ちぃッ!」



 デンゼルは両腕を交差してアーデルの剣を受け止める。



 だがな、残念なことにそいつを受け止められるのはシグルスさんの鱗だけだぜ!!!



 思った通り、デンゼルの腕はアーデルの豪剣を受け止めきれず粉々に砕け散った。



 だが……さすがの硬さだ。

 どうにか胴体部分は守りきったか。



「勝負あったようだな」


「ええ、どうやらそのようですネ」



 両腕を失い逃げようと後ろに下がるデンゼルに、とどめを刺すべくアーデルが追いすがる。



 次の瞬間、眩い閃光がアーデルを包んでいた。



「……油断したか」



 ――蜘蛛だッ!



 物陰に隠れていた蜘蛛が、アーデルを狙撃したんだ!



「すでに警報は鳴らしていまス。もうじきここにもスパイダの大群がやってきますヨ。つまり勝負ありってことデス」



 全身から煙をあげて、アーデルが片ひざをつく。

 死んではいないがダメージはかなりでかそうだ。



「あなたバカですネ。いつ一対一の決闘だと勘違いしてたんですカ?」


「まったくだ」



 おれは竜鱗の剣をデンゼルの背中に突き立てながら同意する。



「な……にィ」


「見えてるおれを頭数に入れてないとは、バカなんじゃねえのおまえ?」



 おまえさ、地上の様子を監視カメラか何かで見てたんだろ?

 まるでわかってたかのようにアーデルの攻撃をかわしてたもんな。



 だから、おれが非戦闘員だと思いこんだ。

 警戒を怠り、傍観者のフリをしておまえの死角に回り込もうとしていたおれに気づかなかった。



「確かにおまえは人だよ。そのマヌケぶりは機械じゃありえねえ」



 おれは剣を引き抜くと、こちらを振り向こうとするデンゼルの首を容赦なくたたっ斬った。



 機人っつったって構造は人間と同じだろ?

 指令を出す頭と胴体と切り離しちまえば動けまい。



「囮役ご苦労」


「……抜かせ」



 おれが手を差し出すと、アーデルは悪態をつきながらもその手を取った。

 ただの足手まといではないってところを見せられてよかったよ。



「動けるか?」


「当然だ。我を誰だと思っている」


「なら援軍が来る前にちゃっちゃと片づけようぜ」



 さあ、まだ戦いは終わってねえ。

 手始めにそこの蜘蛛どもを片づけて、この施設を――破壊する!!



決して無力ではない

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