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でもやっぱり自由は欲しい

 あれからさらに一週間ほど経過した。



 あいかわらず言葉はさっぱりだが、職場の状況はかなり理解した。



 まず始めに、おれたちの作っているピラミッドのようなもの。

 これは、やはり王族の墓のようだ。



 ウォーレンとかいう名前の王さまがしんだから、それを悼むためにおれみたいな奴隷をかき集めてバカでかい墓を作ろうとしているらしい。



 異世界なんだから魔法の塔でも作っているのかと思いきや、わりと普通で少しガッカリした。

 魔法の塔ってなんやねんっていうツッコミはやめてくれよ。なんつうかこう、魔法使いの魔力を増幅させる的な感じのアレだよ。



 でだ、おれたちをいつも監視しているガラの悪い看守たち。

 こいつらの身分もそんなに高くない。

 たぶんおれたちとそんなに変わらないと思う。


 現におれに魔法をぶちこんだおっさんやイリーシャにはヘコヘコしていることが多い。



 ここからは完全におれの予想だけど、この世界における身分っていうのは魔法を使えるかどうかで区分けされてるんじゃないかな。

 おれは魔法どころから異世界語すらろくに使えないから奴隷階層。それも最下層なんだろうなあ、へっへっへっ――て笑い事じゃねえよ!



 だがこの予想はぜひ当たって欲しいところだ。

 なぜならおれの予想が正しければ看守たちは魔法を使えないってことだから。


 今のところ本格的に脱獄する気はないが、いざってときは力づくでなんとかなるっていうのはでかい。



 更にいえば、魔法使いの中にも格差がある。

 おっさんやイリーシャは魔法使いだが、そこまで高い地位にいるわけじゃないだろうね。


 なにしろ、おれたち奴隷の世話役なんて任されているわけだからな。

 たぶん血筋か何かだろうね。その辺は地球にある国家と変わらない。



 内心グチってるかもな。宮仕えは辛いねえ。

 おれたち奴隷のほうがある種の気楽さがあるかもしれん。





 さて――そろそろ時間だ。

 日課をこなすとしますかね。



 はじめて引っ張ったときはバカ重いと思った台車も、今ではそこまできつさを感じなくなってきた。

 いうて一緒に引っ張ってくれるみんなのおかげだから、そこは感謝だ。


 慣れというのももちろんあるが、単純に重労働のおかげで筋肉がついてきているのだ。

 もともと鍛えてはいたけれど、今はさらにパワーアップしている。

 看守とケンカしてもぜったいに負けない自信がある。



 あと、異世界ならピラミッドぐらい魔法で作れよって思ってたけど、実際はちゃんと使ってた。



 今、おれたちが運んでいるこの石。

 こいつは魔法使いたちが不思議な魔法を使って切り揃えたものだ。



 おれたちはそれを川においてある船まで運ぶ役。


 そこから更に石を船に乗せて、おそらくピラミッド建設予定地まで運ぶ。

 実に面倒きわまりない作業だ。



 ただ、それでも魔法を使っている分、おれたちの世界よりずっと早く仕上がるんだろうなあ。

 エジプトのピラミッドは作るのに何十年とかけているらしいから、早いといっても数年単位の話だろうけどね。



 仮にピラミッドを作り終えて、自由の身になったらどうするか?

 最近はそんなことをよく考える。



 おれたち奴隷は酷使されているのと同時に国に守られてもいるのだ。

 特におれみたいな右も左もわからん異世界人。囚人になっていなかったら絶対にくたばっていた。これは目覚めた場所が砂漠とかそういうの関係なしの話。

 現時点のおれができる唯一といっていい仕事に従事できているわけだからありがたい。

 正直最初は恨みもしたが、今では魔法使いのおっさんには感謝している。


 じゃあなんで脱獄の話をちょくちょくしているかというと……。



「セイラム!」



 おれが声をかけるとイリーシャはいつものように花のような笑顔を向けてくれる。

 それだけでおれは一日がんばる元気が湧いてくるのだ。



 そう、おれがいつか独房ここを脱獄したいと思う理由――それはイリーシャに会うためだ。



 え? 彼女とは毎日会ってるだろって?


 ちっちっ、わかってないな。

 今のおれは彼女から見たら一山いくらの奴隷にすぎない。ていうか顔すら覚えられてない可能性だってある。

 あいさつすると、ああやって笑顔を向けてくれるけど、あれはただの愛想笑い。


 あいさつされれば誰にだってやる。

 いわば条件反射だ。

 特別じゃない。



 本当の意味で『出会う』には、作業場にいたんじゃダメなんだ。



 二人っきりで面と向かってお話がしたい。

 そのためにおれは言葉を覚えて脱獄がしたいのだ。

 つってもすぐに戻って来るんだけど。



 言葉を覚えたいというのも同じ理由。

 会ったけど何も話せませんでしたじゃ意味ないからね。



 そう、何を隠そうおれはイリーシャに惚れているのだ。

 なに知ってた? あっそう。



 とにかくだ。元いた世界じゃどんな美人を見たってこんな気持ちにはならなかったのに、不思議なこともあるもんだ。

 これもまたファンタジーな世界が起こしたファンタジーな奇跡なのだろう。



 さて、二人きりで会ったらまず何を話そうか。



 アイラブユー……は、まだ早いか。

 じゃあ世間話か? 世間話って世間を知らんおれが何を話すっていうんだ。

 だったら、ええっとええっと……。



 ええい! とにかく、なんでもいいからお話がしたいんだ!



 二人きりで甘い語らいをすることを想像したら、なんだかすごくワクワクしてきた!

 おれのリア充ライフ始まってきた!

たぶん世界で一番明るい奴隷

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