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女神賛美歌


 閃光がやんだ。



 おそるおそるまぶたを開けると、そこには一面蜘蛛だらけオルドの風景があった。



 よかった、どうやら天国には行ってないらしい。



 もっともここは地獄だけどな。





「ソルティアの盾」



 突如四方に現れた天使たちが、光の魔法障壁を張り巡らせ、蜘蛛どもの一斉照射を防いだのだ。



 美しい……こいつが、アーデルの魔法か!



 いいぞいいぞ、これで蜘蛛どものレーザー攻撃は封じた!



「聖歌斉唱」



 見目麗しい四体の天使は、アーデルの命により美しい声で呪文を紡ぐ。

 光の粒子が複雑に絡み合い、この世に新たな力を生み出そうとしている。



女神賛美歌ソルティアヒム・第伍番フィフス <跪く暴徒> 」



 視界が、ゆ……揺れている。

 地震……か?



 い、いや違う。



 体が――――重いッ!



「まずは足を封じさせてもらう」



 こいつは重力魔法だ!


 おれたちを取り囲んでいた蜘蛛どもが、次々と地面にめり込んでいきやがる。

 周辺一帯にすさまじい重力波がかかっていることは間違いない。



 す、すげえ! すげえ……が、



「なんでおれにまで魔法がかかってるんだよ!」


「だからいっただろう。加減が苦手だと。そこまで重くはないはずだから少し我慢しろ」



 確かに蜘蛛ほど強力な魔法がかかっているわけじゃねえな。

 体感的には体重二倍って程度かな。


 それでもじゅうぶん重いがな!



女神賛美歌ソルティアヒム・第漆番セブンス <焼かれる罪人> 」



 呪文詠唱と同時に、大地から巨大な火柱があがった。



 重力魔法で足を奪われた蜘蛛たちは逃げることもかなわず、あえなく火柱の中に飲み込まれていった。



 まさに咎人を焼きその罪を清める裁きの炎――――……って熱ぃッ!



「おぃぃぃぃっ! 余熱がこっちにまで来てるぞぉッ!」


「我慢しろ。ソルティアの盾で軽減されているはずだ。身を焼かれはせん」



 そりゃおめえの耐久基準だろォッ!!!


 おりゃただの人間だぞぉぉぉぉ――――っ!!!



「時間が惜しい。どんどん行くぞ」


「え? ちょ――」



 宣言通り、群がる蜘蛛の足下から火柱がドンドンとあがっていく。



 地獄から火が這い上がってくる様は、どちらかといえば禍々しさがあるな!



 どこが女神賛美歌やねん――――熱ッ! 熱ッ!! 熱ぅッ!!!







 ……まさか、こんなクソ寒い日に水に飛び込むハメになろうとはな。



 火柱の余波で火傷しかけた体を噴水の中に入って冷やす。

 今はいいけど、パーガトリに戻る頃には風邪をひいてそうだ。



「まずいな。かなり加減したはずだが……」



 すっかり消し炭と化した蜘蛛どもの状態を確認しながらアーデルがつぶやく。



「どうだ、研究材料に使えそうか?」


「見りゃわかんだろ! 使えねぇよ!」



 つうかあれで加減してたのかよ。とんでもねえな。

 そらロギアも裸足で逃げ出すわ。



 人類軍は、これからこんな奴と戦うのかあ。



 きっと何百何千人もの死者がでるだろうなあ。

 いやぁ、つらいなあ大変だなあ。

 おれ、軍関係者じゃなくてホントよかったよ。

 オーネリアスと結婚するのはやめとこっと。



「探せば無事な奴が何機かあるかもしれん」


「リョウ、こいつらはいったい何なんだ?」



 何なんだ……といわれても、ロボットだとしか答えられないが。

 つうかおまえんとこの土地だろ。おれに聞くなよ。



「住み慣れた地だと思っていたがこんな発見もあるのか。考古学か……我も少し興味が出てきた」



 そいつは結構。

 主君の趣味を理解することは大事よ。

 もっともこの遺跡は間違いなく実益に直結するけどな。


 もしかしたら敵に塩を送ることになるかもしれねえけど、そんときは勘弁な。



「先に向かうぞ。もう体も冷えただろう」


「……いや、おれはもう少しここにいる」


「なぜだ? まずはこの奥にある殿堂に向かうといったのはおまえだろう」



 いや、確かにそうなんだが……どうにもこの場所が引っかかってなあ。



「蜘蛛は、どうしておれたちを襲ってきたんだ?」


「外敵を発見次第ころすよう命令されていたのだろう」


「いやそうじゃなくて、なんでこの場所で襲ってきたのかってこと」



 おれたちが遺跡に入ってずいぶん経っている。

 襲おうと思えばいつでも襲えたはずだ。



「偶々だろう」



 それをいっちゃあおしめえよ。

 まあ、その可能性が一番高いけどな。



 が、そういって低い可能性を軽々に切り捨てるのは考古学者の思考じゃない。



「実はこの噴水に何か仕掛けがあるんじゃねえかな?」



 そう思い、水に浸かりながらずっと噴水を調べてたわけだが……今のところは特に何も見つからない。



 そういや、田中は祭壇を押して隠し階段を発見していたな。

 じゃあおれもそれにあやかってみるか。



「……何をやっている?」


「いや、この下に隠し階段でもあるんじゃないかと思って……」



 当たり前だがどれだけ強く押してもビクリとも動かん。

 我ながらアホなことをやっている。



 だがこれで諦めるおれじゃない。

 押してもダメなら引いてみよという日本のことわざもある。



「……何をやっている?」


「気にするな。おれの祖国のことわざを実践しているだけだ」



 押して動かないのに引いて動くわけねえだろ。

 何をやってんだおれは。



「この時期は日が暮れるのが早い。あまりのんびりしていられないぞ」



 そうだな。

 噴水調査はまたの機会にして、そろそろ殿堂に向かうか。



「……」



 この噴水、根本のところに繋ぎ目があるな。


 いや、だから何だというわけではないんだが……もしかしたら、回すとか?



「……何をやっている?」


「いや、この噴水を回したら下から隠し階段がこう、グワァ――っと」



 と、



 とと、



 ととととッ!




 す、すげえ震動だ!




 噴水が――――せり上がって来ている!




「何だと!?」



 さすがのアーデルもこれには驚いてるな。



 一番驚いているのはこのおれだけどな!



「か……過去の経験が生きたみてえだ」



 清水をかき分け、せり上がってきたこの隠し階段。

 蜘蛛どもはこれを守るためにおれたちに襲いかかってきたんだ。



「もしや最初から知っていたのか?」


「んなわけねえだろ」



 ただ、おれが運命に選ばれてたってだけよ! わっはっはっは!



「行くぜアーデル、地の底に! 新しい発見がおれたちを待ってるぞ!」



 ふふふ、やっぱ地下探索はワクワクするな。

 本能的に暗いところが好きなのかねえ。



 死んで天国で安楽を得るより、身を焦がす地獄ここであがいて生きたほうが素晴らしい。



 おれのこと、早く死ねって思ってる奴は山ほどいそうだが……それでもおれは、まだまだ生きるぜ!

 憎まれっ子、世にはばかるってな!



マゾは女神のほほえむ天国ではなく悪魔のあざ笑う地獄を望む

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