アーデル・ロイヤル
アーデルがロギアの首を持って帰ってきたのは、姿を消してから三日後の出来事だった。
「この者、長年に渡りシグルスさまを侮辱した罪にて斬首の刑に処した! きさまらもこの者の二の舞になりたくなければ口は慎むことだ!」
震え上がった魔族たちは、その場でアーデルに平服した。
さすがは恐怖の名を持つ者の部下。恐怖にて部下を支配するのが得意だな。
ロギアの首は罪状と共にパーガトリの門前に晒されることとなった。
哀れな赤トカゲの首の前でおれは感慨に耽る。
ロギア・カーマイン。
魔王イドグレスの右腕にして魔王軍総司令。
その采配にてオーネリアス軍を幾度も窮地に陥らせた人類の宿敵。
おれたちは長き旅路の果てに、そいつをとうとう討ち果たしたのだ!
……なんつってな。
ただの内ゲバでおれたち何もやってねえっつうの。
つうかこんな無能ひとりしんだところでイドグレスはビクともせんわ。
ロイヤルズは全員健在だし、どうせすぐ後任の司令官が配属されるだけだろうしな。
ただ、しばらくの間、魔王軍の指揮系統が混乱することだけは間違いないだろうな。
アーデルも指揮官としちゃ無能そうだし……もしかしたらオーネリアス軍、勝っちゃうかもしれないな。
そう考えるとアーデルにロギアのことチクったおれ、ナイスプレイじゃね?
ははっ、オーネリアスにひとつ貸しを作れたかもな。
「待たせたなリョウ」
「マジで待ったわ。三日間のロスだ」
事後処理を終えてやってきたアーデルにぶっきらぼうに応える。
これはもちろん本心だ。
ちょっと感慨に耽るフリはしてみたものの、ロギアの生死なんておれには果てしなくどうでもいい。
「あいつ司令官なんだろ? 現在侵攻中の聖王軍はどうするんだ?」
「現場のことは現地の将軍に任せておけばいいだろう。どうせあいつは人間いじめにかまけていてろくに仕事をしていなかったからな」
やはり無能だったか。知ってたけど。
「総司令はしばらく我がやる」
「だったら部下としてひとつ進言していいか?」
「いつおまえが我の部下になった?」
「これでもおれは名誉エルナなんだが……部下じゃないなら、いったい何だよ。家畜か? 奴隷か?」
「同じ主に仕える同志として聞いてやろう。いえ」
ただの人間をそこまで買ってくれてるとはありがたいねえ。
では遠慮なくいわせてもらうぜ。
「オーネリアスとの戦争……そろそろ御開きにしてはもらえねえか?」
「悪いがそれはできない」
即答か。
こいつはもう少し物わかりのいい奴だと思ってたんだがな。
「この戦争はいくらなんでも長すぎる。これ以上続けても益がない」
「百も承知。おれもロギアのやり方に異論がなかったわけではない。だがあの地をいつまでも蛮族の好き勝手にさせておくわけにもいくまい」
「あそこには重要な文化遺産も数多ある。破壊したらシグルスさまにもうしわけが立たんぞ」
「そこは部下たちに厳命してある。使えるエルナーガもまだ残っているかもしれんしな」
「用意周到だな。自国の歴史にゃ無頓着なクセに」
「オーネリアスこそが我らエルナの真の母国だからな。まあ、そうでなくともこの枯れ果てた地に愛着を持つ者は少ないだろうがな」
「あんたら自身の手でそうしたんだろ」
「……そうだな。ああ、そうだとも」
アーデルはおれから視線を外すと、そのまま口を閉ざしてしまった。
おれはそれ以上の追求はしなかった。
これ以上、どれだけ説得しようが無駄だと悟ったからだ。
そんなに先祖の地が恋しいのか。
そんなに女神とやらが大事なのか。
祖国を捨てたおれには正直わかんねえ。
ただおれは女神ソルティアを、そして同胞に過酷な環境を強いるイドグレスを恨むだけだ。
あんたらが何を考えてこんなことをやってるのか。
いつか話がしてえものだ。
「オルド遺跡に向かいたい。時間はあるか?」
「時間ならあるさ。たっぷりとな」
アーデルの声は、ロギアの首を掲げてた時とは比べものにならねえほどの覇気のなさだった。
やめろよアーデル。
おれの気まで滅入ってくるじゃないか。
「さっきいったことは忘れてくれ。あんたはおれの前では、いつでも最強のロイヤルズでいて欲しいんだ」
「……」
ちっ、また黙りか。調子狂うわ。
今のこいつ相手なら反乱を起こしても勝てそうな気がしてくるな。
まあいい。
とりあえず今は遺跡調査に専念しよう。
将来のことを考えるのはそれからだ。
新年あけましておめでとうございます
今年もイケドレをよろしくお願いします




