遺跡調査
パーガトリでの看守生活にもすっかり慣れた。
おれさまの大活躍により囚人や看守仲間の評判は最悪だが、代わりに魔族からは一定の信頼を受けるようになった。
常日頃の献身的な仕事ぶりも評価され、最近ではおれを看守長にしてはどうかという話も持ち上がっているそうだ。
例のケンカ以来、アーデルに絡まれることもなくなり、順風満帆の日々を送っているといえるだろうな。
でもあんまり順風満帆すぎると自分から嵐を起こしてみたくなるんだよね。
つうことでおれ自らアーデルに絡みに行くことにした。
「……おまえ、正気か?」
「もちろん。おれ、あんたとは仲良くできると思ってるんですよ」
虎穴に入らずんば虎児を得ず。
ロイヤルズの一席であるあんたと接触せずに、イドグレスの謎には迫れないとおれは考える。
「前から気になっていたんだけど、あんたほどの男がなんで監獄の守衛なんて雑用やってるんだ?」
「ロギアに頼まれたからやっている。ただ、それだけだ」
「オーネリアスに派遣すればいいじゃん。膠着状態ぎみな情勢が一気に傾くぞ」
「それは断った。敵はオーネリアスだけではない。旅行中のシグルスさまに代わりイドグレスさまを守らねばならぬからな」
この町は戦場に近く何かと都合がいいとアーデルはいう。
武士だよねえ、このひと。こいつのそういうところは嫌いじゃない。
「質問には答えた。今度はおまえが答える番だ」
「答えられる範疇であれば。ちなみに何も企んではいませんよ」
「ここのところ場末の酒場に入り浸っているそうだな。理由を教えろ」
ゲッ! バレてーら。
どうする?
適当にウソをつくか?
こいつなら簡単に騙せそうだし。
だが……まあ、いい。
この際、こいつもおれの計画に巻き込んでやるか。
「あそこは親人間派の集う酒場でしてね、イドグレス大陸に関する情報を集めているんですよ」
「そんなもの集めてどうする」
「もちろんシグルスさまのお手伝いですよ」
アーデルが露骨に顔をしかめる。
こいつは腕を切断してやっても顔色ひとつ変えねえけど、シグルスのことになるとすぐに感情的になるな。
「シグルスさまは考古学者としてオーネリアスとイドグレスの伝説を繋ぎ、歴史の真実を探ろうとしています。オーネリアスはあのひとが調査中。だったらおれはイドグレスを調査しようと思いましてね」
「ここはあの御方の生まれ故郷だぞ。無論すべてを知り尽くしている。おまえのやろうとしていることは無意味な行為だ」
「まるでそうは思いませんね。むしろシグルスさまの話を聞いて、おれはますますイドグレス大陸にこそ真実があると思うようになりました」
シグルスさんより若いあんたに聞いても意味はねえ。
だが古参の魔族の中には、今の都合よく脚色されたものではない、真の伝説を知るものがいてもおかしくないと思ったんだ。
「酒場で聞き込みをしてみたら、意外なことに簡単にヒットしましたよ。ノーティラスという名のじいさんが、心当たりがあるという証言をしてくれました」
「あのノーティラスさんがそんなことを……」
さん付けなのかよ。
ロギアは呼び捨てなのに。
酒場の荒くれどももみんな一目置いてるし、いったい何者よあの変態じいさん。
「この町の南東にあるというデザイアの遺跡。もしかしたらそこに何かあるかもしれないって話です。シグルスさまはあの巨体ですからね。あのひとが調査しきれない場所もおれなら調査できます。許可さえあればぜひ行ってみたいと思っています」
このイドグレスには大小たくさんの遺跡が存在していて、見て回ろうと思えばきりがないそうだ。
ただ、そんな有象無象の遺跡の中で、デザイアだけは明らかに違う雰囲気を漂わせているらしい。
ノーティラスじいさんは歴史にまるで興味がないから放置してたそうだがもったいねえ話だ。
もっともじいさんに限らずシグルスさんを除いた魔族全体が、過去の歴史を掘り返そうという意志が希薄みたいだが。
で、たいていの魔族は貴族と呼ばれる上級魔族から与えられた伝説を盲信して疑ってないわけよ。
いくらなんでも酷すぎない?
インテリジェンスの欠片もねえ。
貴族が支配する分には都合がいいのかもしれないが、こんなんじゃ魔族のこの先が知れちまうぜ。
もっとも、そういう風に造られているだけかもしれねえけどさ。
「ここまで話を聞いてくれたあんたなら、きっと協力してくれると思うんだよなあ。おれがデザイアの遺跡の調査に行けるようにね」
アーデルは考え事をしているのか、能面みたいなツラで制止する。
爬虫類の無表情はこええよ。
「遺跡に価値など見いだせぬが、それが我が主のためとあらば、協力せざるをえまい」
へへ、そうこなくっちゃ。
さすがはロイヤルズ、話が分かる。
「ただし我も同行させてもらう。もし不審な行動を取るようなら、その場で斬る」
いいぜ。
そっちのほうがむしろ心強いわ。
せっかくだから、無精なあんたに手取り足取り教えてやるよ。
主の趣味の面白さってやつをよ。
自分のペースに巻き込んでいく




