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リア王

 忙しい。

 ああ、忙しい。



 仕事に歴史調査に反乱準備。

 やることがたくさんあって目が回るわ。

 異世界に来てから日を追う事に忙しくなっていくな。



 おれはたぶんこのエルメドラで一番のリア充だろう。



 エルメドラには五王と呼ばれる王さまがいるが、これからはおれを含めて六王と呼んでもいいんじゃないかな?



 称号はもちろん <リア王> だ。



 リア王マサキ・リョウか。

 んん、悪くない響きだ。魔王イドグレスにもひけを取らないな。



 リア王VS魔王か、いいじゃんいいじゃん。

 こう書くと互角に戦えそうな気がしてくるわ。

 今に目にもの見せてやるよ。





 リア充の定義は様々だが、日本では女とイチャイチャする男という意味で使われることがほとんどだろう。



 おれはまったくそうは思わないが、リア王たるものその要素を無視するのもどうかと思う。



 よっておれは女ともイチャイチャしようと思う。



 てなわけで今日もおれはテトラと一緒に昼食をとる。

 仲良くなって反乱の際に仲間になってもらおうという思惑がある……と見せかけて、実はおれの趣味だ。

 おれに転びそうな女は何人かいて、彼女にこだわる必要はまったくないからな。



 テトラの何がいいって聡明なところだ。

 物事の道理をよくわかっている。

 アホで野蛮な姉とは大違いだ。



 趣味は読書で暇さえあればいつも本を読んでいる。

 おれもマイラルではそこそこ読んでいたが、彼女の足下にも及ばない。

 テトラの話を聞いているだけで刺激され、忙しくて忘れかけていたおれの読書欲が蘇ってくる。



 一緒にいるだけで自分が高まっていく気がする。

 テトラは素晴らしい女性だ。

 学ぶべきものが何もない半端者の姉とは大違いだ。



「おい、おまえ今あたしのことを心の中で馬鹿にしてただろ」



 うお、学ぶべきところがまるでない女が来たぞ。



「どうせあたしは妹と比べて無学だよ。だからアマゾネスに入隊したわけだしな」


「事実だが卑屈になるのはよくないぞ」


「そこは否定しろよ!」



 やだ。

 おまえは徹底的に小馬鹿にすると決めている。



「ところでおまえ、名前なんだったっけ?」


「レイラだ! 忘れるな!」



 ああ、そうそう。レイラだったね。

 興味のない人間の名前をすぐに忘れるのがおれの悪い癖だ。



「で、何しにきたの?」


「おまえが妹に悪さをしないか見張りに来たに決まってるだろ!」



 するわけないだろ。

 おれはテトラのことを尊敬してるんだからな。

 手を出すどころか、むしろ悪い虫から守ってやるつもりだ。



「だいたいおまえの実力じゃおれをどうにかできないだろ」


「たった一度勝っただけで調子に乗るな! もう一度勝負しろ!」



 食器をガンと叩きつけてレイラが吠える。

 いちいち語尾に感嘆符がついててマジうざい。

 もうちょっと落ち着いて会話ができんのかこいつぅ。



 やれやれ……力の差は歴然なんだがな。



 だが挑戦を続けることはいいことだ。

 おれはどこぞの勇者と違って挑戦者を無碍には扱わない。

 今日も全力全開で叩き潰してやろうじゃないか。



「お姉ちゃんもリョウさんもいい加減にしなさい! ここは食堂だよ!?」



 ほらテトラに怒られちゃったじゃねえか。

 レイラのせいだぞ、はよ謝らんかい。



「ケンカはやめてっていつもいってるじゃない。これ以上するなら二人とも絶好だよ!」



 いや……それは困る。とても困る。


 しかたがない、謝るか。

 王の謝罪。



「悪かったな、レイコ」


「レイラだ!」






 一通りレイナをからかってストレス発散したおれは、意気揚々と牢獄に向かう。



 お次は獄中のエドックくんをいじめ……仲が悪いフリをしなきゃいけないからなあ。

 いやあ、大義のためとはいえ実につらい御役目だなあ。

 つらいつらい。ああつらい。




 ――――ッ!





 背筋に強烈な悪寒を覚え、おれはすぐに後ろを振り向いた。



「……いない」


「こっちだ」



 背後からアーデルの声!


 ば……馬鹿な、前方には誰もいなかったはず!

 いつの間に回り込んだ!?



「リョウ……おまえは、いったい何を企んでいる?」


「いったい何の話です?」



 こいつ、おれの反乱計画に気づいているのか?



「本当にシグルスさまの関係者なら、ロギアに自分を解放するよう訴えかければよかったものを」


「それはすでに話したでしょう。おれはエルナに味方したいだけです」


「どうだか。おまえの言葉はイチイチうさんくさすぎる」



 そりゃごもっとも。

 だがこの様子だと計画に気づいているわけではなさそうだな。



「仮におれが何かを企んでいたとして……ちっぽけなただの人間にいったい何ができるというのですか」


「普通の人間ならそうだな。だがおまえはシグルスさまの寵愛を受けている」


「おおげさですよ。おれたちは同じ趣味を者同士というだけです」



 いわば同人仲間ってやつかな。

 田中曰くオタクの仲間意識はつええそうだけど、シグルスさんはどうだろうね。



「シグルスさまを呼ばないのか?」


「なんで呼ぶ必要があるんです」


「気づいていないのか。おまえは今、生命の危機だぞ」



 ぐ……いつの間にかおれの首に、アーデルの手が、



「はやく呼んだほうがいいぞ。呼べるものならな」



 な、なんつう力だっ!

 このままでは窒息……いや、その前に首の骨がへし折れる!



「に……人間を……」



 な、め、る…………なァ!!!



 おれは竜鱗の剣を解き放ち、首を絞めていたアーデルの腕を叩き斬る!


 あまりやりたくはなかったが、こうしなけりゃおれは確実にころされていた。



「……凄まじい切れ味。さすがはあの御方の鱗だ」



 二の腕からバッサリ切断してやったが、アーデルはいっさい顔色を変えない。

 こいつ痛覚がねえのかよ。



「あんたホントにシグルスさまの部下か?」


「どういう意味だ」


「こんなくだらねえことであのひとの手を煩わすなっていってんだよ」


「……」


「あのひとは今、忙しいんだ。おれの求めになんかにゃ応じやしねえし、おれも助けなんか呼ばねえよ」



 てめえの境遇ことはてめえでどうにかする。

 当たり前の話だ。



「それでもやるっつうなら、相手になるぜ?」


「……いや、正論だな。我がどうかしていた」



 アーデルは叩き斬ってやった腕を拾い上げて傷口に押しつける。

 それだけで腕はピタっとくっつき、しかも自由に動くようになっているのだ。

 まったくあきれた怪物だ。



「若気の至りだ。謝罪しよう」



 最後にそう言い残し、アーデルは音もなくその場を去っていった。





 アーデルがいなくなった後、おれは自分の手をじっと見つめる。



 わかっちゃいたが……汗でぐしょぐしょだ。



 ……緊張、したぜ。



 まともにやりあったら100%勝ち目はねえ。

 退いてくれて助かった。



 さすがのおれもさっきは死を覚悟した。

 もっともおれが死にかけるのは今日に限った話じゃねえけどな。





 日々命がけのスリル溢れる生活。

 こいつは平和な日本じゃなかなか味わえるもんじゃねえ。

 おまけに相手が人外の物の怪とくりゃあ、異世界生活冥利に尽きるってもんよ。



 やっぱおれのリアル、最っ高ぉに充実してんなあ。



六番目の王の誕生

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