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必死

 セスタ姉妹は双子というだけあって容姿はとてもよく似ていた。



 髪が短くて活発なほうが姉のレイラ。

 髪が長くて眼鏡をかけているほうが妹のテトラだと記憶している。

 どちらも白髪紅眼でオーネリアス人っぽくないのが特徴だ。



 とりあえずちょっと話した感じ、テトラはパーガトリの看守の中では一番信頼できそうだ。

 来るべき反乱に備えて彼女とは信頼関係を結んでおきたい。



 姉のほうは別にどうでも……といいたいところだが、どうもテトラはレイラに全幅の信頼を置いている様子。



 将を射るには馬から。

 まずは姉のレイラをどうにかしないことには始まらないだろう。

 できれば妹のいないところで話し合いたいところだ。



「今日はおまえに釘を刺しに来た」



 そんなことを考えていたら、なんと向こうのほうからやってきた。

 渡りに船とはまさにこのことだ。



「妹に金輪際近寄るな。話しかけることも許さん。もしこの忠告を無視した場合、私たちのチームを総動員しておまえを村八分にしてやる」



 ふぁ~、陰険なことだねぇ~~っ!

 いったいなんでそんなにおれのことを忌み嫌っているんだか。



「マサキ・リョウ、最近のおまえは有名人だぞ」



 ほう、確かにおれさまはこの監獄一の働き者だ。

 さぞ素晴らしい名声が広がっていることだろうなあ。



「逆らった奴隷を半殺しにしただとか、看守の女に片っぱしらに声をかけているだとか、何かと悪評が絶えない」



 あらら、おれの知らない所でそんな陰口叩かれてたのか。

 おおむね予定通りだけど知らんかったわあ。



「そんな悪党を妹に近づけさせるわけにはいかない。わかったな?」



 悪党?

 悪党ねえ……まあ、否定する気はまったくないが、



「おまえらが善人ヅラしてるのがマジ不思議だわ。自分の仕事理解してる?」


「好きでやっているわけじゃない!」



 大切なのは行動だろ?

 心の中でどんな風に思っていようが、行動しなけりゃ一緒だ。



 内心では嫌がっているから自分は善人だ、わかってくれってか?



 ハッ、笑わせてくれるな。

 こいつはシノさんの同類だわ。



 だがまあ、偽善者は嫌いじゃない。

 適当な綺麗事をいってやると諸手をあげて賛同してくれるからな。



 こういう自分にいいわけの多い、やたら腰の重い連中をいかに動かすかが為政者の腕の見せどころといっていいだろう。



 おれは為政者になる気は微塵もないがそのための教育は受けている。

 せいぜい手玉に取ってやるとするか。



「どうでもいいが、おれはこのパーガトリの炊飯担当だぞ。おれに近づかないってことは昼飯は食わないってことか?」


「炊事場から出てこなければいい」


「そりゃ規則違反だ。炊事場での『つまみ食い』は禁じられている」


「だったら食う時間をずらせばいいだろう」


「そこまでしておまえらを避ける理由がない」


「そんなにいじめられたいのか?」


「やはりおまえはアマゾネスじゃねえな。おれの知ってるアマゾネスは誇り高く、ひとりの人間を寄ってたかっていじめるような卑怯者はいなかったからな」



 いじめは最低の人間のやることよ。

 特に手下を使って弱い奴をいたぶるような奴な。

 恥を知るべきだね、いやホントホント。



「まさかその調子で周囲を騙してるのか? 情けない女だな」


「騙してなどいない! あたしは確かにアマゾネス部隊に入隊していた!

 入隊したばかりの見習いだったけど……」



 どうせそんなところだろうと思ってたよ。

 アマゾネスにしては弱すぎたからな。



「見習いだろうとアマゾネスの誇りがあるなら、弱者をいじめるような真似はよすんだな。おまえの立ち振る舞いはオーネリアス王の株を落とすことにも繋がるんだぞ」


「ただの脅しだ。本気でやるわけないだろ!」



 だったら口に出していっちゃダメだろ。

 アホやなあこいつ。



「というかおまえ、オーネリアスさまを知っているのか?」


「ああ。オーネリアスはおれのビジネスパートナーだよ」


「ただの行商人が偉そうにあのひとを語るな」


「それは違う。あくまで商売を通してだが、おれたちは対等の関係だ」



 もっとも、ろくに取引をする前に魔族にとっ捕まっちまったんだけどな。



「これでも結婚を申し込まれる程度には親密な間柄なんでね」


「冗談にしても笑えんぞ」



 冗談のような事実だ。

 まあ、それはさておき……。



女戦士アマゾネスだったらな、セコい搦め手なんか使わず自らの力で屈服させてみなよ」



 おれは来ていた看守服を脱いでレイラを挑発する。



「おまえが勝ったら妹にちょっかい出すのをやめてやるよ」


「……絶対だな?」



 おまえがおれより強かったら手が出しようがねえだろ?

 もっとも、そんなことはありえねえけどな。



「おまえが勝った場合はどうなるんだ?」


「そりゃもちろんおれの好きにさせてもらう。もっとも、あんたが心配してるような卑猥な真似はしねえけどな」



 おれは脱いだ看守服をレイラの顔に放り投げる。



 一瞬とはいえ視界を奪われ慌てるレイラ。

 その隙を狙っておれは彼女の足を払う。



 無様に転んだレイラにすかさず覆い被さると、衣服を利用してその首を締め上げてやる。

 柔術でいうところの襟締めってやつだ。



 最初は必死に抵抗していたレイラだが、しばらく締め続けていると次第にその力も弱まっていった。



 悪いが手は緩めない。

 こちらも必死だ。

 必死でなくてどうして反乱など起こせようものか。





 レイラが完全に落ちたことを何度も確認してから、おれはようやく技を解いた。



 専門外の締め技でもあっけなく落とせる。



 ――……弱い。



 まるでウサギだ。



 だがおれはたとえウサギであろうと全力で狩る。

 必死で懸命だからだ。



 おれが人を動かす術は、日本の政治家のように頭を下げてへりくだる気弱な交渉術ではない。

 力で屈服させた後に餌で飼う帝王の支配だ。



 それだけでは上手くいかないことなど重々承知。

 だが時と場合によっては極めて有効だということも承知している。

 そもそもおれはそれしか知らないしな。



 顔も、口も、力も、頭も、情も、非情も、使えるものは全部使う。

 覚悟などとっくの昔に決まっている。



 己の持てるすべてをこの大陸にぶつける。

 すべてが終わった後は灰も残さない。



 文字通りの意味で、全力を――――尽くす!

全力を叩きつける!

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