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反撃の狼煙

 暗雲で覆われたイドグレスの空を見上げながらため息をひとつ。



 ため息なんておれらしくもねえが、こうもお日さまが見られねえとなあ……。



 この天候、実はただの偶然ではなく人為的に行われている。

 なんでそんなことをしているかっていうと、まずはこのエルメドラの成り立ちについて説明しないといけなくなる。



 まず大前提として、このエルメドラっていう世界は主神ゴルドバが創造したものだっつうことを理解してもらう必要がある。

 ちなみに「エル」とは神。「メドラ」というのは魔力を意味する。



 二つの単語を併せると『神の魔力』だ。



 その名の通り、この世界はゴルドバの魔力メドラで満ち溢れている。

 空が黄緑色なのは、それがゴルドバの魔力の色だから。



 そして人間が扱う魔法は、基本的にはこれを借りて行使している。

 魔法は魔族に対抗するためにゴルドバが与えた力のひとつってなわけだ。

 魔族としては、まずはこれをどうにかする必要がある。



 そこで生み出されたのが上空にあるこの雲だ。



『聖煙』と呼ばれるこいつは、上空に散布するだけで周囲一帯のゴルドバの魔力を無効化できるという代物だ。



 イドグレス全土はこの聖煙に包まれ、いっさいの魔法が使用できない。

 魔法に頼る人間の兵を迎え撃つにはもってこいなのだが、もちろん弊害もある。



 神の力をぜんぶ遮断するもんだから土地は枯れ果て空気はよどむ。

 まともな神経してたらとてもじゃないが住めない環境になっちまったってわけだ。


 ロギアは邪悪なる主神をうち倒し、聖なる女神がエルメドラに君臨するまでの我慢だというが……本気でそんなことをいってるならとんだ狂信者だわ。



 世界を守護するゴルドバと、その世界を転覆させようとしているソルティア。

 どちらが邪神かなんて一目瞭然だろ?



 いくらエルナがソルティアに創造された民だからって盲信しすぎだわ。

 どちらに与するのが得かなんて考えるまでもねえ。



 それともまだ何か裏があるのだろうか。

 ソルティアが正しくゴルドバが間違っていると思えるだけの何かが。



「あいつなら、知っているのかもしれねえんだけどな」



 おれは少し視線を降ろし、今もなお山頂から黒煙を吐き出し続ける魔王の住居に目を向けた。



 イドグレス一の大山にして首都――『レギンレイズ』か。



 今はイドグレス大陸のみに留まっているが、いずれこの聖煙はエルメドラ全土に広がるだろうとロギアはいう。



 今までけっこう他人事だったが、こうして直接この目で確かめると、その驚異が実感できる。

 魔王イドグレスを倒さねば、人類に未来はないのかもしれねえな。



 ……まあいい。



 あれの始末は勇者の仕事だ。田中に任す。

 おれはおれの為すべきことをやるだけだ。





 ぶっちゃけた話、おれはこのパーガトリを乗っ取りたいわけよ。

 理由は単純で、そうしなきゃいずれ命を取られそうだからだ。



 連中は口ではおれたちのことを同志だといっているが、腹の底じゃ小馬鹿にしてるのが見え見えだ。

 奴隷以下の存在として飼い殺すのが目に見えている。



 不要と判断すれば躊躇なくころすし、仮にそう思われなくともこの劣悪な環境――とてもじゃないがただの人間が長生きできるような場所じゃねえ。

 よって、一刻も早くここを脱獄する必要がある。



 独りで脱獄することも考えたが、ヴァンダルさんの二の舞になるのがオチだと判断してやめた。

 船の管理はどこも厳しいんでな。



 だったら話は簡単で、こっそりとではなく堂々と出て行けばいいんだよ。

 無理やり脱獄するのではなく、向こうから早く出て行ってくれとお願いするような状況を作ってやればいいのだ。



 そのもっとも手っ取り早い手段として、おれは反乱を起こすことを選択したわけだ。

 魔王が聖煙をあげるなら、おれはささやかながら反撃の狼煙のろしをあげさせてもらうぜ。





 このパーガトリという収容施設、実はものすごく警備がガバガバだ。

 配備されている魔族の数もかなり少ない。

 何しろ巡回におれが駆り出されるレベルだからな。



 奴隷の監視もほとんどが人間任せ。

 人間に人間を監視させることで、経費削減と共に奴隷に人間不信を植え付ける……などといえば聞こえはいいが、おれからいわせればただの怠慢だ。



 人間を心底舐めきってるんだろうな。

 おれなら絶対にこんなことはさせない。

 反旗を翻された時に迅速に対処できないからな。



 もちろんその慢心、最大限有効に利用させてもらう。



 さし当たって、まずは……奴隷の中に協力者が必要だな。

 できれば奴隷内でコンセンサスが取れるリーダーシップに溢れる奴がいい。



 少し考えたが、やっぱリコの村の英雄エドックくんしかいないだろうな。

 ホントに英雄かどうかは知らんけど、少なくとも今のあいつはおれを糾弾することである程度求心力を得ているはずだ。



 そうと決まれば善は急げ。

 おれは毎朝人の顔を見るなり罵声を飛ばして来るエドックくんをぶん殴り、懲罰室へと連れ込んだ。



「さっさところしな。とっくの昔に覚悟は出来てる」



 拷問用の椅子に縛り付けられたエドックくんが最後の抵抗といわんばりに強がりをいう。

 ふむ……この状況でヘタれないとは、なかなか見込みのありそうな奴だ。



「その意気込みは結構だが、死ぬならせめて魔族と戦ってからにしてくれ」



 唖然とするエドックくんに、さっそくおれは反乱の計画をかいつまんで説明した。

 こいつに計画を話すのはある種の賭けだが、どのみち独りじゃ事は為せないのだからしかたない。



 魔族と違って人は独りでは無力。

 だから団結しなきゃならねえのさ。



 ヴァンダルさんも、おれに脱獄の件を打ち明けてくれてたら……。



 ……いや、今さらの話か。


 今のは失言だった。忘れてくれ。



「……その話、おれに信じろっていうのか?」


「信じる信じないはおまえの勝手だ。ただ、今のままではおれたちに待っているのは死だけだ」



 だがエドックくんはすぐには話に乗ってこない。

 ただの熱血漢ではなく慎重さも持ち合わせているところは好感が持てるぜ。



「その話、もし断ったらどうなる?」


「どうもならない。すぐ牢獄に帰してやる」


「なら、引き受けたなら?」


「おまえをここで半殺しになるまで痛めつける」


「普通逆だろ!?」



 ぜんぜん逆じゃねえよ。

 おまえがおれに協力するなら、おれたちが不仲だってことをことさら強調してかにゃならねえからな。

 懲罰室にまで連れて行ってノー折檻というわけにも行くまい。



「痛い思いをしたくないなら、断るのが賢明だと思うがね」


「馬鹿にするな! いいぜその話、受けてやるよ!」



 にらんだ通り。

 やはりおまえも重度のマゾ野郎だったか。



 では遠慮なく――――ッ!



「ぐわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」



 いやぁ、まさかここに来ておれが拷問する側に回るとはねぇ!



 わっはっはっ! なるほど、確かにこりゃちょっと楽しいわ!

 リリスお嬢さまの気持ちがわかっちゃうね!!



 おれは約束通りエドックくんが気絶するまで徹底的に鞭を振るい続けた。

 我が右腕を痛めつけるのは断腸の思いだが、大義のためにはしかたない。


 エドックくぅん、ぐぉめんねぇ~。



過去の経験を生かしていくスタイル

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