イリーシャ
あーくそ、身体がだりぃなぁ……。
どうやら先日の労働の疲れがまだとれてないらしい。
とはいえ、それでも看守はやってくる。
おれは手枷をはめられて、今日も作業現場へと連行されるのだ。
アホみたいに暑い炎天下に今日も放り込まれる。
何度もしつこくいうが、とにかく暑い。
湿度が低いせいか日の当たらないところは涼しいんだけど、そこ以外は信じられないほどの暑さ……いや、熱さだ。
鉄板用意すれば目玉焼きが焼けるんじゃね? ってレベル。
一度ためしてみたいね。卵なんていいもん食わせてもらえないけど。
でだ……そんな過酷な環境で重労働をするのだから、そりゃまあとうぜんきつい。
おれは英才教育の一環としてそうとう身体を鍛えてたんだけど、それがこんなところで役に立つとは思わなかった。
実は身体を鍛えるなんて無駄だと思ってたんだよね。
だってそうだろ? おれは他人をあごでこきつかう立場になる予定なんだからさ。
でも、今では鍛えてくれた親に感謝してるぜ?
鍛えてなきゃ今頃、そこでぶっ倒れてるクソジジイみたいになってただろうからな。
……ん? あれ、これ本格的にヤバくね?
こんなジジイどうなってもいいけど、さすがのおれも目の前で死なれちゃ夢見が悪いわ。
と、とりあえず看守を呼ぼう。
さすがの看守もこんな死にかけのジジイ相手に鞭は打たんやろ。
おれはいったん作業の手を止めると、看守を探して声をかけたって……ほぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!
これはしょうがねえだろ! いちいち鞭で叩くなよ!! おれにSMの趣味はあんまりないぞ!!!
とりあえずおれは身振り手振りのジェスチャーで、看守にジジイが倒れていることを伝えた。
「イリーシャ!」
大声をはりあげる。
イリーシャ? イリーシャだって!?
も、もしかしたら……。
おれがドキドキワクワクしていると、果たしてお目当ての人物は現れた。
こんな乾燥した砂漠のド真ん中であるにも関わらず、まるで濡れているのかと見間違えるほど美しい黒髪と。
見る者すべてを吸い寄せるかのような魅惑の黒い瞳。
すらりと長い褐色の手足にはシミひとつない。
ローブを着ているということは聖職者だろうか。
まるであつらえたかのようによく似合う。
見間違うことなくおれの女神だ。
同時に女神の名前も確定した。
女神の名前は『イリーシャ』だ。
イリーシャ。
イリーシャかぁ……。
……実にいい響きだ。
女神にふさわしい美しい名前だ。
イリーシャ。イリーシャ。イリーシャ。
あまりの美しさに思わず何度も呼びたくなるね。
やっぱり漢字の名前はダサい。
みんなカッコいい名前をしているのは、異世界に来て良かった思えることのひとつだ。
イリーシャは看守に呼ばれて現れると、おれをスルーして瀕死のジジイところに駆け寄った。
回復魔法の優しい光がジジイを包む。
さっきまで息をするのも苦しそうだったジジイは、あっという間に元気ハツラツになって――でも、すぐに看守に鞭で叩かれて重労働に戻っていった。
死ななくて良かったんだか悪かったんだか。
おれにとっては良いことだらけだったけどな。
また女神に会えた。
しかも名前までわかった。
イリーシャはジジイを治すとすぐに去ってしまったけど、おれは充分に満足していた。
彼女がいるから、おれはこんな劣悪な環境でもふてくされずにやっていけるんだ。
男は単純