深夜の密会 その1
オーネリアス・コープス八世。
この女が信用できるかっていったら答えはノーだ。
たとえるならヘビの狡猾さとライオンの傲慢さを併せ持っている……といったところか。
味方だと厄介だが敵だともっと厄介というタイプだ。
もっとも王という人種はかくあるべきなんだろうがな。
今はニコニコしているが、もしおれたちに利用価値なしと判断したら容赦なく切り捨てるだろう。
だからおれたちは見限られないよう、常にこいつに利益を提供し続けなければならない。
シグルスさんの鱗をくれてやったのもそれが理由だ。
ホントは一枚たりともくれてやりたくはないんだけどな。
カネのためじゃねえぞ。
あれはおれとシグルスさんが同志だという証。
おれたちの絆だからだ。
一に利益、二に利益、三四が利益で五に利益。
……アホくさ。
だからおれは家業なんぞ継ぎたくなかったんだよ。
最初は楽しいかもしれんがそれに固執しだすとロクなことがねえ。
一と五の間を行ったり来たりだ。
おれはロクの……六の更にその先が見たいんだよ。
シグルスさんみたいにな。
だがおれがその先を見るのに利益が必要なこともまた事実。
オーネリアス、あんたがおれを利用するってんなら、おれもあんたを利用させてもらうぜ。
それが正しい人間関係ってもんだしな。
城内で行われた戦勝会。
そのドンチャン騒ぎっぷりに飽きたおれは、途中で会場を抜けだし夜風に当たっていた。
城の屋上――神樹の枝の上は見晴らしがよくて実に素晴らしい。
こうして高いところから景色を一望していると、このオーネリアス大陸のすべてを知った気になれる。
気がするだけだがな。
いずれはこの大陸のすべてを見て回ってみてえもんだ。
時間的に無理だろうけどな。
おれのリアルは充実しすぎてもはやパンパンだ。
そういうのはシグルスさんに任せることにする。
人生は短い。
一つのことに醜く執着してるヒマはねえ。
だがまあ、あれは『お得意さま』だ。
無碍にするわけにもいかねえか。
「おまえは、そうして独りで佇んでいると王の貫禄があるな」
と、本物の王さまがおっしゃっていらっしゃる。
「闇を纏って大きく見える……いわば闇の王といったところか」
――ご名答。
そう、実はおれは勇者でも何でもねえ。
永久の闇の住民なのよ。
で、その闇の王に何のご用ですかね――オーネリアス王。
「おまえ、ティルノ遺跡で何か見たか?」
「何かってなんだよ。そら遺跡は見ましたよ。当たり前じゃないっすか」
「決して触れてはならぬオーネリアス大陸の秘密についてだ」
……やっぱりこいつ、地下の製造施設を知ってるんだな。
現地民、それも王族なら当たり前か。
本来なら衛兵に管理させて、重要な場所には立ち入らせないようにしてたんだろうが、シグルスさんのせいでそれができなかったんだろうな。
だからおれたちが、あの施設に入れたのはやっぱりラッキーだったってことだ。
にしても、なんでおれたちが秘密に触れたことがバレたんだ。
「おまえは自然体でらしい態度を取っているが、他の連中の挙動が不審すぎる。とても巨大な魔族を討伐した後とは思えぬおとなしさだ。遺跡で何かあったと考えるほうが自然だろう」
ああ、おれがあいつらに余計なことはいうなと念を押しておいたからな。
まったく、ダメな奴らだなぁ。
でもま、何でもベラベラしゃべる連中よりかはマシと思って諦めるしかねえか。
「そう思うなら、そいつらに直接訊けばいいだろ? なぜおれに?」
「あいつら訊いたところで何もしゃべらんだろ。おまえがあいつらに口止めしているのだろうからな」
図星を突かれたが、不思議と動揺はなかった。
……シグルスさんに会ったからかな。
それとも、マジで闇がおれに力を与えてくれてるのかな。
オーネリアス、今夜のあんたは……やけに小さく見えるぜ。
今夜は、負ける気がしないな。
「すべてを話せリョウ。パートナーであれば信頼関係は重要だろう」
信頼関係?
はは、騙して竜と戦わせようとした奴が笑わせてくれる!
だが……おれを力で脅さないか。
おれを闇の王と称したことといい、どうやらオーネリアスも感じているようだな、今のおれの大きさを。
話せか。
いいだろう、話してやるよ。
ここまで来たら隠してもしょうがねえしな。
おれはシエラ大神殿の祭壇の下に何かを製造するカプセルを発見したことをオーネリアスに教えた。
「なぜ気づいた?」
「遺跡にいた魔族がそいつを探してたんだよ」
おれがシグルスさんと同志になった事実は伏せた。
決してあいつに教えてはならない、もっとも重要な事実だと判断したからだ。
嘘をつくならただ一点。
真実を織り交ぜてつく。
詐欺師の常套手段よ。
「ありゃどう見たって魔物の製造装置だ。なぜそんなものがこの大陸にある? なぜ魔族はあれを探していた? 教えろよオーネリアス。あんたらのご先祖さまは、この大陸でいったい何をやろうとしてたんだ?」
さあ次はこっちの番だ。
何も知らないとはいわせない。
シグルスさんの手みやげに、歴史の真実――その一端を教えてもらうぞ、 <蛮王> オーネリアス・コープス!
「おまえに魔物討伐を依頼したのは失敗だったかもしれんな」
口封じに襲って来るなら受けて立つ。
先日は不覚を取ったが、次は同じようには行かない。
この男を舐めきっている女に教えてやるよ。
男はいつまでも同じ立ち位置にはいないってことをな!
「リョウ、私は―――」
明かされるオーネリアス大陸の真実




