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大いなる白銀の竜

 天突く巨躯から矢のような視線が降り注ぐ。



 この視線は田中だけに向けられたものじゃない。



 おれたちの姿もすでに補足されている!



 当たり前か!

 あんな上空から見下ろせばどこに隠れようが丸見えだわ!



「その魔力……ゴルドバの狗か。実物を見るのは初めてだが……」



 ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。

 瞬間、おれの背筋に猛烈な悪寒が走った。



 こ……これは、やばい……ッ!!



「田中、よけろぉッ!!」


「え?」





 閃光が走った。




 空が鳴く。

 大地が震える。


 まるで恐怖に怯えるように。





「くっ!」





 すさまじい熱風が巻き起こり、おれの全身を激しく煽る。





 ――戦慄。





 今のおれの気分を一言で表すとしたらそれ以外に思いつかない。





 強靱。

 強力。

 強烈。

 強大。



 驚異!

 驚愕!

 叫喚!

 恐怖!



 これが!



 これが!!



 人智及ばぬ者の破壊の業!!!





 おれは目撃した。

 ドラゴンの口から放たれた光のブレスが、腰を抜かしていた田中に直撃したのを。



 ……最悪だ。

 いや、これはもはや災厄だ。



 絶望で目の前が真っ暗になる。



 こんなもん、よけるもクソねえわ。

 ましてやまともに喰らおうものなら骨すら残ら――――



 遺跡を包み込む炎の渦が、次の瞬間まっ二つに割れた。





 炎を切り裂き現れしは、光のオーラに包まれし勇者の姿だった。





「わ、忘れてた……」



 あいつは、あれでも光の勇者だったんだ。



 いや、忘れてたわけじゃねえけど、勇者ってこんなにすげえのか。

 おれは昔、こんなのとケンカしようって思ってたのか。

 とんでもねえアホだなおい。



 あの人智を越えたブレス攻撃をものともしない。



 もしかして、いけるのか? いけちゃうのか?

 勇者なら、あの化け物を倒せるのか!?



 ……でもあいつ、腰抜かしてるんだよなあ。



 期待薄だよなあ……。

 それでもやってもらわにゃこっちは全滅だけど。



「なるほど、やはりこの程度のブレスは効かぬか。だが……」



 ドラゴンの双眸からギラギラとした光が消えた。



「……我の敵ではないな」



 腰を抜かしたままの田中に力なくいうと、ドラゴンはもたげた首を下ろし、ふたたび遺跡の中で丸くなった。



「興味が失せた。戦う気がないなら早々にここを立ち去るがいい」



 ……え、マジ?



 マジで立ち去っちゃっていいの?



 ララララララ、ラッキイイイイイイイイイイイ!!!



 去ります去ります! どんどん去りますよ! いくらでも去ります!

 いやぁ、話のわかる魔族でホント助かっちゃうなあ! 魔族がみんなあなたみたいな御方だとおれたち超助かるんですけどぉ!



 ……ん? 話がわかる?



 そうだよ、こいつ話がわかるんだよ。

 高位の魔族は高い知能を持っているって話は本当だったんだな。

 オーネリアス語もペラペラだし下手な人間より何倍も賢いだろ。おれより賢いかもしれん。



 賢いんならさ……もしかしたら交渉も可能なんじゃね?



 いやいやいやいや、おれは何をバカなことを考えてるんだ!

 ドラゴンさまが見逃してくれるっていってるんだから、気が変わらないうちにそこのキモオタを回収してとっとと逃げるべきだっつうの!



 そうだ、帰ろう帰ろう!

 そしてこんなクソみたいな試練を与えたオーネリアスを糾弾しよう!

 おれはがんばった! 充分がんばった!

 それでもおれのことを腰抜け扱いするようなら、田中に頼んであのクソアマをぶちころしてもらう!



「ドラゴンさま! 田中の無礼をお許しください!」



 気づけばおれは、田中の横まで駆けよりドラゴンの前で平伏していた。





 何をやってるんだおれはぁ――――――――ッ!!!!





「我々は、決して、決して、あなたさまを害しにきたわけではございません! そのことは何とぞご理解ください!」



 い……いや、ここまでは別にいいだろ……。



 何しろこっちはドラゴンさまの睡眠を妨害したわけだからな。

 悪いことをしたら謝る。これ常識だよね。



「我をドラゴンと呼ぶとは、きさまも勇者と同じ異世界人だな」



 うへぇ――――ッ! やっぱこいつ賢ぇ――――ッ!!



「三度は聞かぬぞ。人の子よ、我に何用だ」


「う……」



 ど、どうする?


 なんて答えりゃいい?



「特に何も用事はありますぇん!」とでもいうか?



 アホか! ぶちころされるわ!


 かといって正直にいうわけにもいかねえし……とりあえず体のいいウソを、



 ……いや、ダメだ!



 こいつは賢い!

 下手なウソは見透かされる!



 じゃあなんていやいいんだ、クソったれ!



「ここは人類にとって重要な文化遺産でして……その、観光名所にもなっているんですよ。そんな場所に魔族が棲みつかれると、その……主に収入面で困るわけですよ。だから何とかしてくれとオーネリアス王から依頼されたのです」



 ど、どうだ、いい回答だろ!?

 真実ではないがウソでもない!

 これなら看破はされまい!



「それはつまり、我を倒しにきたというわけではないのか?」


「いえ、私どもはあくまで交渉に参ったのです。用はここから立ち退いていただければいいだけですので」



 あ……あれれ?


 おかしいな、結局ドラゴンと交渉する流れになってるじゃん。

 どうしてこうなった?



 ええい! こうなりゃヤケだ!

 毒を喰らわば皿までよ! 徹底的にやってやろうじゃねえか!



「我と交渉しようとは、なかなかおもしろい人間だ。名を聞こう」


「私の名はマサキ・リョウともうします。あなたさまの名は?」


「我が名はシグルス。シグルス・レギンだ」



 へぇ、シグルスさまっていうんですか。

 いやはやなかなか高貴なお名前ですねえ。




 ……ん?




 今なんていった?




 シグルスはいい。

 問題はファミリーネームのほうよ。



 おれの耳が正常だったらの話だが――このドラゴン、今確かに『レギン』って名乗ったよね?



 レギンレギンレギンレギン……どこかに聞いたような響きだけど、




 レギンだってええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!??

魔王と同じ名を持つ者

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