蛮王
念のためにつけておいた樹木の傷を頼りに、おれは正規の通行路へと戻った。
邪魔くさかったゴーレムは田中が一掃してくれたようで、おれたちは大きな苦労もなくオーネリアスの首都コープスへと辿りついた。
「おまえ強いな。気に入ったぜ。名前はなんていうんだ?」
「田中太郎。みんなからは光の勇者って呼ばれてるよ」
ミチルと田中は、いつの間にか仲良くなっていた。
そしてこの田中、紋章の効果で五ヶ国語ペラペラで人とのコミュニケーションに困ることはないらしい。
ケッ、いいご身分だな。おれは必死こいて勉強したっつうのに。
……別にいいけどな。
誰かから与えられたモンに興味はねえ。
おれはおれの力でおれなりに生きるだけよ。
それにしても……『戦女の都』コープスか。
話には聞いてたが、本当に女ばっかりなんだな。
どいつもこいつも暑さのせいで際どい格好してやがる。
こっちの世界でいうところのアマゾネスってやつか。
いいねいいね。おれはそういうのけっこー好きよ。
ここが18禁ノベルの世界だったら、みんなとっ捕まえて屈服させて性奴隷にしてやるんだがね。
残念ながらここは現実。
しかも異世界で、奴隷はおれのほうなんだな。
不服はないけどな。
ジャングルのど真ん中にあるっつうから察しはついてたけど、やっぱし文化レベルは低いな。
実はソルガが首都だっていわれたら納得しちゃうぐらい低い。
でも首都らしく活気はあるわ。
戦士職が多いからってのはあるかね。
みんな生き生きとしてて見てて楽しくなってくるわ。
さてと、観光はこのぐらいにしてオーネリアスさまの居城を探すかな。
もっともそんなものがあるのならの話だが。
よし、そこのガタイのいい女戦士に尋ねてみよう。
「えらく顔がいいが、おまえ娼夫か?」
……は?
「5000ルピで一晩どうだ?」
いえいえいえいえ! 違いますよ! おれは商人! ただの商人です!
商会を立ち上げる許可をもらうためオーネリアス王に会いにきたんですよ!
おれが娼夫であることを懸命に否定すると、女戦士はガハハと笑ってからオーネリアス王の住所を教えてくれた。
ビックリした……なんつう男らしい女だ。
うちの女々しい勇者さまも見習ってもらいたいものだ。
「抱かれればよかったのに。5000ルピは落ちてねえぞ」
「ミチル……てめえは本当に後先考えずにモノをいうよな」
女と寝てたからオーネリアス王との謁見に遅刻したとでもいうのか?
おれの首が飛ぶっつーの。
だいたいこの手の商売にゃ縄張りっつーもんがある。モノも体も勝手に売れはしねえんだよ。
目先の小銭に目がくらんで余計な敵増やしてどうする。このドアホ。
こういうアホは放っておいてさっさとオーネリアス城に行こう。
オーネリアス王はこいつのようなアホではないだろうから、気合い入れていかないとな。
コープスの中央にそびえ立つ、馬鹿でかい樹の上にオーネリアスの居城はあった。
……城っていっていいのかこれ?
ただ樹をくり抜いただけだよね、これ。
首都とはいえ仮住まいだから、こんな簡素な造りでいいってことなのかね。
うむ、よくわからん。
さすがは蛮王と呼ばれるだけのことはあるな。
にしてもホントにでかい樹だなあ。
何しろ人が住めちゃうぐらいのでかさだもんなあ。
地球にゃこんなでかい樹はねえぞ。
やべ、ちょっとだけ住んでみたくなったわ。
住み心地は悪そうだけどな。
守衛の女戦士に勇者と先日ワイツで連絡した商人が来たと伝えたらあっさり通してくれた。
なんとなく察してたけど、すげえおおらかだよなこの国。
根っこの部分にある扉を開けて中に入ってみると……なんとビックリ、意外なほどに広大なスペースが広がっているじゃないか。
しかもすげー綺麗な仕上がり。
床も壁もワックスでもかかってるんじゃないかってぐらいピカピカじゃねえか。
つうかこんな見事にくり抜いちゃって耐久は大丈夫なの?
地震とかきたらあっさりへし折れちゃいそうだけど……いったいどんな魔法を使ってるんだ?
いやぁ、やっぱエルメドラはすげえなあ。感動しちゃうなあ。
「お、女の子ばっかりで緊張しちゃうね!」
一方、田中は樹の城そっちのけで中で仕事している半裸の女ばっかり見ていた。
つうかこいつはコープスに来てからずっとこんな調子だ。
女なんてさして珍しいものでもねえだろ。
エルメドラではどうだか知らんが地球の人口の約半分は女だったわけでな。
まったく……これだから童貞は困る。
いいからさっさと行くぞ。
外壁に取り付けられた螺旋状の階段を上がると、いよいよオーネリアス王とご対面だ。
現オーネリアス王――オーネリアス八世は、世界征服をもくろむ魔王軍を自ら最前線に赴き食い止めている豪傑だと聞いている。
現在進行形で魔王軍が侵攻中なのに他国がわりとノンキしてるのはオーネリアス王のおかげといってもいいそうだ。
そんな英雄と今から謁見できるってんだ。
いやがおうにもテンションあがるぜ。
「おう、予想より到着がはええな。てっきり魔物に追われて道に迷ってるもんだと思ってたぜ」
玉座に着いてそうそう、オーネリアス八世はケラケラ笑いながら気さくに話しかけてきた。
ウェーブのかかった亜麻色の髪。
燃えるように紅い唇。
ビキニみたいな上着の中にはメロンのような爆乳がふたつ窮屈そうに詰まっていた。
魔物にやられたのか右目に眼帯をつけているのが印象的だ。
だがそんな外見より、おれが気になったのはその佇まいだ。
一言でいえば――『自信』だ。
『こいつらは私より遙か格下』
『たとえ何をしてこようがこの私を害することはできない』
そんな絶対的な自信で全身みなぎってやがる。
なるほど、これは守衛もあっさり通すわけだ。
―― <蛮王> オーネリアス・コープス八世。
どうやら聞きしに勝る女傑のようだ。
こんなヤバい女と今からやり合えるってんだ。
商人冥利に尽きるってもんよ。
世界の頂点の一人、登場




