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アンノウン

 今、このジャングルにはとんでもなくヤバい奴がいる。



 何者かはわからんが、この魔物の楽園で轟音を立てながら進んでもまったく意に介さない怪物なのは間違いない。



 最初はオーネリアス軍か魔王軍のどちらかだと思ったが、ここの地理をよく知っている連中がこんなド派手な行進するか?

 昼のジャングルは静謐であるべき――なんておれでも知ってる常識だぞ?



 ド――――――――ン



 ほら、また鳴った。



 こいつはおそらく魔法だ。

 魔法にゃあんまり詳しくないがおそらく爆発魔法の類だろう。


 しかもこの大気の震えはどうよ。

 こりゃそうとうな使い手だぞ。

 ウォーレン軍の魔法使いのおっさんと同等――いや、もしかしたらそれ以上の威力かもしれない。



 ……気になるな。



 な、気になるよな?

 いったいどんな奴がいるのかすっげー気になる。



 いやいや、わかってるよ。

 こんないかにも危険そうな奴に近づくなんて自殺行為だってことぐらいね。



 でも魔法を使っているってことは少なくとも知性はあるわけよ。

 知性があるならさ、話し合いの余地はあるっておれは思うんだ。

 うまくすれば安全にコープスまで着ける可能性もあるわけだしね。



「マジで見に行くのか?」



 ミチルが呆れたような顔でおれに尋ねる。



「ああ。気配から察するに相手はおそらく独りだ。独りならどんだけ強くてもどうにかなるだろ」



 最悪こいつを囮にして逃げればいいしな。



「おまえだって気になるだろ? ほら、そこに転がっている石ころ。もしかしたらさっきおれたちが戦っていたゴーレムじゃね?」


「ゴーレム? ああ、ゴレムのことか。戦った記憶はないんだがな」


「あれを一発で倒せる奴が仲間になったら心強くね?」


「仲間になってくれたら……の話だろ?」



 いかにも乗り気じゃなさそうな素振りを見せてるが、おまえがすぐにこの話に乗ることぐらいわかってんだよ。



 おまえのような人種は強い奴を避けて通れない性分なんだよ。

 どっちかといえばおれも同類だからな。おまえの気持ちは理解できるつもりだぜ。



「……いつでも逃げられるよう、まずは遠くから確認するだけにしよう」



 ほら食いついた。

 慎重さを装いつつも興味津々じゃねえか。

 まったくメンドクセー野郎だぜ。



 よし、そうと決まったら善は急げ。

 魔物の楽園を我が物顔で歩く怪物さまの面を拝みに行こうぜ。





 ゲドラシャが尻尾を巻いて逃げていく様を横目で見ながら、おれは正体不明のアンノウンのいる場所へと進んでいく。



 しかしまあ……まるで獣だな。

 力任せにずんずん前に進んでいきやがる。



 いったいどこに向かってるんだ?


 地図を見るかぎりそっちはまだ未開拓ゾーンだぞ。

 都市も遺跡もありゃしないぜ。



 ……本当に知的生命体なのか怪しくなってきたかもしんない。



 いやいや、だいじょうぶだいじょうぶ。

 たとえ戦闘になっても、こっちにはミチルがいるんだ。きっとどうにかなるって。



 ただ、なんかこう……すっげー嫌な予感がするんだよなあ。

 気のせいだと信じたいが……。





 焦げた樹木から熱を感じる。

 何者かが草をかき分ける音が聞こえてくる。



 そろそろターゲットが近いな。

 こいつは心してかからねえと。



 先回りしたおれたちは、草の中に身を隠しターゲットがこっちにやってくるのを息を潜めて待った。



 ……ちっ!



 嫌な予感は的中した。

 追っていた相手はやはり知的生命体ではなかったのだ。



 こいつはダメだな。交渉の余地なし。

 さっさとこの場を去ってコープスへと向かおう。



「リョウくん!」



 げっ! 見つかった!?



 な、なんでだ? おれは物音ひとつ立ててねえぞ!?



「よかったぁ! 道に迷っちゃって途方に暮れてたんだよぉぉっ!!」



 クソ、今はこんな奴に構っている場合じゃねえってのに!



「逃げるぞミチル!」


「なんでだ? マイラル語はよくわからんが、こっちに助けを求めてきているみたいだぞ」


「いいんだよ! アレは無敵の勇者さまだから独りでなんでもできるんだ!」



 ミチルの腕を掴んで強引に逃げようとしたが時すでに遅し。

 信じられないスピードで回り込まれてしまった。



 畜生! 勇者から逃げられるのは、はぐれメタルだけってかぁ!?



「田中ァ! てめえなんでこんな場所にいやがるぅ!」


「オーネリアス王に頼まれて魔族討伐に来たんだよぉ。そしたら道に迷っちゃって……」



 かつてマイラルで死闘を演じた我が宿敵――田中太郎は、普段の精悍さがウソみたいに情けない顔でおれにすがりついてきた。



「ガイドをつけろ! ガイドをぉ! なんでつけない!?」


「えっ、だって地図を見るかぎりコープスってソルガから北に向かえばいいだけだし」


「ちゃんとコンパス使ってるか?」


「コンパスって何? 北って上方向に向かえばいいだけでしょ?」



 ダメだこいつ、やはり知的生命体じゃない!

 つうかこいつの持ってる地図、世界地図じゃねえか!



「エルメドラってユーザーフレンドリィじゃないよね。今時のRPGなら現在地と目的地までの道筋ぐらいちゃんと示してくれるもんだし」



 紙の地図にGPS機能なんかついてねえよ!

 冒険ナメてんのか!



「いくぞミチル。こいつとは関わるだけ時間の無駄だ」



 今のおれは忙しいのだ。

 キモオタと関わっているヒマはない。

 こいつは怨敵ではあるが、ここに放置しときゃ勝手に餓死するだろう。

 おれが直接手を下す必要もあるまい。



「ちょっとぉぉ! 僕を置いて行こうしないでよぉ~~っ! 助けてくれよぉ、僕たち友だちだろぉぉ!」


「今さら遅せぇ! おれは最初からおまえと……ッ!」



 ……いや、ちょっと待てよ。


 あ、今ちょっと名案を思いついちゃった。



「おまえさ、オーネリアス王に依頼されてここに来たっていったよな?」


「そうだよ。魔族討伐のために勇者の力をぜひ借りたいだって」



 へぇ……そうなんだ。

 それってつまり、君はオーネリアス王に正式に勇者だと認められてるってことだよねえ。



「田中くん、ご希望どおりコープスに連れていってあげるよ。その代わり、ちょっと頼みごとをしても……いいかなあ?」



 今のおれは無手だ。

 カネもコネも何もねえ。

 だから使えるものはなんだって使う。


 王でも奴隷でも――……勇者でもだ。

夢の共闘(笑)

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