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ジャングル

 バッカス商会は無理だ。

 おれたちと手を組むメリットがない。


 ああいう地方の名産品はマイラルという『宣伝塔』がいてくれるからこそ売れる。

 マイラルの商人が盛り立ててくれなきゃ、ちょっとアルコール度が高いだけの地酒だ。

 おれたちがプロデュースしてもいいが……今さらだろ。

 バッカスはマイラルの商会の機嫌を損ねられない。



 リカルド商会もたぶんダメ。

 だいたい米や小麦みたいな食物は関税が安いんだ。ひとつ経由しようがふたつ経由しようが大差ない。わざわざウォーレンと直接やりとりする必要性は薄い。

 せめて食品加工まで手がけてくれてたならなあ。惜しいなあ。



 おれたちと一番利害が一致するのはリカルド商会だ。

 連中はマイラルの連中から仲介料を搾取されることを嫌がっている。

 近年はマイラル法にて魔族に武器を売ることを禁じられているので売上激減。鬱憤はさらに溜まっていることだろう。


 その点ウォーレンはその手の規制がゆるゆるだ。

 国の要だったウォーレン王が死去したことで近年ますます無法地帯になりつつある。

 ウォーレンを経由して魔族に武器を提供することも可能だろう。

 手を組むならリカルドだ。



 でもさあ、おれたちに死の商人の片棒を担げっつうの?

 いくらなんでもそりゃ色々まずいっしょ。



 おれは幼少の頃から商売に綺麗事を持ち込むなと教育されている。

 日本にいたときのおれなら間違いなくリカルドと手を組んだだろうな。



 でもな、おれはおれのためだけに事業を始めたわけじゃねえんだ。

 ヴァンダルさんの夢を人類の悪夢に変えるわけにはいかねえんだよ。



 じゃあ残るはメルト商会ってことになるんだけど……正直ここは論外だわ。

 こいつらは商売敵。手を取り合うのではなく出し抜くべき相手だ。

 万一こいつらと手を組んだら航路と一緒に商会そのものを乗っ取られるのがオチだね。


 何しろ相手は生き馬の眼を抜くこのオーネリアスで何十年と取引をしてるんだ。

 ハッキリいって地力が違う。質も量も経験キャリアもけた違いだ。それはミネアさんが持ってきた資料を見ただけでもビンビンに伝わってくる。


 そんな連中を自分の都合のいいように利用できると思うのは愚か者の考えだ。

 おれは絶対に甘く見ない。信用もしない。



 つまりミネアさんの持ってきてくれた後ろ盾候補はぜんぶダメってことになる。

 どこかから別の候補を持ってこなければならない。





「……で、オーネリアス王に直接後ろ盾になってもらおうって話に繋がるのか」



 クソ熱いジャングルの中を水筒片手に、おれたちは首都コープスへと向かって歩を進める。



 あ~この魔法の虫除けスプレー超助かるなあ~。



 こいつがあればジャングルで一番危険な毒持ちの虫どもを一切気にしなくていいんだもんなあ。冒険するならやっぱ異世界だねえ。



「この国一番の権力者が後ろ盾になってくれたらこれ以上ない強みだろ?」


「バカじゃねえのおまえ。なってくれるわけねーだろ」


「その辺はおれさまの交渉次第だな。まあ期待してくれや」


「時間の無駄だ。他をあたったほうがいい」



 時間の無駄?

 どのみち商会を立ち上げる許可を得るのにはオーネリアス王の許可がいるのに?


 ま……後ろ盾がなきゃ許可が出にくいっていうのは確かにあるだろうけどな。



「いいかミチル。カネもコネもねえおれたちに使えるのは時間だけなんだぜ」


「だから有意義に使えといっている。大手にこだわらなければ後ろ盾なんて探せばいくらでもある」


「ダメだ。両国の海を繋げるというビッグプロジェクトだ。大きなバックがサポートしてくれなきゃヴァンダルさんの二の舞いだ。それがわかってるからおまえもおれについてきてるんだろ?」



 あいにくとおれも時間の無駄使いは嫌いでな。

 航路を作るなら最短距離をつき進む。寄り道なんかしちゃいられない。

 使えるものは奴隷だろうと王だろうとなんだって使うんだ。



「仮に断られたところでおれたちに不利益はねえよ。商会の許可をとるついでなんだから時間のロスもねえ。ノーリスクハイリターンなんだからやらなきゃ損だろう」


「まったく……おまえは頭がいいのか悪いのかわからん奴だな。まあいい、おまえの商会なんだから好きにしろよ」



 話のわかる奴で助かるわ。

 ラムダさんなんて何度説得しても「恐れ多いからやめとけ」っていってきかなかったもんな。

 まあこいつはこの国の国民じゃないってこともあるんだろうけどさ。



 それにしても……こんなジャングルのまっただ中にホントに都市があるんかいな。

 地図を確認する限り、この辺りで間違っちゃいないはずなんだが……あ~あ、また岩壁だよ。地形に起伏がありすぎだわ。



「なあリョウ……ラムダさん、いってたよな。『二人きりでジャングルの中に入るのは危険だからやめとけ』って」



 確かにそんなこといってたね。

 内陸部のジャングルには魔物がわんさかいるから、首都コープスに行くときは最低十人以上からなるパーティを組む必要があるって。



「おれとおまえ、二人が組めば最強だろ? 他の連中は逆にお荷物になるからいらねえよ。おまえだって同意してたじゃないか」


「ああいった。だがその発言、今から撤回してもいいか?」



 なんだよ急に弱気になって。

 もっとも本来なら目的地に着いてもおかしくない時間だがな。


 いや、別に道に迷ってなんかいないぞ?


 こうしてちゃんと地図に従って通行路を歩いて……いるはずなのに、なんでさっきからよく岩壁にぶち当たるんだ? おかげでちょくちょく遠回りしてるんだが。



 つうかこの岩壁、触れてみるとほんのり温かい……ような。



 ――――ドン!!!



 が、岩壁が……動いた!?



 い、いやこれ……岩壁じゃないぞ。



 まるで岩のような外見だが、よく見りゃ四肢と目鼻がある。

 こうやって立ち上がって見下ろされるとまるで巨人みたいだ。





 みたい、じゃなくて巨人なんだよッ!!!





 おれ、知ってるよ。

 こいつはゴーレムっていう魔物なんだ。

 大昔に悪いわるーい魔法使いに魂を吹き込まれた土人形なんだよね。



 うわぁ……すっげーでかくて強そうだなぁ。

 ざっと見ておれの五倍以上の身長があるんじゃね?



 でもおれたちは最強コンビ。たとえゴーレムでもかなわないはずだ!



 おれは試しにラムダさんから譲ってもらった剣でゴーレムを斬りつけてみた。



 パキーン!



 刃はゴーレムの表皮にわずかな傷をつけてあっさり折れた。



「うん、だいたいわかった」



 逃げよう。

 こりゃ勝ち目ないわ。

ジャングルには危険がいっぱい!

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