商会
ツルハシを使って岩壁を掘る。
するとたまにメドラダイトの原石に遭遇する。
そいつをツルハシで割って台車に乗せて運ぶ。
それを延々と繰り返す。
メドラダイト採掘作業は実に簡単だった。
何の教養もない奴隷にやらせる仕事なんだからそりゃそうだ。
ただ簡単だと舐めてかかると魔力に当てられて死ぬこともあるから侮れない。
さらにこのメドラダイト自体が魔力にすっげー敏感で、近くで魔法が使われると問答無用でそいつを増幅強化してしまう。
かつて魔法で火を起こそうとした監視官が周囲を巻き込んで盛大に吹き飛んだこともあったらしい。
よって採掘現場は攻撃魔法厳禁。
使用可能なのは簡単な回復魔法のみとなっている。
もしかしたらウォーレンのピラミッド作りで極力魔法に頼らないようにしていたのも、ここと同じ事情があるのかもな。
ウォーレンはメドラダイト非産出国らしいけど、それでもどこぞに危険物が埋まっていないとも限らないしな。
石を魔法で加工する際も魔力チェックみたいなことをしていたし、攻撃魔法も岩場のない砂漠や囚人が逃げたときぐらいしか使わなかったもんな。
「現場は危険で不便だから奴隷のわしが監視官に任命されたんだよ」
とはラムダさんの言。
魔法に頼っているエルメドラで魔法がまったく使えないっつーのは確かに不便だ。
何かの弾みでウッカリ魔法を使ってドカンというのも怖い。
おまけに魔王軍の侵攻まであるとくれば……そりゃ人は来ねえわな。
だから奴隷に奴隷を監視させるのは理にかなっているといえばかなっている。
でも逆にいえばそれは、おれたちが自由に行動できるってことでもある。
おれやミチルから見れば魔法も使えないろくな戦闘訓練も積んでいないラムダさんたち監視官なんてとるに足りない相手だしな。
いや、だからといって反乱を起こそうなんて思ってはいないよ?
こんなド田舎で反旗を翻したところで航路を封鎖しちまえばどこにも行けないんだから、雇用側に身の危険はないわけでね。
むしろ困るのは食いブチのなくなる奴隷側だわな。
奴隷がまっとうな職業に就けるはずもないし、もし山賊化しようものならオーネリアス軍にぶちころされちまう。
おれたちってある程度ギブアンドテイクなところがあるわけよ。
安いが給料だって出るわけだしね。
だから反乱は起こさない。起こす気もない。
ただ自由に使える時間をフルに利用して、やりたいことをやりたいようにやるってだけさ。
「……で、どうするんだよ。航路を作るんだろ?」
仕事が終わるとミチルはかならず航路の話を振ってくる。
「そう慌てんなよ。どのみち奴隷の身分から解放されなきゃ始まらねーわけだからな」
「だからおれは人の倍働くから倍の賃金をくれるよう交渉している」
「100ルピが200ルピになった程度じゃなあ」
ちなみにミチルの罪状は窃盗。
その総額はなんと1000000ルピ。おれの倍だ。
こいつは今、それを体で払わされているわけだが、
「なんで貴族から盗むかなあ。大事になるに決まってるじゃん。もうちっと人を選んで盗めよ」
「だから盗ってねえっつてんだろ!」
ああ、そういや冤罪だったわ。
いかにも盗りそうな面してるから忘れてた。
「賃金は……今は試用期間中だから安いだけだ。真面目に仕事に従事していれば次第に上がっていくはず。早ければ数年で借金をチャラにできるはずだ」
「だからさっさと航路作りの方策考えろってか?」
わぁーってるよ。
だけどなあ、こっちも色々事情があるんだよ。
「ようやく借りを返したと思ったのに、また借りを作りに行くっていうのも何だかなあ……」
でもまあ、このぐらいはしゃあねえか。
ヴァンダルさんが仕事を依頼された商会に取り次いでもらおうってだけだ。
こっちとしてもミネアさんに全面的に協力してもらおうとまでは思っていない。
「次の休日にちょっくらミネアさんのところに足を運ぶかな。おまえも一緒に来いよ」
「構わんが、何をする気なんだ?」
「商会を立ち上げる」
「……は?」
は? じゃねえよ。
両国を経済的に繋ぐルートを作ろうってんだから当然だろ。
「まさかマジでおまえだけが渡る船を造ると思ってたのか?」
「そこまでは思ってないが……いくらなんでも話が大きすぎやしないか?」
大きい……か。
いわれてみれば確かにそうだな。
この手の取引はよく見てきたから感覚が麻痺してたわ。
とはいえ、自分でやるっつうのはさすがに初めての試み。
さて、おれの付け焼き刃の帝王学でどこまでやれるものか……。
「まっ……当たって砕けろの精神で行くかな」
ミチルの復讐のため、ヴァンダルさんの夢のため。
そして何よりこのおれ自身のために。
おれは、このオーネリアスに『成果』を残してみせるぞ。
夢への一歩




