伝説って?
少年の名前がようやく判明した。
ウォースバイトの闘技場で不敗を誇る最強の拳闘士。
その名は『ミチル』!
……すっげえ弱そう。
つうか女みてえな名前だな。
ちなみにフルネームはミチル・ポポイ。
弱そうな名前にさらにファンシーさが加わったな。
ウォースバイトじゃ普通の名前なのかと思ったが、どうも向こうですら変な名前だったらしく闘技場ではリングネームを使っていたそうだ。
さすがのおれもこれには笑った。
ミチルがおれの名前を聞いてくるので教えてやると、今度は笑い返された。
この田舎者め。これでもマイラルじゃカッコいい名前で通ってたんだぞ。
ついでに異世界からやってきたことも教えてやるとミチルは一言。
「おまえ頭おかしーんじゃねえの?」
……なんでマイラル人とウォーレン人じゃこんなに温度差があるの?
そういやヴァンダルさんも似たような反応だったな。
これはマイラルだけが特別と考えたほうがいいのか?
いや、でも魔王を倒した勇者だって地球人らしいしなあ。知らんっていうのはちょっとないわ。
「魔王を倒したのはウォーレン王だろ」
え?
え? え? え?
ミチルがいうには、かつて勇者だったウォーレンは魔王イドグレスを打ち倒し、その褒美として主神ゴルドバから大陸を授かったそうだ。
感激したウォーレンは授かった土地に神の名をつけた。
それが今のゴルドバ大陸だそうな。
「勇者ウォーレン伝説は、ガキでも知ってる常識だぞ」
マジか。
すっげー胡散臭さそうな逸話に聞こえるんだけど。
とりあえずおれはミチルに、マイラルでは異世界よりやってきた勇者が魔王を倒したことになっている事実を教えた。
「うさんくせー話だな」
胡散臭いもなにも、事実おれはここに召喚されてきてるし、勇者もおれの知り合いだっつうの。
「マイラルが国民を洗脳するためにでっちあげたウソなんじゃねえの?」
「だからここに生き証人がいるっていってるだろ! 洗脳してるのはウォーレンのほうじゃねーの!?」
くそ、こいつと話していてもラチがあかない。
ここは第三者の意見を聞こうじゃないか。
第三者第三者……つってもミチルはウォーレン語しか使えねえからウォーレン語がペラペラの奴……ってラムダさんしかいねえや。
よし、ここはラムダさんにどちらが正しいかジャッジしてもらおう。
「魔王を倒したのはオーネリアス王だよ」
……はい?
かつてこの大陸は魔王に支配されていた。
魔王はいずれ世界のすべてを支配するために、この大陸で強力な魔族を次々と生み出していったという。
今現在、大陸にいる魔物は、力はあるが知性が低く制御不能として放棄された存在だそうな。
そんな状況を見かねた勇者オーネリアスは仲間を引き連れて魔王軍と戦い、見事これを打ち破った。
魔王より解放されたその大陸に、オーネリアスは自らの名をつけた。
……というのがラムダさんの語る勇者の伝説だ。
その伝説が真実なら、最初にこの大陸を所有していたのは魔王であって、魔王はそれを取り返そうとしているだけってことになるな。
もっとも、支配地域を全世界に広げようって奴に同情の余地はねえんだけどさ。
「他の大陸で語られている勇者伝説なんて為政者の都合のいいようにねつ造されたウソっぱちさ」
……もうわけがわからん。
ま……歴史の真実なんて誰にもわかんねーことなんだろうな。
日本や世界の歴史だってどこまでホントのことが書かれてるのかわかんねーしな。
「作業に戻ろうぜ」
「そうだな」
おれはミチルと顔を見合わせると、メドラダイトの運搬作業に戻った。
ああ!




