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スラム街

 最近、リリスお嬢さまの拷問が減ってきている気がする。



 いや……気のせいじゃないよな。

 だって最近シノさんの世話になってないもの。

 しかも、心なしか拷問も手ぬるいような……。



 もしかしておれ、もう飽きられてる?



 これヤバいんじゃね?

 新しいオモチャが欲しいってことになったらおれ処分されちゃうよ?



 いやいや、それはマズい。

 おれはリア王になる男だ。こんな場所でしぬわけにはいかん。



 ……逃げるか?



 いや、逃げるっつったってどこに逃げるのよ?

 マイラルは城塞都市よ?

 四方を城壁に囲まれているわけよ。

 手形がなけりゃ外に出られない。

 かといって、市内にいたんじゃいずれ捕まるだろう。



 どうにかして、城壁をよじ登らなきゃならないな。



 となると、準備が必要になってくるな。

 まあこんな場所、これっぽっちも未練はねえ。

 必死こいて勉強したおかげでマイラル語はそこそこ覚えたし、独りでもなんとかやってけるだろ。



 どうしてもダメだったら盗賊にでもなるかね。

 知り合いの盗賊に色々教えてもらったことだしな、ははっ。



「リョウこっちだ。早く来い!」


「あ、はい!」



 リリスお嬢さまに急かされて、おれは荷物片手に次の店へと向かう。



 拷問が減った代わりに、買い物につきあわされることが多くなった。

 なんでわざわざおれを使うのはいまだによくわからん。



「おまえは私の犬なのだから、命令には迅速にしたがえ!」



 おれが犬だからか?

 他の連中だと気を使うから、人じゃないおれを使うってか?



 ……別にいいけどな。犬扱いで。

 利用価値があるうちは生かしてもらえるだろうし。

 ただその分、おれが気を使うんだよなあ。



 ほらそこ。

 変装したシノさんが監視してる。

 鋭い視線がいてーのなんの。

 ホントいらん気を使うわ。



 それにしてもへたくそな尾行だなあ。

 おれじゃなくても気づいちゃうんじゃね?

 トーシロだからしゃーないっちゃしゃーないのか。

 でもそんなんじゃ周囲の人間から変質者扱いされちゃうぞ。



「……つけられておるな」



 ほら、リリスお嬢さまにも気づかれた。

 そりゃそうだ。変装っつってもシノさん私服に着替えてグラサンかけてるだけだもん。せめて髪型ぐらい変えなきゃ。



「撒くぞリョウ。私をおぶれ」



 ええ……荷物を持ってるのに今度お嬢さまもですかぁ?



 へいへいやりますよぉ。

 何でもやらしていただきますぅ。



 おれはリリスお嬢さまをお姫さま抱っこすると、シノさんを撒くべく猛ダッシュした。


 シノさんが血相を変えて追ってくるが、いくら重い荷物を抱えていようが女の足ではおれに追いつけまい。



「もういいぞ。おろせ」



 いわれるがままにリリスお嬢さまをおろす。

 土地勘とかないから適当に走ったけどいいのかな?



 ていうか、ここはどこだ?



 シノさんを撒くために、あえて蜘蛛の巣のように張り巡らされた路地裏を駆け抜けたものの……ちょっとやらかしたかな?



「お嬢さま……ここ、どこだかわかりますか?」

「わからん!」



 だよね。

 だって箱入り娘だもん。



「なので探索だ! ついてこい!」



 探索かぁ……ひとりの時だったら別にいいんだけどさあ。

 どのみち歩かにゃ邸宅に戻れんか。



 ま、何とかなるだろ。





 ――――なりませんでした。





 どうせすぐに大通りに出るだろうとタカをくくってたのだがとんでもない!

 歩けど歩けど同じような景色ばっかりで嫌気がさしてくる。

 もしかしたら同じ場所をグルグル回っているだけかもしれんがまるで確証がない。



 どうしようどうしよう。

 ……ま、まさかこんな場所で迷子になるとは。


 道を尋ねてもみんなまともに答えてくれねえし……いったいどうすりゃいいの?



 ていうか、ここって俗にいうスラム街だよね?



 貧乏人どもが寄り集まって住む地域だ。

 商業国マイラルにもやっぱり貧富の差はあるんだな。


 光あるところには陰もある――ここもまたウォーレンと一緒か。



「どうした元気がないぞリョウ! 早くしないと置いてくぞ!」



 リリスお嬢さま……あんたはなんでそんな元気なんですかぁ。

 途方に暮れてる自分がなんだかバカらしくなってくるじゃないですかぁ。



「待ってくださいよお嬢さまぁ」



 我ながら情けない声をあげながら、リリスお嬢さまを追いかける。



 ――が、そこで思わぬハプニングが起こった。



「ほう、やけに身なりのいいガキじゃねえか。もしかしていいとこのお嬢さんか?」



 はしゃぐリリスお嬢さまの目の前に、スキンヘッドの男たちが立ちふさがる。



「有り金ぜんぶ置いていきな」



 悪漢だ。

 全部で三人。

 悪漢らしくいかにも悪そうな面構えをしている。



 おれのほうに逃げようとしたリリスお嬢さまだが、すぐに悪漢たちに捕らえられる。

 どうやらおれたちを見逃す気はないらしい。



「おい、こいつはカネを持ってないみてえだぜ」



 信じがたい話かもしれないが、実は金は全部おれが預かっているのだ。

 預けたのはお嬢さまだけど。

 おれが商品を取って買うんだから合理的ではあるんだが。



「だったらその服ひん剥いてカネにすりゃいいんじゃね?」



 た……。



「財布握ってるのはそっちの男だろ? 早く出したほうが身のためだぜ。このお嬢さんのストリップショーが見たいなら話は別だけどな」



 助かった……。



「おい、聞いてるのか兄さんよぉ!」



 殴りかかってきたスキンヘッドの悪漢の腕をとって関節を極めると『見せしめ』として、そのまま容赦なくへし折る。



 うるせえ悲鳴が木霊するがここはスラム街。

 みんなてめえのことで手一杯だ。

 どれだけ助けを呼ぼうがだれも来ちゃくれまい。

 自業自得っつーことで……おとなしくおれにぶちのめされるんだな。



 仲間の悲鳴に困惑する悪漢どもにおれはツカツカと無遠慮に近寄り、お嬢さまを拘束しているハゲのアゴをアッパーで粉砕する。



 助かった。

 本当に助かった。



 こいつらが一目でわかるド素人で本当に助かった。



 ウォーレンの盗賊どもはレベルが高いうえに武装してるから手がでなかったが、こいつらゴロツキが相手なら何人いても取るに足らんわ。



「おい、そこのおまえ。こうなりたくなかったらおれたちを大通りまで案内しな」



 こういうカスどもは群れてるから気が大きくなっているだけで一人になると脆いもの。

 案の定、すぐにおれに尻尾を振って大通りまで案内してくれた。



 助かった。

 本当に助かった。



 あのまま延々と迷子になっていたらどうしようかと思った。

 暴力でいうことを聞いてくれるクズどもが、わざわざ向こうからやって来てくれて本当に良かった。



「さあお嬢さま、ご自宅に帰りましょう」



 愛想を振りまきながらいうと、お嬢さまは返事代わりにおれにしがみついてきた。



「……怖かった」



 なんだ、かわいいところもあるじゃねえか。

 感謝してくれてんのなら、おれを処分するのは勘弁してくれよ?

たまにはかっこいいところを見せる

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