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VS勇者

 マリガンさんから外出の許可をもらい、おれは今、マイラルの街に繰り出している。



 空気がうまい。

 人々の喧噪が心地よい。

 晴れ渡る空がまるでおれの心境を表しているかのようだ。



 田中を倒すと決めてから、おれの心はとても穏やかだ。

 むしろどう料理してやろうかとワクワクしてきた。

 悪夢まで見ていたちょっと前までの自分がウソのようだ。



 そうそう、なんでおれがあいつの悪夢にうなされなけりゃならないわけよ。

 悪夢は、みるんじゃなくてみせる側だろ? このおれはさあ!

 ふははは、まさに逆転の発想ってわけだ!



 さて、シャバの空気も存分に堪能したし……そろそろ行くか。



 ――勇者狩りの時間だ!!!





 勇者さまの宿は思っていたよりずっと質素だった。


 まあ、高級施設で豪遊してる勇者とかちょっと嫌だから当然か。

 要は泊まれりゃいいのよ泊まれりゃ。

 その点だけは田中に同意してやるよ。



 宿のフロントでどちら様かと尋ねられる。

 おれは最高の笑みと共にこう答えた。



「勇者タナカさまの友人です!」





 マリガンさんの名前を出したらフロントはあっさり田中の部屋まで通してくれた。



 うふふ……ダメだぜぇ? 人の言葉を鵜呑みにして、ホイホイ大事な客人のもとに通しちゃなぁ。ちょいとばっかし不用心じゃないかねえ。

 もっとも、おれとしては楽でいいけどな。



 田中の部屋に案内あれると案の定、田中は露骨に嫌そうな顔をした。



 だが勇者である手前、頭ごなしに追い出すことはできまい?



 田中はさんざん渋るような素振りを見せたが、結局最後は首を縦に振った。

 判断がおせえんだよこのウスノロが。



「てめえとだったら日本語で構わねえよな? そっちも素の口調で構わねえぜ」


「……いったい、僕に何の用? できれば放っておいてもらいたいんだけど」



 放っておく?


 冗談きついねえ。


 ……もう充分放置したさ。

 充分すぎるほどにな。


 これ以上おまえを放置することは決してない。



 おれとおまえ、どちらかがマイラル――いや、この世界から消え去るまで戦いは続くのだ。



「つれないねえ。おれたちは仲良しクラスメイトじゃないか。せっかく再会できたんだから、もっと親睦を深めようぜ。なぁ、田中くん?」


「き、君はぼくのことをいじめてたじゃないか! 今さら何をぬけぬけと!」



 おいおい、元はといえばおまえがおれのことをシカトしたからだろぉ?

 おれのせーにしてんじゃねえよボケェ。



「……僕と君とじゃ住む世界が違ったんだよ。関わらないに越したことはないだろ。お互いにさ」



 ……はぁ?



 住む世界が違うってどういう意味?



 実はおまえはエルメドラ人だとでもいいたいのか?

 でなきゃ二次元世界の住民か?





 ふざけるなッ!!!





 おれとおまえは日本の同じ高校に通っていた!


 確かに同じ世界にいた!


 昔も、そして現在いまもだ!


 無関係などとはいわせない! 絶対にだ!



「……もういいだろ。帰ってくれよ。君だって異世界にきて、色々と大変だろ?」


「とりあえず、てめえがどうして勇者なんてやってるのか聞いたら帰ってやるよ」



 そこまで興味はねえけど、いちおう聞いといてやるよ。

 いちおうな。



「そんなの僕が知りたいよ。気がついたら異世界にいて、ゴルドバとかいう神さまから勇者として魔王を倒し、世界を救ってくれって頼まれたんだ」


「外面が変わってるのは?」


「わかんない。神さまは何にも教えてくれなかったから」


「なんつういい加減な神さまだ。だいたい、おまえみたいな運動オンチがどうやって世界を救えるんだよ」


「あ、その点は大丈夫。神さまから勇者としての力をもらったんだ。それがこれだよ」



 いって田中は首筋の紋章を見せびらかす。



「これは『光の紋章』といって僕に勇者として必要な力を与えてくれるんだ。おかげで魔法も使いたい放題だし、異世界の言葉にも困ったことがないよ」



 そこで田中は、初めておれに向かって誇らしげな笑みを浮かべた。



「ここでも僕をいじめようと思っているなら、やめたほうがいいよ。今の僕は、君なんかには決して負けないんだから」



 それは優越感から来る蔑みの笑みだ。

 おれもよくするからわかるよ。



 ああそうだ。

 おまえは昔からそうだったな。



 取り巻きを従えているおれを、おまえはろくに見ようとすらしなかったが、同じ教室にいる以上どうしたって視界には入る。



 そのときのおまえは、決まって目が笑っていた。

 口にこそ出していないが、それでもハッキリと聞こえて来るんだよ。



『くだらないことをやってるなあ』ってな。



「なるほど、わかった」



 おまえが相変わらずゴミだとわかって安心した。



「その力はおまえが自力で得たものか? 違うだろ? そんな借り物の力を誇っているようじゃ、やっぱおまえの程度は知れてるわ」



 くだらない。

 馬鹿げている。

 ちょっと力を握った程度でもうそれか。



 その有り様でおれを蔑み見下そうというのだから片腹痛い。



 おまえとおれの何が違う?



 いってみろ! おれとおまえの何が違う!?



 さあ、高みに昇ったつもりでいないで……ここまで降りてこいよ田中ぁ。

 そしたらまた揚げてやるからさ。高々となぁっ!!!



「今から思い知らせてやるよ。てめえが授かったその力がどれほどゴミカスかってことをなぁっ!」



 さあ戦闘開始だ!


 さっそくおれは田中のどてっ腹に一発いいのを食らわせてやった。



 か――――硬てぇっ!



 いや、田中の体が硬いんじゃない。

 おれの拳は奴の体に触れてすらいない。

 おれが殴ったのは、奴の全身を包みこむ正体不明の見えない壁だ。



 こ、これが勇者の力か!?



「もう、やめてよ!」



 ――ドン!



 田中がおれの胸を軽く押した。



 ただそれだけで、おれの体はたやすく宙を舞った。





 ウソだろぉ――――――――ッ!!





 勢いよく飛んだおれの体はドアをぶち抜き、無様に廊下に転がっていた。



 ――――すげえ。



 ちょっと押されただけでこの威力。

 これが田中のいってた神の力ってやつか。


 なるほど、これなら魔族退治ができるのもうなづける。



 ふむふむ。予想はしていたがやはり力押しは無理か。

 さすがは光の勇者タナカさま。お強いお強い。



 だったら――――



「ゆ、勇者さまがご乱心なされたぁ――――――――ッッ!!!」



 おれはドアがぶっ壊れた音に驚き、客が集まってきたところを見計らって大声をはりあげた。



「みんな逃げろ――――ッ! 勇者さまにころされるぞ――――ッ!!」



 あえて情けない声で周囲に訴えながら、おれは面倒事になる前にそそくさと宿から退散した。



 さてさて、田中くんはこの後どう出るかな?



 自分は悪くない。おれが悪いと周囲に訴えるのかな?



 でもおれに暴行を振るったのは事実だし、ドアをぶっ壊したのも間違いなくおまえだよ?



 それに、おれは奴隷だよ?


 社会の最底辺で失うモノなんて何もない。

 給料だってもらってないし、虐待だって事あるごとに受けている。



 でもおまえは違うよね?


 何しろ愛と正義の勇者さまだもんな。

 今じゃ地位も名誉もたんまり持っている。


 失いたくないよね? 傷つけられたくないよね?



 わかってる。

 ぜーんぶわかってるよ。

 おれが叫んだときのおまえの青ざめた顔を見ればね。





 うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!

 これが持たざるモノの強みってやつさあ!





 弱者は強者に勝てないって発想は、下克上を恐れる強者にマインドコントロールされているにすぎないのよ。



 たとえ力なくとも戦い方なんていくらでもある。

 アリがゾウを食い殺すこともあるってことを、これからおまえに教えてやるよ。



 骨の髄まで、たっぷりとなぁ!

勇者VS闇の王、第一ラウンド終了

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