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闇の王

 このエルメドラには魔法を使えない人でも魔法が使えるように、さまざまな魔道具マジックアイテムが存在している。



 おれの机の横に置かれたこいつは『魔点灯』。

 ボタンをポンと押すだけで道具内のメドラが尽きるまで灯がともるという優れモノだ。

 ウォーレンの牢獄にもあったこいつはリグネイア産。つうか魔道具はぜんぶリグネイアで造られていて、マイラルは仲買をしているだけらしい。



 いつもならこいつを灯して読書をするところだが、今日はつけない。

 今は勉強する気分じゃないし、なぜか暗闇がとても心地よいからだ。



 心が闇に染まっていく。

 まるで昔の自分に戻っていくみたいだ。



 おれはリア王。

 その心に一点の闇もあってはならない。

 だから、



 ――闇は、払わねばなるまい。





 今夜は邸宅にて勇者の凱旋祝いのパーティが行われている。

 マリガンさんは一緒に参加しないかと声をかけてくれたがおれは断った。

 田中を祝うパーティなんぞに参加できるはずがあるまい。



 田中。

 田中、田中。


 田中、田中、田中。

 田中、田中、田中。田中、田中、田中。



 田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。 田中、田中、田中、田中。

 田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中、田中。

 田中、田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。田中、田中、田中。



 おまえの醜い外見がなんでマシな感じに変わっているかは知らん。

 運動神経ゼロのおまえがなんで魔族退治なんてできているのかについても興味ない。

 おまえが勇者に選ばれた理由すらどうでもいい。



 おまえは再びおれの前に現れた。

 その事実だけあればいい。



 田中、おまえはおれの生涯の敵だ。



 敵は倒す。

 ただ、それだけだ。





 月明かりに照らされた回廊で、おれは柱に背を預けて獲物を待つ。



 田中の生態はおれが誰よりもよく知っている。

 あいつはよく食い、よく飲み、そしてよくトイレに駆け込む奴だった。

 だからよくトイレに閉じこめてやったりもしたもんだ。



 この邸宅でトイレに行くにはこの回廊を通るしかない。

 美しい家ではあるがこういうところは合理的ではないな。

 もっとも、合理的なばかりでは美しくないけどな。

 不合理なうえに美しくないおれの自宅より万倍マシだろう。



 ――田中は、ここに来るかな?



 来る。

 かならず来る。

 それもひとりで。



 確証なんてない。ただの直感だ。

 だがおれの直感はよく当たる。いや当てる。当ててみせる。

 こと田中絡みに関しては、おれは予想を外さない。



 ……ほぉら、やっぱり来たじゃないか。



 パーティの主賓として盛大にもてなされ、ベロンベロンに酔った勇者さまのご登場だ。



 田中、おまえ酒なんて飲めたのか?

 つうかマリガンさん、未成年に酒なんて飲ませていいのかい?

 まっ、日本の法律なんてここじゃ関係ねーか。



「おや勇者さま、トイレですか?」



 おれはつとめて朗らかな感じで田中に話しかけた。

 その瞬間、田中のまっ赤な顔がサッと青ざめる。



 ふふ……そりゃそうだ。おれの顔はここでもまったく変わってないわけだからな。



 いい反応だぞ田中。

 それでこそいじめた甲斐があったというもの。



 だがもっとだ。


 もっとおれのことを見ろ。


 おれを見続けろ。


 もっともっと……もっと、もっとだ!



「あ……ああ、ちょっと飲み過ぎてしまったものでね。き、きみはこの屋敷の使用人かい?」



 ひきつった笑みを見せながら、田中がきさくなフリでおれに対応する。



「ええ。まあ、そのようなものです」



 そうだろうそうだろう。

 そういう対応をすると思っていたよ。



 愚かにもこの男は、外見が変わった程度でおれをやりすごせると思っているんだ。



「北方の魔族討伐おつかれさまでした。武具を提供した我が主もたいそう鼻が高いと自慢しておりました」


「そ、そうかい。それは良かった」



 やりすごせないよ?

 やりすごせるわけないだろ?



 おれはおまえを見逃さない。

 おまえの何がどう変わろうともだ。



「で、ではそろそろ失礼する。少し急いでいるので」


「勇者ごっこは楽しいですか。田中太郎くん?」



 田中が大きく目を見開く。

 顔に驚愕と恐怖の色を貼りつけながら。



 そうだ、それでいい。

 おれはもう二度と、おまえごときに無視などされない。

 いや、させない。



「ククク……ひさしぶりだなあ田中ぁ。そうビクビクすんなよ。今日はあいさつだけのつもりなんだからさあ」



 今日のところは……な。



「強くなって、手柄を立てて、みんなからちやほやされて……さぞ楽しかったことだろうなあ」



 だがそれももう終わりだ。

 このおれが終わらせる。



 ネガティブなのは趣味じゃない。

 闇は払うのではなく纏うもの。

 立ち塞がる側のほうがおれの好みだ。



 そう、恐れおののくのはおれではない。きさまのほうだッ!



 田中太郎。

 きさまが光の勇者ならおれは光を捨てて闇の王になろう。



 魔王を越える驚異として、きさまの前に立ち塞がろうじゃないか!!!

定期的に闇落ちする主人公

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