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勇者

 あ~~~よく寝た。



 快眠から目覚めたおれは、大きくひとつ伸びをした。



 昨晩の電気イスは最高だったな。

 全身に高圧電流が流れるとあっという間に気絶しちゃったからな。

 おかげで最高に深い眠りにつけたよ。

 一歩間違えば永眠するところだったかもな。



 だがおかげで田中の夢を見ることはなかった。

 クソガキもクソガキなりに少しは役に立つこともあるわけだ。



 しかし……今日はやけに外が騒がしいな。



 何かあったのだろうか。

 おれはお屋敷の仕事にはノータッチだからなあ。

 ちょっとシノさんに聞いてみよう。



「話しかけないでもらえますか?」



 相変わらずつれないなあ。

 でもそんなところも彼女のチャームポイントさ。



 シノさんがそういう態度をとるのはわかりきっていた話。

 何度冷たくあしらわれようとしつこく聞き続ける。



 五回聞いたあたりでとうとう折れて、おれに理由を教えてくれた。



「東方の魔族討伐を終えた勇者さまが今日、凱旋してくるんですよ。だから国民総出で出迎えようと準備している最中です」



 勇者?


 ああ、そんなそんな奴が今、マイラルにいるってマリガンさんがいってたね。

 それさ、本当に本物なの?



「首筋に神の紋章が出ているから間違いないそうです。国軍が長らく手こずっていた魔族の拠点も瞬く間に制圧したそうですし、実力的にも文句なく光の勇者です」



 ほへぇ~すげえ奴もいたもんだ。

 てっきり偽物かと思っていたが、そいつぁ確かに勇者かもしれねえな。



 まあ、誰が勇者でも別にいいよ。

 ずいぶん前から、その辺はどうでもいいポイントになってたし。

 勇者じゃなくてもおれが偉大な英傑であることには変わらないしな。



「本日は勇者さまを屋敷に招いてパーティを開く予定なので、奴隷のあなたは部屋から一歩も出ないようお願いします。見苦しいので」



 おうおう、いってくれるねえ。

 その通りだけどな。



 シノさんがいうには、当時無名だった勇者に武器と防具をタダでくれてやったのがマリガンさんらしい。

 お人好しなマリガンさんらしい、いいエピソードだ。



 でもおかげで勇者とコネができておいしいんだとさ。

 そのコネをより強固にするために屋敷に呼ぶとかなんとか。

 損して得とれとはまさにこのこと。

 マリガンさんは商才あるよな。おれも見習いたい。



「ではそろそろ私たちは出かけますので、あなたは留守番していてください」



 え、マジかよ!

 おれも勇者の姿を拝みたいぞ!

 国民総出で出迎えるんだろ?

 おれだけシカトじゃ勇者さまに失礼だろ!



 ……といった感じで説得すると、シノさんは渋々ながら応じてくれた。



 この女性、メイドとしては新参らしいけど、なぜか権限が強いから扱いが難しいわ。





 ――――てなわけで、やってまいりましたマイラル大通り。



 ただでさえ多い人通りが、今回はさらにごった返してやがる。

 いいねいいねえ、活気があるのはいいことだよぉ。


 勇者さまがどんな面をしているのか、今からおれもワクワクしてきたわ。



 ちなみにマリガンさんはこの絶好の機会を利用して、大通りに出店して商売に勤しんでいるからここにはいない。

 知ってたけど、マジで商人の鑑だわ。

 いよ、マイラル一の大商人!



「そろそろここを通りますが、くれぐれも失礼のないようお願いしますよ」



 シノさんがおれに念を押すが、ただ遠目から観るだけなのに、何をどう失礼しろというのか。

 おれが勇者の視界に入るだけで失礼ってか?

 バカにすんのもいいかげんにして欲しいもんだ。



「勇者さま!」



 大きな歓声があがった。

 大通りがひときわ大きくざわめく。



 魔族討伐を終えた勇者が、とうとう凱旋してきたようだ。



「勇者さま!」


「勇者さま!」



 ……人が多くて見えねえぞ。



 いや、焦るな焦るな。

 もう少ししたら見える位置に来るはず。



「勇者さま!」


「勇者さま!」


「勇者さま!」



 それにしても勇者勇者とうるさいなあ。

 気持ちはわかるが耳元でわめかれるとさすがにムカっとする。



「勇者タナカさま!」



 ……。



「タナカさま!」


「勇者タナカさまのご帰還だ!!」



 …………はっ?



 今、こいつら田中っていったか?



 いや、勘違いしちゃいかん。

 たぶん「タナカ」という単語がこの国にはあるんだろう。

 おれはまだマイラル語に疎いからな、勉強不足だ。



 とはいえ単語を聞いただけで一瞬、田中の顔がフラッシュバックしてしまった。

 いかんいかん、あんな夢を見たからってちょっと神経質になっているな。

 おれらしくもない。



 そんな妄想も、勇者さまのご尊顔を見ればすぐに消し飛ぶはずだ。

 この国の窮地を幾度も救った英雄だ。

 さぞかし精悍な顔つきをしているだろうからな。



 馬の蹄の音が聞こえてきた。

 そろそろこの近くを通るぞ。


 さあ、その姿をおれに見せてくれ!





「……」



 勇者の勇姿を見たおれの感想は「思ってたよりは美形ではないな」だった。



 決して不細工ではないが、十人いれば九人ぐらいはおれのほうが美形だというだろう。

 そのぐらい凡庸な外見をしていた。



 太い眉毛とへの字に曲げた口もとから武人の無骨さを感じる。

 中肉中背だが、服の上からでも引き締まった筋肉がよくわかる。

 軽装な鎧と腰に携えた剣がよく似合っていた。



 顔は十人並みだが、勇者といわれれば納得できる雰囲気を纏っていた。

 おおむね好感の持てる外見だ。



 ただ、馬にはあまり乗り慣れていないみたいだな。

 ロビンのほうがよほど板についていた。

 でもそんなちょっと田舎モノっぽいところもけっこう好印象だ。



 まあ、こんなものかなって感じ。

 いいんじゃない。おれほどじゃないけど、そこそこイケてると思うよ。見に来て良かったわ。

 東の魔族の拠点を潰したらしいから、その調子で魔王も討伐しちゃってね。がんばって、おれ応援しちゃうから。





















 な ど と い う と で も 思 っ た か ! ! ?




















 たとえどれほど外見が変わろうとも、


 たとえこの世界のだれが気づかなかろうとも、


 おれにはわかる!


 わかってしまう!!



 おまえは田中だ!!! 田中太郎だっ!!!!




 緊張すると眉毛をつり上げ口を曲げ、肩をいからせるその癖!

 瞳の奥底に見え隠れする人に対する怯え!!

 そして何より夢にまで見るこのおれの直感が!!!



 おまえが田中太郎だといっている!!!!



 来たのか田中ァ! きさまもエルメドラにぃ!



 そして勇者となっておれの前に再び立ちはだかるのか!!





 あの夢は『お告げ』だったんだッ!


 奴への怒りを決して忘れるなという神託だッ!!





 きさまがまたおれの前に立つというのなら、


 おれはきさまにまた地獄を見せてやろう。



 ――――何度でもだッ!!!!

宿敵との再会

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