悪夢
相変わらずだっせぇ学校だなぁ。
おれは愛しの母校の前で大きなため息をつく。
あれだけ献金してやって、改装しまくった挙げ句がこれだもんな。
カネじゃセンスは買えないってことなのかね?
やれやれ、どっかにいいデザイナーはいないものかねえ。
嘆いてもしゃーないか。
ここにゃあと二年もいないわけだしな。
多少のだささはこの際、目をつぶるとしますかね。
さて……今日もリア充な一日を送るとすっか。
おれが黒塗りのベンツから降りると、おれの到着を待っていた友だちたちが群がってきた。
「柾さま、きょうもお声をおかけしていただきありがとうございます」
「柾さま、きょうもご機嫌麗しく何よりでございます」
「柾さま、きょうも変わらずお美しい。私、見ほれてしまいます」
いつも通り、友だちたちがおれを賛美する。
おれは世界一のリア充だから、友だちから賛辞されて当然なのだ。
いつも通りすぎてちょっと飽きてきたけどな。
おれは友だちたちと一緒に教室へと入って周囲を見渡す。
1、2、3、4……8人か。おれの出迎えに来なかったのは。
別にどうでもいいけどね。
おれはじっちゃんとは違う。出迎えに来ないからって懲罰なんぞ与える気はさらさらない。
そんなことをしても無意味だしな。
取り巻きのこいつらだって別に出迎えろなんていってない。
自主的にやってくれてるだけだ。『友だち』だっつうんでな。
まあ当然だろう。友だちなんだから。
ただ、リア王としてはいつかはクラス全員と友だちになりたいものだ。
そのためには、もっともっと柾家の権威ってやつを見せつけていかないとな。
自然に頭を垂れたくなるぐらいに。
あくまに自然にな。
……ああ、いった。
出迎えにこなくてもいいと今、確かにいったよ。
でもな……おれが教室に入ってきたのに完全にシカトされるのは正直、いい気分がしないわけよ。
あいさつしろとまではいわない。
こっちを向くだけでいい。
まるでおれが存在していないかのように振る舞われるのは不愉快なわけよ。
そう、教室の隅っこにいるあのグループ。
ぶくぶくと肥え太ったあの醜男を中心としたキモオタ集団だ。
こいつらはおれをそっちのけでアニメやゲームの話ばっかりしてやがる。
おれだって年頃の高校生だからな。人並みには観たりやったりはしてるよ?
でもな、しょせんは空想の世界に、そこまでハマれるものなのか?
現実をそっちのけで?
おれが――王がここにいるのに?
おれを無視したら、どうなるかわからないのか?
正気なのかこいつら?
「もちろん正気だよ」
――――ッ!!!
は……話しかけてきた!
ろくに目すら合わせようとしないアイツが、
おれのほうに向き直り、
そのねっとりとしたいやらしい視線で、
おれの全身をなめ回すように犯ている!
「僕は君を無視しているのは、君がこの世界に存在していないからだ」
な……なんだ、とぉ……ッ!
おれは、おれはリア王だぞ!? この世界の中心!! 世界そのものなんだ!!!
「だって君は空っぽじゃないか。僕は面白いものにしか興味がないんだよ」
や、やめろ!
「断言したっていい。君ほどつまらない人間はこの世にいないよ。その存在感は二次元のキャラクターにすら劣る」
それ以上の無礼を口にすることは許さん!
ぜったいに許さんぞ!!
「名前も覚えていない取り巻きを囲って王さまごっこ。君が本当にやりたかったことはそんなことかい?」
た、
「君は親の跡を継ぎたいのかい?
この世界の王になりたいのかい?
違うよねえ。なのに、なんでそんなことをやってるのかな?
自分の人生が最高に充実してるなんてうそぶいてまでさ」
た、たたたたたたた、
「リア王? 笑わせてくれる。君は親のいうとおりに生きているだけの人形だよ」
田中アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
おれは無限の怒りに突き動かされベッドから飛び起きた。
「……夢か」
くそ!
くそ! くそ!
くそ! くそ! くそ! くそ!
またしてもあの夢!
異世界に来てからは一度も見てなかったのに何故!
ここのところリリスお嬢さまのお遊びが手ぬるいせいか?
心にゆとりが出てきたせいか?
だから田中が現れるようになったのか?
ふざけるなあッ!
おれはリア王! リア王なんだ!
断じて、
断じて、断じて、『ごっこ』などではない!
王そのものなのだッ!!
おれがこの世界で一番充実した人生を送っているんだっ!!
きさまごときキモオタが偉そうな口を叩くんじゃあないぞ!!
ちくしょう……異世界でも、このおれの前に立ち塞がるか田中ぁ……ッ!!!
なぜだ! なぜだ! なぜ、なぜ、なぜ、なぜ!!?
……いや、忘れよう。
あれは夢。あれはただの夢なんだ。
田中はあんなこといってない、根も葉もない空想の産物だ。
そもそも向こうの世界のことはすでに過去の話だ。
おれが生きるべきは現在。
この世界なんだよ。
よし、ちょっとリリスさまのところにいって拷問を受けてこよう。
痛みと屈辱を与えられれば少しは気も紛れるだろう。
嫌な夢は、それ以上の嫌な思いで上書きしてやればいいんだ。
それで忘れられるモノなら安いもんさ。
言葉にはせずともその態度はリョウの心を深く傷つけていた




