家庭教師
お嬢さまの処分について一晩じっくり考えた結果、とりあえず問題は後回しにして、まずは魔法を覚えようという結論に至った。
やっぱ魔法は覚えたいじゃん?
そのために異世界にいるわけだしね?
まずは、何の魔法を覚えようか。
考えるまでもないな。
回復魔法だ。
こんな難儀な仕事をしてるとケガが絶えないしね。
だったらやめろっていわれればそれまでなんだけど、やめたところで行くアテもないんだよなあ。
どうもこのマイラル、ゴルドバとは使っている言語が違うみたいなんだよなあ。
マリガンさんはゴルドバ語ペラペラだからまったく気づかんかったわ。
今のおれじゃ、ここを脱走したところで何もできやしない。
まっ、覚悟はしていたことだけどな。
またゼロから始めると決めたんだ。
言葉だってゼロから覚え直せばいいだけの話。
幸いマリガンさんは優しい人だ。おれがリリスお嬢さまと会話するために言葉を覚えたいといったら家庭教師をポンっとつけてくれたよ。
ていうか今、そこにいるんだけどな。
紹介しよう。メイドのシノさんだ。
年齢はよくわからんけど、たぶんおれより少し年上かな。
三つ編みとまるぶち眼鏡が特徴的な、ちょいときつめのお姉さんだ。
髪や肌の色がおれと似ていて近親感を感じる。
マリガンさんやリリスお嬢さま、他の執事やメイドもみんなまっ白な肌をしてるし、もしかしたらこの国の人間じゃないのかもしれない。
決して美人ではないけど、実はわりと好みだ。
そんないったらきっとぶん殴られるだろうけど、いわなくてもテストの出来が悪いとひっぱたかれるんだよなあ。
ちなみに彼女は魔法が使えて、おれも何度かお世話になっている。
ていうかリリスお嬢さまに拷問にかけられるたびにお世話になっている。
なぜならこの屋敷で唯一の回復魔法の使い手だから。
ちなみにおれは、この女性に回復魔法を教えてくれと頼み込んだことがある。
言葉を教えてくれるついでにさ。
でも、けんもほろろに断られた。
前もいったけど、なぜかおれは屋敷のメイドたちに嫌われているのだ。
いや、ホントなんでなのかね?
そりゃおれは奴隷だよ? 自分でいうのもなんだが卑しい身分だよ。
でもさ、そんなに嫌わなくてもいいじゃん。
おれ、おまえらになんかやったか?
つーわけで再チャレンジだ。
「他を当たってください」
ちっ、やっぱりダメだったか。
なんでさ、マイラル語についてはちゃんと教えてくれるのに。
「仕事ですから。それ以外であなたに関わることはありません」
つれないなあ。
でもそんなクールなあなたがちょっと好きさ。
「それより、早く現地の言葉を覚えてください。あなたと同じ空気を吸っているだけでも気が滅入ってきます」
う~ん、嫌われたものだなあ。
まっ、いっか。
時間はあるんだ。ゆっくり仲良くなっていこう。
これでも女性経験は豊富なんでね。いつかおれの魅力で落としてやるよ。
こういうのを『攻略』っていうのかな?
日本にいたときにゃ無縁のものだったからちょっぴりワクワクするな。
イリーシャのときはちょっとやらかしてしまったが……なに、今度はうまくやるさ。
人生日々勉強




