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リリスお嬢さま

 マリガンさんのお屋敷は目もくらむような豪邸だった。



 ふあああああああ、なんだこの華麗で豪勢な庭園はぁぁぁっ!



 広さだけならうちの庭とどっこいどっこいだが美しさが段違いだ。

 こりゃ庭師のセンスの差だな。異世界の連中は美的センスも素晴らしいね。

 やっぱ日本人の感性はダサいわ。



 おれたちが到着すると、邸内中の執事やメイドが総出で出迎えてくれた。

 マリガンさんはわざわざ馬車から降りると、彼ら一人一人にねぎらいの言葉をかける。



 なんだなんだ、同じ金持ちなのにこの態度の違いは。

 うちのじっちゃんとか同じことやらせても目もくれずに素通りするぞ。

 そのくせ出迎えに遅れた奴は厳罰に処してるんだからわけわからん。


 どうでもいいのかどうでもよくないのか……いや、それこそどうでもいい話か。おれはもう、あのひとたちとは縁を切ったわけだからな。





 マリガンさんに促されてご立派な邸宅の中に恐縮しながら入らせてもらう。



 エルメドラの文化レベルは中世ヨーロッパレベル。

 だから、どっちかといえば現代日本の邸宅のほうが優れているはずなのだが……なぜかそうは思えないんだよなあ。



 ああ、すっげえ緊張するなあ。

 なんか小市民になった気分だなあ。

 まあ今は小市民未満の身分なんだが。



 美しい庭園を抜けて、ピッカピカに磨かれた大理石を敷いた廊下を進んでいく。



 今日はおれに会わせたい人物がいるらしい。

 というかおれを買った理由は、その人物の世話をさせるためらしい。



 実はここのところがよくわからん。



 見たところ執事もメイドもわんさかいる。

 なのに、こんな学も見識もない奴隷にわざわざ世話役を任せる必要ってあるのか?

 しかもけっこうな高待遇で。



 マリガンさんのことは尊敬も信頼もしてるけど、この辺りがどうにも腑に落ちなくて、ちょっと気味の悪いものを感じているのだ。



 ……まあいっか。



 きっとイケメン趣味でもあるんだろう。

 マリガンさんか、それともおれの主人になる人か、どっちの趣向かはしらんがね。

 ホモいのは勘弁な。おれはノンケなんでね。

 でもマリガンさんが相手ならちょっとぐらいは我慢しよう。



 奥にあるだだっ広い応接間に通されると、そこで待つよう言いつけられた。

 今からおれの主人になる奴を呼んでくるとのことだ。



 聞けばマリガンさんの一人娘とのことだが、あのひとの娘なら期待できそうだ。

 さすがに恩人の娘に手は出せないけどな!



 しばらく暇を持て余していると、マリガンさんが娘を連れて戻ってきた。



「一人娘のリリスだ。よろしく頼む」



 フリルのついたゴシック風な服を着た可憐な少女だった。


 歳は十台前半ってところかな。

 長いまつ毛とまっ白な肌。おれの半分ぐらいしかない身長から、まるでフランス人形のような印象を受ける。



 ふむふむ……美人だ。

 期待通りの美人だ。それは間違いない。



 だが残念ながらガキぎる。おれの守備範囲外だ。

 いやいや、どのみち手は出せないんだからぜんぜん残念ではないか。むしろ良かったじゃないか。

 ま、十年後に期待ってやつかな。



 しかしガキのお守りかぁ……そんなもん、生まれてこのかた一度たりともしたことがないぞ。

 世話されたことしかないこのおれに務まるかなあ。

 まあ任された以上はやるしかねえか。人間やってやれないことはねえさ。



「セ……セイラム!」



 おれが愛想笑いを浮かべながらあいさつすると、リリスは花のような笑みを浮かべた。



 人形みたいだといったが、なかなかどうして愛嬌があるじゃねえか。

 この調子なら仲良くやっていけそうだな。



 リリスはしばらくおれを観察すると、ふたたび満面の笑みを浮かべた。

 そしておれの手を取って突然走り出したのだ。



 なんだ、一緒に遊ぼうっていうのかい?

 いいぜ。ガキのママゴトなんてタカが知れてるだろうけど、いくらでもつきあってやるさ。

 この程度の仕事で養ってもらえるなんて、おれはなんてラッキーマンなんだろう。







 おれが連れていかれたのはマリガン邸の地下にある薄暗い部屋だった。



 そこにある高さ2メートルほどの大きさの、中が空洞になっている鋼鉄製の人形の中に、今おれは放り込まれたわけだが……。



 ちなみにこの人形、開閉式になっていて、前の扉には刺さると痛そうな鋭いトゲトゲがたくさんついている。

 この扉をドン! と閉めると、中に入っている人間がグサグサァ! っと串刺しになるって寸法だ。



 おれ、知ってるよ。

 これは『アイアンメイデン』っていう名前の拷問器具なんだ。


 昔むかし、処女の血を浴びると若返ると信じた偉い人が、女の血を搾り取るために造ったとかなんとか。


 なんでおれはそんな拷問器具の中に入れられてるんだろうな。



 まさか、おれを拷問にかけようっていうんじゃないよね?



「おおおお、お嬢様! じょ、冗談! ご冗談ですよね!?」



 おれが尋ねると、リリスは天使のような笑顔で、





「■■■■■■■■■■■■■■■」





 何いってのかわかんねぇ――――――――よッ!!!!



 お、おい! その扉を閉めるんじゃねえ!!

 死ぬ!! マジ死ぬって!! ガキの遊びにしちゃ過激すぎんだろぉ!!


 バカやめろ! それやったら冗談じゃ済まねえぞ!!

 恩人の娘だからって容赦しねえぞ!

 ころす! ぜってーころす!



 だからやめろ! いや、やめてくださいリリスさま!!



 ちょちょちょちょちょちょっ! ちょっとタンマ! タンマタンマ!

 おれが悪かった悪かったからそれ以上はやめ、






 ぎにぃやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

鉄の処女、アイアンメイデンは空想上の拷問器具を再現したものらしいです

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