その名はイドグレス
ベルサークにはレーリオから馬車で半日ぐらい走ったところにあった。
えっ、ベルサークってなんだって?
町の名前だってことぐらいはなんとなくわかんだろ!
……いや、失言だった。忘れてくれ。
ベルサークについて説明するには、まずこのエルメドラの世界情勢について説明せねばなるまい。
まず最初に、ここマイラル大陸には国と呼べるモノはひとつしかない。
なぜなら300年前、一人のすげえ王さまの手により大陸が統一されてしまったからだ。
国の名は『マイラル』。
国王の名は商王『マイラル・トツカ・ベルサーク』。
そう大陸統一をした暁に、国と大陸にてめえの名をつけてしまったんだ。
色々ととんでもない王さまだが……なんと、こんなとんでもない偉業を打ち立てて、国と大陸に自分の名前を付けた自己顕示欲の塊みたいな王さまがあと三人もいたのだ。
すなわち――
オーネリアス大陸の蛮王『オーネリアス・コープス』。
リグネイア大陸の賢王『リグネイア・トツカ・カロナール』。
イドグレス大陸の魔王『イドグレス・レギン』。
――の三名だ。
こいつらにゴルドバ大陸の戦王『ウォーレン・ウォースバイト』を加えて計五人を、俗に大陸の覇者 <五王> と呼ぶそうな。
戦王ウォーレンだけは『土地は神のもの』ということで大陸に自分の名前をつけなかったらしいけど、ここまで来たら統一しろよ。
まあ、そんな自己顕示欲の塊みてえな奴らだから、昔は互いに互いの大陸を奪おうと侵略行為に躍起になっていたらしい。
特に隣国同士であるマイラルとウォーレンはそれが顕著だったそうな。
じゃあなんで今は貿易なんぞやっているのかというと、すでに和平条約を結んで停戦しているそうだ。
停戦の理由は――まっ、ありきたりだが共通の敵ができたからだ。
両国は「イドグレスの魔王イドグレス・レギンの力が、国家間の損益を越えて人類の驚異レベルに到達しつつあるため、共に手を取り合ってこれを排除する」といった趣旨の声明を出しているとのこと。
これが事実なら魔王の実力は仲の悪い国が仲直りするほど強力ってことになるな。
おれの想像よりはちっとばっかし弱いがじゅーぶんじゅーぶん。
……あれ? 何の話を話してたっけ?
あ、そうそう。ベルサークの話だわ。
つまりベルサークっていうのはマイラル大陸にあるマイラル国の首都なんだわ。
国王の名前が国名で苗字が首都の名。
これがエルメドラにある五つの大陸すべてに適用されている。
わかりやすくていいなって話だ。
よし、話が戻ってきたな。
ちなみにここまでの話はすべて、馬車の中で退屈していたマリガンさんがおれに懇切丁寧に教えてくれた。
さすがは世界を股にかける大商人。博識だし奴隷に対する偏見もない。
こんな人に買われておれは幸せ者だなあ。
そんなマリガンさんのご自宅が、ここベルサークにあるのだ。
大きな城壁が見えてきた。
どうやらマイラルの首都、城塞都市ベルサークに到着したようだ。
門前でマリガンさんが衛兵の厳しい検閲を受ける。
隣国とはすでに停戦しているにも関わらずベルサークの検閲が厳しいのは、人に化けた魔族の侵入を防ぐためだという。
マリガンさんがいうには魔王イドグレスの魔力の高まりに呼応して、魔族たちの力も上昇し、その活動が活性化しているとのことだ。
そういやおれたちの乗っていた馬車も護衛つきだったな。
一見平和そうに見えるマイラル大陸も大変なのねえ。
ちなみにゴルドバ大陸にはスナザメというとんでもない生物がわんさかいるため魔族はほとんど生息していないそうだ。
さすがはザメニキ! ゴルドバの守護神! 頼りになるぜ!
スナザメ自体が魔物みたいなものだけどな。
そんなことを考えているうちに検閲をパスしたおれたちの馬車は、市中をガンガン進んでいった。
うへぇ、レーリオも発展してるなあと思ってたけどここはそれ以上だなあ。
通行路の左右に商店がずらりと並んでいて買い物客でごった返してやがる。
四方を城壁で囲んだ閉鎖的な環境だから、もうちっとばっかし暗い感じかと思ったがぜんぜんそんな感じがしねえわ。
まあ、多少検閲が厳しいとはいえ手形さえあれば出入り自由なんだからそんな閉鎖的な環境でもないってか。
あー、そういやちょうど今ここには、ウソかマコトか勇者を名乗る若者が来てるんだっけか?
それで市内が盛り上がっているのかも。
勇者はここにいるわけだからウソなのは確定だが、おれの代わりに勇者をやってくれるっていうんなら譲ってやってもいいぜ。
魔王、名前だけ登場




