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広がる世界

 おれを買ったこのおっさん、名をマリガンというそうな。



 奴隷のおれにも丁寧に名を名乗るとはなかなか人徳のある御仁だ。

 奴隷を買っている時点で人徳もクソもねえとかいうのはこの際なしにしよう。

 日本の常識で異世界人を評価するのは間違っていると思うしな。



 返礼としておれも名乗ったが変な名前だと笑われた。

 どうやら異世界ではおれのイケネームは通用しないらしい。



 マリガンさんはこのゴルドバ大陸のはるか西方にあるマイラル大陸出身の商人らしい。

 今回は一人娘へのプレゼントとしておれを買ったそうだ。


 このひとの趣味がアレなのか、それとも娘の誕生日に奴隷を贈るのがこの世界の常識なのか。


 何はともあれ、そのような事情なので、今すぐここを出立してマイラル大陸にある我が家に戻るとのことだった。



 君にはつらい思いをさせるかもしれないが、できる限りのことはさせてもらうとマリガンさんはいう。

 待遇はまだ決めていないが、奴隷としては破格の条件を出すとのことだった。

 ホントだったらマジでいい人だ。聖人かよ。



 もちろんおれは二つ返事で承諾した。

 つってもおれに選択権なんてねーんだけどな。







 ――――てなわけでおれは今、海上にいるわけだ。



 異世界の海のすげーのなんのって、何しろ空と同じく黄緑色してるのよ。

 いや、黄緑とかいうと気持ち悪い色をしていると誤解されそうだな。

 エメラルドグリーンといい直そうではないか。



 陽光を浴びて輝くエメラルドグリーンの大海原――――実に美しい!



 この感動を誰かに伝えたいのでおまえらに伝えてやる。



 なに、色は違うが地球にも海はある?



 うるせぇバカ、色が違うことに価値があるのよ。

 まあ地球にも似たような色の海はありそうなもんだが気にするな。おれは気にしない。



 なんかあれだな。

 おれって日本にいたときに景色とかぜんぜん気にしなかったよな。

 つうか何見たって美しいなんて思ったことねえわ。



 なんでだろうね?



 ちょっと考えてみたけど、心境の変化っていうのがあるのかな。

 向こうにはアホみたいにたくさんの娯楽があったから、外の景色に心を傾ける余裕がなかったのかもしれん。



 おれはこっちに来てから労働以外はなんもやることがなくて、天井のシミの数とかずっと数えてたもんな。初夜の女かよって感じ。



 でもおれは、海を美しいと思える今の自分が好きだし、そういう経験をさせてくれたこの世界のことも嫌いじゃないぜ。

 いや、むしろ愛しているといっていいな。もちろん変な意味じゃなくて。



 ……にしてもマリガンさん。ホントに待遇破格すぎんだろ。



 てっきり簀巻きにでもされて船の倉庫に放り込まれるばっかり思ってたが、手枷を外して完全に自由にしてもらったうえに小綺麗な服まで用意してもらえるとは。



 おまけに快適な船旅のためにと個室まで用意してもらって……あまりに待遇がよすぎて逆に不安になってくるわ!

 体の一部を何かで拘束されてないとどうにも落ち着かないんだよ!



 ま……まあ、優遇されてることに越したことはないか。



 それだけ自由度があがるってことだからな。

 もしかしたら念願の魔法の勉強もできるかもしれないし。



 それに新たな知識を得て世界が広がるのもいいね。

 優しいマリガンさんから色々教えてもらったけど、この異世界――『エルメドラ』には、ざっと数えて五つの大陸が存在している。





 創造神ゴルドバを主神と崇めるゴルドバ大陸。


 商業の盛んなマイラル大陸。


 古代の自然が残る未開の地、オーネリアス大陸。


 魔法発祥の地、リグネイア大陸。



 そして――魔族に支配されし暗黒の大地。悪名高きイドグレス大陸。





 やはりいるのか……魔族も、そして魔王も。





 そらいるよな。

 異世界なんだもの。

 魔王の一人や二人は普通にいる。


 おれが召喚された理由は、たぶんそいつとやりあうためだろうしな。



 すべては選ばれし勇者であるこのおれさまに任せとけ!



 ……といいたいところだが、正直乗り気がしない。



 だっておれ今、自分のことだけで精一杯だし。



 だがそういう存在が、この世界のどこかにいるっていう事実だけでワクワクさせられるものがある。

 魔王軍と戦うかどうかはともかく、いつかは会ってみたいものだ。



 きっと強いんだろうなあ。

 でもどうせおれでもどうにかなる程度なんだろうなあ。

 勇者が魔王に勝てなかったらクソゲーだもんなあ。ユーザーから苦情が来ちゃうよ。



 つねづね思うんだが……いくら勇者ご一行とはいえ、わずか数名の人間に負ける魔王って実はたいした驚異じゃなくね?



 いやいや、わかってるよ。

 本当に怖いのは『魔王』じゃなくて『魔王軍』だってことぐらい。

 頭を潰せば指揮系統は崩壊するし、少数精鋭で暗殺するのが効果的だってことも。



 でもおれとしてはだよ、もっとこう……人類ごときじゃどうにもできないぐらいのすんげえ魔王がいてもいいと思うんだよね。

 圧倒的な魔力で魔族すべてを束ねているわけだからさ。



 いや、もしそんな怪物がいたら人間が滅んじゃうから困るんだけどさ。



 だから、その、あれよ。

 ちょっとした好奇心。

 怖いもの見たさってやつ?


 台風が来ると危険だとわかってても外に出たくなるだろ?

 それといっしょ。



 この世界の魔王は、いったいどのぐらいのレベルなのかなあ。

 できれば強く悪くあって欲しいなあ。

 こんな風に思うのは、きっとおれだけなんだろうけど。



 潮風にあたりながら、おれはそんなしょーもないことを考えるのだった。

五つの大陸をまたにかける大冒険


になったらいいなあ

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