奴隷市場
おれは今、薄暗い通路を歩かされている。
手かせはもちろん足には鉄球をつけられ、さらには首輪付きだ。
念の入ったことで結構ケッコウコケコッコー。
前の職場より念入りだな。
さすがは人売りのプロフェッショナルといったところか。
今さらの話かもしれんが、おれはこいつらを否定する気はまるでない。
市場にはさまざまなモノが溢れている。食料や雑貨や家電……はさすがにここにはないか。
まあ、そういったモノのひとつに人があるのはまるでおかしいことではない。
命令をきっちり聞いてくれるならこれ以上ない高性能ロボットだからな。
維持費はわりとかかるけどモノホンのロボットを開発するよりはるかに格安だろう。
いや、こっちの世界なら魔法でロボット同然の人形とか簡単に作れるんじゃね?
でもそういうのはまだ見たことがないなあ。
そんなもんが作れるなら奴隷なんて不要だしやっぱり無理なのかな。
ただ……もし作れるとしたら、おれはそっち方面の仕事をやりたいがね。人売りなんてクリエイティブのクの字もねえし日本でもさんざん見てきたしな。
ちなみに日本では人売りのことを『派遣』という。
元手要らずのなかなか美味しい仕事だ。どうだ、勉強になるだろ?
おっと、そうこうしているうちに目的地についたようだ。
まばゆいライトに照らし出された壇上に、おれたちは一列に並べられる。
足下にはいかにも金を持っていそうなおっさんおばさんがわんさかいやがる。
いいねいいねえ、人売りっていうのはそうでなくっちゃ。
こういう金は持っているが老い先の短い連中に好き勝手されるのが奴隷の人生ってもんだ。
だが仮面で顔を隠している奴がいるのだけは気に食わねえ。
おめえら人を買いに来たんだろ?
人権なんぞ無視してよ?
なんだい? もしかして悪いことでもしてると思ってんのかい?
なにそのクソみたいな良心?
いや良心じゃねえか。
周囲に自分が悪く思われたくないっていう自己防衛本能か。
クソだせぇ。
だったら最初からこんな場所に来んなボケ!
人が人を買って何が悪い?
買うなら買うで堂々とその面さらしてこいや!
あー嫌だねえ。肝の据わってねえ連中は。
おれなら面どころか名前も住所もさらして堂々と買うけどな。
もちろん若い女限定でな。
おれと同じような考えの奴はやはり多いらしく、女の奴隷の売れ行きはやはりいいな。
けっこー年を食ってるのでさえ女ってだけでガンガン売れていく。
この世界の金銭価値とかよくわかんねえけど、たぶんかなりの高額で。
ボロい商売だなあ。
そら日本でも派遣会社も派遣制度もなくならねえわ。
売られる側も存分に搾取されてさぞ気持ちよくなってることだろう。
ふと思ったが、売れなかった場合はどうなるんだ?
殺処分か?
いや、そんなもったいねえことはしねえか。
大方どっかの炭坑にでも飛ばされて強制労働ってところか。
おれはそっちのほうがいいな。
でもまあ、おれほどのイケメンになると売れないなんてことはありえんか。
ほらさっそくだ。
おれの名前がコールされると50000ルピという声があがった。
50000ルピって日本円だとどのぐらいの価値なんだろうか。
よくわからんが、さっきの年増女より安い落札額なのはなんか気にくわない。
もっと高値をつけろやボケナス。
見ろよこのおれの甘いマスクを。鍛え抜かれた筋肉を。
そして何よりこの生気に満ちあふれた強い眼差しを。
どうみたってサラブレッドだ。実際サラブレッドだ。
さっきから70000だの80000だのジリジリと上がっているが、セコい駆け引きなんかせずにもっとガァーッと上げろよ。ガァーッとな。
「500000ルピ!」
ようやくまともな値がついたか。
最低落札額の50倍。最初についた落札額の10倍か。
少し物足りないが、まあまあってところかな。
見たところ顔も隠していないようだしな。
ふむふむ……壮年ながら、なかなかいい面構えをしているじゃないか。ちょっとうちのパパに似ているな。
よし、気に入った!
てめえのところに厄介になってやるよ!
世界一尊大な奴隷




