俺の親友
手かせを外され放り込まれた先は、またもや牢獄だった。
ここはどこだろうね?
奴隷市場かな?
まっ、どこだろうとどうでもいいが。
どのみちこの世界に知ってる場所なんてない。
牢内には、おそらくおれと同じ境遇で、これからどこかに売られていく予定の奴隷がゴロゴロいた。
今度はさすがに独房などというVIP扱いはされないようだ。
いや~落ちるところまで落ちたと思ったけど、下には下があるもんだなあ。
しかしまあ、どいつもこいつも精気のない顔をしてやがる。シャキッとしろシャキッと。
無理か、このゴミどもめ。
王だろうと農民だろうと貴族だろうと奴隷だろうと聖職だろうと盗賊だろうと賢者だろうとバカだろうと男だろうと女だろうと勇者だろうと魔王だろうと、現在を生きる活力を感じない奴。つまりバイタリティのない奴は漏れなくゴミなんだよ。
逆にいやぁそれさえあればみんな平等だ。
どこまで下に落っこちようがな。
立場なんて関係ねえんだよ。
わかったなら顔をあげて前を向けこのゴミどもが。
あーいやだねえ。こいつらがどんな面してようがおれには関係ねーけど、見てるこっちまで気が滅入ってくるわ。
もうちっとマシな奴はいないもんかねえ。
……いたわ。
牢の端っこのほうで黙々と腕立て伏せしてる大バカ野郎が一人。
だが面白そうな野郎でもあるな。
つーことでさっそく声をかけてみる。
「失せろ。オレは今忙しいんだ」
この娯楽のいっさいない牢屋の中で忙しいときたもんだ。
ますます気に入ったわ。
年齢はおれと同年代ぐらいかな?
身長は比較的低いが体格はガッチリしている。
筋肉のつきかたが普通じゃない。特殊な訓練でもやってるのだろうか。
そして何よりこちらをにらみつけてくるその鋭い眼がいい。
何者にも頼らない一匹狼のそれだ。
よし決めた。こいつをおれの友だちにしてやろう。
「断る」
即答だった。
まあ想定内の反応だ。
こういう奴は口で何をいっても無駄だ。
拳でわからせないとな。
つーことで、さっそくおれさまはそこの鷲みたい眼をした生意気な少年をぶん殴ってみた。
これでもおれさま、中学時代は番長やってたんだよね。
いや、暴力は嫌いだよ? 嫌いだけど、やらなきゃナメられることってあるよね?
とくに不良なんて呼ばれる輩にはさ。
連中は社会の歯車にはならねえとかご大層なことをぬかしてるが、自分よりつええ奴のいうことはホイホイ聞くんだ。
なんてこたぁない。不良には不良の社会があるってだけの話だ。通貨が暴力に変わっただけのな。
結局、社長のいうことを聞くか番長のいうことを聞くかの違いぐらいしかねえのに、こいつらはいつもリーマンを見下している。
いわゆる同族嫌悪ってやつだ。哀れなもんさ。
この少年も間違いなく不良と同類だね。
狼だって群れは作るんだ。こいつにも一匹では生きていけないことをわからせてやればいい。
その辺の不良どもと違って何かやってるみたいだが、まあおれには及ばんだろうしな。
さあ、独学でシコシコやってる奴隷風情に教えてやろうじゃないか。本物の空手ってやつをふごぉ――っ!
調子こいて棒立ちしてたら鳩尾にきつい一発を入れられた。
拳がすげえ重い! ちょっと甘く見すぎていたか!?
いやいや、これでもおれは全日本中学空手大会三年連続優勝者だぞ?
高校ではやってないからちょっとブランクがあるけど、それでもこんな素人に毛の生えたようなやつに負けるわけにはいかんだろ!
一発殴ったぐらいで調子くれてやがる少年にお返しの回し蹴りを食らわせてやる。
「ぐっ」
――よし、効いてるな!
ひるんだところを一気に飛び込みさらにラッシュで畳みかける。
相手は防戦一方だ。
どうだ! てめえごときがおれにかなうわけねぇーんだよ!
わかったならおとなしくおれの友だちにぐぇぇぇっ!!!!
な、なんだぁこの燃えるような痛みはぁ――――ッ!?
ちょっと殴られただけでこの異常な痛み!
いや、何をやられたかはわかっている! おれは格闘技全般に精通しているからな!
こいつが打った場所はおれの『腎臓』!
腎臓の位置を知ってて、しかも正確に打ち抜けるとかこいつ素人じゃねえッ!!
やばい! やばいぞ! 体が動かねえ!!
い、いかん。激痛でひるんだ隙にマウントポジションを取られてしまった。
今度はおれが逆に畳みかけられる番だ。
おいふざけんなキドニー打ちは反則行為だろぉ! 再試合を要求すほげぇ――――――――ッ!!
――――結論からいうと、おれと少年の勝負は引き分けに終わった。
看守がきて止められたからね。
その後、そいつは看守に連れられてどこかに行っちまったから続きもできそうにない。
反則行為があったからノーゲームだけど、あのまま続けてても間違いなくおれが勝ってたのになぁ~残念だな~~実に残念だぁ~~~~っ!
だがますます気に入った。
名も知らぬ少年よ、おまえは友だちではなく親友にしてやろう。
そして武闘家としておれのパーティに加わるのだ。
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