シスター寮侵入 その2
シスター寮にはざっとみて四方に四つの監視塔がある。
でもまっ、きちんと機能しているのは二つだけってところだな。
監視塔に光が灯ってねえもん。
仕事テキトーだねえ。
鉄壁だという発言は撤回するわ。
こいつらじゃおれは止められそうにねえな。
さっそくおれは盗賊から譲ってもらった秘密道具を袋から取り出した。
盗賊七つ道具がひとつ『荒縄』!
見ての通り縄だ。
もちろん何のヘンテツもない普通の荒縄。
神のご加護や魔法がかかっているってこともない。当たり前の話だが。
だがこんな縄でも使い方次第では万能アイテムになりえるのだ。
おれは縄を縛って輪っかを作ると、そいつを光の灯っていない監視塔の屋根に向かっておもいっきり放り投げた。
俗にいう投げ縄ってやつだ。
投げ縄が先が尖っている屋根に無事引っかかったことを確認すると、おれはそいつを頼りに塔を登り始めた。
知ってるか? ロープ登りってけっこうきついんだぜ?
格闘家のトレーニングにも採用されるぐらい体に負荷がかかるんだ。
新米の消防士なんかにやらせてみるとできないことが結構あるそうだ。
だがおれにとっちゃこの程度の高さを登るのは朝飯前なんだな。
他の奴隷にゃもちろんマネできない。
使ってる筋肉が違うからよ。
英才教育の一環として子供のころから訓練しているおれだからこそ可能な芸当だ。
よい子のみんなはマネすんなよ!
てなわけで楽々と塔の窓をくぐって監視室まで到着したおれは、そこの階段を利用して寮内に侵入した。
単純に外壁をよじ登ろうとするよりこっちのほうが安全だと判断した。
登る分にはいいけど降りる際は守衛に丸見えな上に隙だらけだしな。
ちなみにおれは走る際に足音を立てないようにすることができる。
この手の歩行技術は隠密活動の基礎だ。
日常のどこで使うんだこのクソスキル――と思っていたが、寮の中庭を駆け抜ける際にはわりと使える。
人生、どこで何が使えるかわからんものだな。
……いや、違うのか。
このためにおれは裕福だが厳しい家庭に生まれ、苦しい訓練を積んできたのかもしれない。
かもしれない?
いいや違うね。
これはすでに確信だ。
選ばれし者。
そうだ、おれは神に選ばれし者なんだ。
だからおれのやろうとすることを妨げられるやつなどいない。
否、妨げてはならないのだ。
中庭を抜けて裏口から寮へと侵入する。
ここまでは予定どおり。
問題はここからだ。
イリーシャの部屋がどこにあるか。詳しくは知らない。
だが大方のあたりはついている。
イリーシャはラシド神父のお気に入り。
そしてロビンのような貴族から求婚される立場にある。
この寮の姫君といってもさしつかえないだろう。
つうかユーウェイおばさんがそんなことを口にしてた。
そのような高貴な立場であらせられる彼女が、他の凡俗どもと一緒の部屋にいるか?
んなわけない。
本人の意思に関係なく特別扱いされているに決まっている。
まるで城のようなシスター寮には四方に監視塔がひとつずつある。
それとは別にもうひとつ、中央に大きな尖塔が伸びている。
ここなんて怪しいんじゃないかな?
行く価値はあると思うんだよね。
仮に間違っていたとしても問題ない。この程度のセキュリティいくらでも突破できる。何度でもチャレンジしてやるだけだ。
だが、おれは確信している。
必ずあそこでイリーシャと二人きりになれると。
おれとイリーシャは結ばれる。
そういう運命にあるんだよ。
だからおれは見つからない。
いや、たとえ見つかったとしても捕まらない。捕まえられない。
運命っていうのは誰にも覆されないものだからな。
だが顔はマントで覆って隠しておこう。
いや、念のためね。念のため。
これでもおれは用心深いのだ。
意外と用心深い




