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戦後処理


 人類連合と機人軍団の未来をかけた大戦争は、人類連合の勝利に終わった。



 勝利の決め手はやはり挟撃だったそうだ。

 イドグレスの防衛システムが途切れてレギンフィアの防御が手薄になった瞬間、背後からゴルドバの指揮する伏兵が襲いかかったのだ。



 でも結局エルセクトにとどめを刺したのはロイヤルズらしいけどな。

 途中からゴルドバの軍と合流したアーデルが、全力全開の女神賛美歌をぶち込んでしとめたとのことだ。



 さすがはアーデル、見事な汚名返上だ。

 ラザフォードもこれならあまり文句はいえまい。



 めでたく勝利を飾った人類軍だが……やはり無傷というわけにはいかなかった。



 魔王軍の損耗率約三割。

 オーネリアス軍の損耗率約四割。

 ウォーレン軍に至っては六割以上にものぼる壊滅的被害を被ってしまった。

 傷は決して浅くはない。



 だがそれでもおれたちは勝利したのだ。

 あのままエルセクトを放置したとすれば、世界中に蜘蛛が蔓延る最悪の未来だってありえたのだ。

 兵士たちの死は決して無駄ではない。彼らはみな等しく英雄だ。



 おれもその中に加わるつもりでいたのだが、生き延びてしまった以上はしかたない。

 英霊になりそびれたおれは、生者としてできる義務を果たすのみだ。





 現在のおれは、連合軍総司令として戦後処理にあたっている。

 これが終わったら職を辞するつもりだから最後のお勤めだな。



 いや、これがすげえ大変でな。

 ホントは遺族ひとりひとりに弔慰しにいきてえんだけど、さすがにそんな余裕はなかったわ。



 もうすでに数えきれない回数の会議に参加してるんだけど、四国もいると意見をすりあわせるのがホント大変。しかも定期的に兵を出さなかったマイラルに矛先が向くもんだから調整役のおれも焦るわ。



 マイラルにも一応、応援要請を出したんだけど、自国には関係ない話だってつっぱねられたんだよなぁ。



 おれはそのことについて恨みには思ってねえけど、他国の連中はそうもいかねえ。

 このまま連合軍でマイラルを包囲して、今回の戦争で使った金を立て替えさせようなんて意見が力を持ってきたときは、さすがのおれも土下座したね。これぞ正しく土下座外交よ。

 どうもエルメドラには土下座の文化がなくて意味不明の行為だったらしいが、いちおう誠意らしきものは伝わったのでオッケーとする。



 こういう制裁行為は後々、必ず軋轢となって世界に黒い影を落とす。

 ここだけは辞める前にしっかり締めておかないとな。





 一通りの戦後処理が終わった後は、おれの処理けじめの時間だ。



 辞職してまず最初にやったことは、世話になった人間へのあいさつ周りだ。

 まるでリーマンみてえだが今回ばかりはマジで世話になったからしかたねえ。

 特に病床に伏せるアリンダさんにはまっ先に会いにいったね。



 てっきり怒られるものかと思ったが、めちゃくちゃ泣かれた。

 泣かれるのはとても困る。これなら怒られたほうが遙かにマシだった。

 イルヴェスサも泣きながらこれからは家族一緒に生活しようなんていいだすからマジで困る。

 今後のことは後日、彼女たちと話し合って決めようと思う。



 カルヴァン夫妻に別れを告げた後は、魔法騎兵隊にあいさつにいった。

 信じられない話だが、こいつら先の戦争でもほとんど損耗がねえんだよなあ。

 マジで世界最強の軍隊のようなので今後とも仲良くしておいて損はない。



「久々に楽しい祭りだったわい」



 とはマジックさんの言。

 余裕しゃくしゃくな態度が何となく気にくわないので、今度会うときはシグルスさんと一緒に来ようと思う。



 ああ、そうだ。ついでにリグネイア王に戦勝報告もしといた。

 めっちゃよぼよぼのじいさんだったよ。

 適当にほめられて勲章をもらったけど正直要らねえ。

 実は元戦争犯罪人だって告白したらどんな顔をするだろうか。

 いや、さすがにやんないけどね。



 イドグレスに向かうために飛空艇を借りようと空軍に向かったが、着いたそうそうやたら歓迎された。


 指令は命の恩人だと頭を下げられるが……おれはただソルティアにスフィアを貸してくれって頼んだだけなんだけどな。


 まあ、おかげであっさり飛空艇を借りられたわけだがね。

 おまけに操縦手と護衛までつけてくれるといういたれりつくせり。

 自分で運転できるからいらんのだがね。





 一番速い飛空艇でかっ飛んで、イドグレスで世話になった連中にあいさつして回る。



 特にリチャードさんには本当に世話になったので、リグネイア名産『コッゲ鰻のパイ包み』を持って行った。

 何か微妙な顔をされた。

 珍味だが結構うまいと思うんだがなあ。



 レギンパレスはゴルドバのおかげですでに大半が復旧していた。


 やっぱあいつはすげえわ。

 やたら謙遜してたけど、あいつも陽介に負けず劣らずの天才科学者なんだろうな。

 戦ったら負けそうだから和解できてよかった。



「マサキ先生、おひさしぶりです」



 到着早々、青髪の美少女に声をかけられる。

 一瞬誰だと思ったが、これがイドグレスのインテリムボディらしい。

 聞けばイドグレスのメンタルモデルは女性なんだとさ。マジか。



「復旧は順調みてえだな」


「はい、おかげさまで。何もないところですが、是非ゆっくりしていってください」



 あんたにゃ悪いけど、これでも急ぎの旅でね。

 おれは土産の『ウグレレ蛙の姿焼き』を渡すとそそくさとレギンパレスを後にした。

 去り際になんか微妙な顔をされたが見なかったことにした。





 飛空艇を返却したおれは、船に乗ってオーネリアスへと向かった。

 あそこには懐かしい顔ぶれがたくさんいるし、何よりおれの職場があるからな。



 会議室でうんざりするほど会ったが、いちおうオーネリアスにあいさつしとく。

 祝儀の日はいつにするかと訊ねられたので適当にはぐらかしておいた。

 何度もいうがおれはリア王以外の王にはなる気はねえ。



「いい顔をしてるな。大事を為した男の顔だ」



 とのことだが、話半分に聞いておく。


 まあスッキリはしたかな。

 すべてを出しきった感はある。



 その後、近隣に住んでいるセスタ姉妹とエドックに顔を見せてから、ようやく我が職場であるスケープゴート商会に戻ってきた。



「会長、あんたなんで軍人なんてやってたんですか!」



 事務所に入ると副会長のスネイクくんが血相変えて飛んでくる。

 こう見えておれがいない間、スケープゴート商会の運営を一手に担っていた敏腕ビジネスマンだ。

 名前通り蛇のように狡猾で冷酷な男かと思いきや、留守がちのおれを決して見捨てない忠臣だ。外見はひょろ長くて蛇みてえだけどな。



 ゆくゆくはこいつに商会をくれてやるつもりでいるが、これがなかなか首を縦に振らねえんだ。

 会員全員、こいつが事実上の会長だって思ってるだろうに。



「色々あってな。なりゆきだよなりゆき」


「成り行きで戦場で戦う商人がどこの世界にいるんですか!」



 ははっ、それがここにいるんだな。

 世の中広いし、探せば結構居るんじゃね?



「だがおかげでウォーレンとの国交を回復した上に、四国の王とのコネもできたぞ。これからの商会は成長していくぞ!」


「あいかわらず会長はスケールが違いますね。これでも自信家のつもりでしたが、あなたにはかないませんよ」


「そういうな。おまえにゃいずれ会長職を継いでもらわにゃいかんからな」


「いっときますが会長がご健在な内は就く気はありませんからね! だからあんまり商会を空けないでくださいよ!」



 なんつーか、色々ともうしわけない。

 おまえたちにはいらん苦労をかけさせたわ。



 だがこうして戻ってきた以上はバリバリ仕事するぜ。

 とりあえずは国交を回復したウォーレンとの取引だ。

 あそこには最後のけじめが残っているからな。


あの日の約束を果たす時が来た

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