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最終決戦 その6



「……ダメだったか」



 血ダルマになってひざまずくおれの姿を見て、陽介は心底ガッカリしたような声でつぶやいた。



「冗談だろリョウ、僕はただ指を出したり引っ込めたりしてただけだよ?

 12.7ミリ機関銃も高出力レーザー砲も使わないであげたのに、もうその有様?

 確かに戦車程度何台来ようがモノともしない強力な機人だけど、君ならきっと倒せると信じていたのに。まったく手も足も出ないなんて……少しガッカリだよ」



 無茶苦茶、いってやがるな、この野郎。

 そんな、化け物に、ただの人間のおれが勝てるわけ、ねえだろうがよ。



「まあ君はラッキーマンだから、もうちょっと待ってみたら何かしらの奇跡が起きるかもしれないな。いやぁ実に興味深い。君みたいに科学で推し量れない人間が本当にいるなんてね。すばらしい研究対象モルモットだ。旧人類もまだまだ捨てたもんじゃないなあ」



 こ、この、野郎……さんざん仲間だの何だのいっておきながら、結局おれもただのモルモットって、ことかぁ?



「……もういいかな。 じゃ、そろそろ始末するかな。それともあきらめて降参して軍門に下る気になった? 今ならまだ考えてあげてもいいよ」



 悔しいが、今のおれの力では、ここまでが限界のようだ。



 だが、タダでは死なんぞ。

 絶対てめえも、道連れにしてやる。

 だから、もうちょっと、近づいてこいや。



「これだけやられてもまだ剣を強く握り締めているけど……ああ、もしかして僕が調子に乗って近づくのを待ってる?」



 くそ、やはりバレてるッ!



「誘いに乗ってあげてもいいけど、ちょっと怖いからやめとくよ。見たところ失血が酷いみたいだし、このまま放っとけば出血多量で死ぬんじゃないかな。それまでのんびり待つとするよ」



 ちっ……さすがは天才。

 すべて、見透かされてやがる……ッ!



「へっ、ビビってるの……かよ。臆病者の、大魔王もいたもんだ……」


「天の邪鬼な人間なものでね、来いっていわれると行きたくなくなるんだ。そんなことより早く降参したほうがいいよ。また君みたいなのを造るのは手間と時間がかかりそうだし」



 あ゛あ゛?

 舐めてんじゃ、ねえぞコラァ……ッ!

 今すぐ、ぶちころしてやるから、こっちに来いやッ!



「……そろそろ限界かな?」



 まずい、意識が、朦朧と、して……きた……。



 こ……このままじゃ、何も出来ずに、くたばっちまう……ぞ。



「さよなら、マサキ・リョウ。君の存在は、決して無駄ではなかった」




 グラァ。




 別れの言葉と同時に、コントロールルームが大きく揺らいだ。





「何事だ!?」



 どうやら緊急事態のようだ。陽介が慌ててこっちに向かって突進してくる。

 ああ……そういや制御装置は、おれの背後にあったな。



 千載一遇の好機じゃねえか!



 ケッ、おれの体もゲンキンなもんだ。

 勝ち目が見えてきた途端にふつふつと力が湧いてきやがる。



 野郎ぉ、目にもの見せてやるぜぇ!



「邪魔だ!」



 だがおれの体は、陽介にとりつく前になぜか横方向へとぶっ飛んだ。

 おそらく反重力魔法だ。



 くそったれ! この鉄クズ、魔法も使えるのかよ!?

 しかも重力操作なんて、とんでもない高等魔法だぞ!

 神を名乗るだけのことはあるってか!



「スフィア! 何が起きたか報告しろ!」



 陽介がゼノギアを制御装置に直結させて命じると、スフィアのモニターは地上の様子を映し出した。



 激しい戦闘ですっかり荒れ果てた大地。



 そこに悠然と立ち尽くす一匹の巨大なドラゴン。



 その全身は、まばゆいばかりの白銀に包まれていた。




「シグルス! 馬鹿な、なぜ戻っている!?」




 シグルスさんの口から白煙があがっている。

 どうやらあのひとがスフィアを砲撃してくれたみてえだ。




「リョウ! 貴様、まさかこんな奇跡を――――ッ!!!」




 ふっ。



 ふふっ。



 こいつは、奇跡でも何でもねえぜ。



 シグルスさんが、

 おれの憧れた最強の男が、

 てめえごときに負けるわけねえだろ?



「クソがぁ! 何が起きたのかはわからんが仕方がない、計画は変更だ!」



 室内にけたたましいアラートが鳴り響く。

 モニターに映し出されたスフィアの被害状況を見る限り、どうもさっきの一撃でコアを撃ち抜かれたみてえだな。



「――ただし、ほんのわずかだけだ」



 確信した。

 このスフィアは、もう持たない。


 さすがはシグルスさん、精密射撃もお手の物。

 あんたみてえにすげえ男と出会えたことが、おれの人生一番の自慢だぜ。



「スフィアを脱出する。転送装置の準備を!」



 ――おっと、そいつはさせねえぜ!



 スフィアの転送準備が整うまであと数十秒。

 それまでにここのシステムを破壊しちまえばおれの勝ちだ。



 おれは最後の力を振り絞り、制御装置に向かって突撃する。

 ゼノギアの装甲を抜くのは無理でも、精密機械をぶち壊すぐらいは簡単だ。



「悪いが、君と遊んでいる暇はもうないんだ」



 だが、おれの最後の特攻はあっけなく陽介に阻まれた。

 怪我と失血のせいでおれの動きにキレがないっていうのもあるが、威力もスピードもさっきまでとは桁違いで、もはやかわせる次元の攻撃ではなかったのだ。



 陽介の手から伸びた5本の指が、おれの全身を紙切れ同然に刺し貫いていた。



 一本めは右腕。

 二本めと三本めは腹。

 四本めは喉。



 五本めは、心臓だ。



 いうまでもなく致命傷――――だが、ようやく捕まえたぜ。



 貫かれていない左腕で伸びきった指を掴んでやると、陽介の懐まで一気に運んでくれる。

 実に便利な移動手段だ。サンキューゼノギア。



「無駄な抵抗だな。哀れなものだ」



 哀れなのはおまえのほうだぜ。



 おまえは孤独さ。

 いつでも、どこでも、これからも、ずっと独りで生き続けるつもりなのだろう。

 自分以外の人間を玩具にして遊びながらな。

 それができるだけの『強さ』を持ち合わせているから。



 確かにおれは、おまえほどの強さは持ち合わせていない。

 頭脳も、エゴも、何もかも、おまえには遙かに及ばない。

 戦えば負けるのは必然だった。



 だがおれには仲間がいる。

 仲間がいるからおまえとも戦える。

 独りでは勝てなくても、力を合わせればおまえに勝てる。

 そのことを今、証明してやるよ。



「お、おい、貴様まさか……ッ!」



 くっくっくっ、ようやく気づいたか。



 おれの胸に仕込んであった竜牙の首飾りに、すでに火がついていることに。

 いやはや、ゼノギアの性能はたいしたもんだぜ。何しろアーデルの黒剣ですら傷つけられなかった首飾りを、おれの心臓ごと貫いちまうんだもんな。



 だがこいつはとても繊細でね。

 破壊された瞬間、首飾り内の魔力が暴走して大爆発しちまうんだ。

 一種の爆弾みたいなもんだな。まあ危険物だよ。

 もっともそれがわかってて、あえて肌身離さず装備していたわけなんだが。




 シグルス・レギンから託された神殺しの魔力。

 こいつをおまえに確実に届ける方法をずっと考えてたが……やっぱ自爆これしかないよな。




「バカ、考え直せ! 至近距離でそいつを爆発させたらおまえも死ぬぞ!」



 バカはおめえだ。

 おれは致命傷を受けてとっくに死んでんだよ。

 後はあの世で寂しくないよう、てめえを道連れにするだけよ。



「やめろ! やめろ! やめろ! やめろ! やめろ!

 この俺を誰だと思っている、このちっぽけなクソガキがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」




 何度か経験したが、死に際ってのは頭の中がクリアになるもんだな。

 でも今回はいつも以上に鮮明だ。



 ……こいつは走馬燈ってやつかな。


 色んな出来事がものすげえ勢いで頭をよぎりやがる。




 エルメドラではじめて奴隷にされたこと。


 イリーシャと出会って初恋を経験したこと。


 ヴァンダルさんに文字を教えてもらったこと。


 ミチルにしこたまボコられたこと。


 マリガンさんに本を買ってもらったこと。


 リリスお嬢さまから拷問を受けたこと。


 ミネアさんと一緒に商会を立ち上げたこと。


 オーネリアスの無茶ぶりのおかげでシグルスさんと出会えたこと。


 ノーティラスやアーデルと親友になったこと。


 マリィの弟子になったこと。


 マジックさんと交渉したこと。


 オネットにいじめられたこと。


 グゥエンの腕を叩き斬ってやったこと。


 イルヴェスサたちの養子になって家族体験をしたこと。


 ゴルドバをぶん殴って神さま討伐に協力させたこと。


 デンゼルと話し合ってちょっとだけ共感したこと。



 田中と何度も闘い、そして和解したこと。




 はははははははははははははははははははははははははっ!



 なんだなんだ、思い返せば愉快で楽しいことしかなかったじゃないか!!



 もう充分だ。お腹いっぱいだ。

 おれの人生は最高に充実していた。

 これ以上はもう要らねえわ。



 満足……だっ!



 おれは……満足、もう一片の悔いもない。







 ありがとう。



 それ以外の……言葉が、見つから……ない――――……













感謝しかなかった

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